第五十六話 粛清

 私は、ナルシスの件で学んだことがある。


 この国の男子は女性を下に見ている節がある。

 女性が多く存在していて、男性が大切にされていることもあり、つけあがる男が増えてしまうのだろう。


「アルファ」

「はっ!」


 私が呼びかければ、控えていたアルファが資料を差し出した。


「なるほど、三人は伯爵家、子爵家、男爵家なんだね」

「はい。三人とは、ブラックウッド侯爵家よりも下に家になります」

「そう、そんなことはどうでもいいんだけど、アング家もそうだけど、どうしてこの世界には人の価値が低いのかな?」


 学べば学ぶほど、女性は尊い生き物だ。

 男性など、我儘でバカなことばかりする。


 ナルシスが私を貶めたのも、自分の地位を守りたいからだったのだろう。

 そして、三馬鹿は獣人を奴隷として、全てを手に入れようとしていた。


「アルファ、私はね。過去に戻れたことでいくつか決めていることがあるんだ」

「はい」

「私を思ってくれる女性には最上級の幸福を返して大切にする」

「はい。わかっております」

「そして、私に敵対する相手には、《悪男》と呼ばれようと徹底的にわからせる」


 私は見終わった書類に雷で火をつける。


「こいつらは、女性を……、獣人を人とも思っていない」

「そのようです」


 アルファはいつものメイド服ではなく、黒いボンテージを着て、仮面をつけている。


「私はこういう輩がどうにも許せないようだ。アング子爵のように女性であれば、まだ許せた。そして、ナルシスはナルシスなりに努力家であり、策略家として性格と性根は私とは合わないまでも、王女様に選ばれる男だと思えた。だが、こいつらはダメだ」


 全ての書類が燃え尽きた。


 三人の写真が壁に突き刺さっている。


「リシ」

「はっ!」

「アロマ」

「うん」

「ミーニャ」

「かしこまりました」

「ウルル」

「主人様の思うがままに」

「ポリン」

「ガウ」


 私の命令を待つように控える彼女たちは、私を大切にしてくれて、私が大切にしたい女性たちだ。


「どうにも私はこの三人を粛清しなければ気が済まないようだ」

「マクシム様の思うがまま」

「「「「「マクシム様の思うがままに」」」」」

「ありがとう。君たちに協力してほしいとは言わない。これは男同士の問題であると私は思っているんだ。単純に私が彼らを気に入らない。理由はそれだけだ」


 なんと理不尽な理由だと言われれば、その通りだ。

 正当な理由などありはしない。


 むしろ、この王国では彼らの行いの方が、正しいと言われることだろう。


「マクシム様」

「なんだ? リシ」

「例え、王国で悪だと言われようと、それがマクシム様の望むことであれば、我々は従います」


 それは真面目で、正義感が強いリシが言ったとは思えない言葉だった。


「私たちはマクシム様に助けられたものたちです」

「そうなのだ!」

「どんなことでも、マクシム様が進む道についていきます」


 獣人の三人娘がりしに習って膝を折る。


「私はマクシムの正妻。妻は夫と共に地獄に落ちるもの」


 全員、私と共に地獄へ落ちると言ってくれる。


「我々はマクシム様に全てを捧げているのです。お一人の問題なんて言わないでください。どんな願いも、どんなことでも、私は。私たちはマクシム様に従うつもりなのです」


 アルファは、過去も、未来も、そして、今も変わらない。

 常に私を支えてくれる。


「ありがとう。ならば、私は君たちの協力をもって、彼らを粛清しようと思う。ここからの道は決して、正しい道ではない。聖なる道でもない。私が歩むのは、どこまでも悪と呼ばれる道だ」


 立ち上がって私が宣言をすれば、彼女たちは膝をおって頭を垂れてくれる。


「うん? 何をしているんだ?」


 扉が開いて、アカネが入ってきた。


「なんでもないよ。アカネ」

「そうか? なんだかみんな集まって、のけ者にされた気がするぞ」

「はは、そんなことはないよ。みんなで今日の夕食を何にするか話していたんだ。アカネは何が食べたい?」

「肉!!!」

「はは、なら肉を食べに行こう」

「いく!」


 私はアカネの背中を押して部屋を出る。

 彼女たちには準備を始めてもらう。


 例え、悪の道であろうとバレなければ誰にも咎められない。


 そのための準備をしてもらうのだ。



《sideアルファ》


 主人様が部屋を出ていくのを確認して、私は立ち上がる。


「ふふふ。マクシム様が、とうとう本気になられました」

「嬉しいですね。マクシム様のご命令なら、どんなことでもできそうです」

「マクシム様こそが正義」

「マクシム様と一緒に暴れるのだ!」

「ふふ、マクシム様に捧げたい」

「みんな、ありがとう」


 アロマ様が五人に向かって頭を下げる。


「どうされたのです?」

「私も参加させてくれて、本当は従者だけしか呼ばれていなかった。だけど、私も仲間に入れてくれたこと嬉しい。私もマクシムために頑張る」

「ええ。もう同じ男性を愛した仲間です。協力をお願いします。そして、何かあったとき私たちではマクシム様を助けられません。アロマ様の権力を私は利用させてもらいます」

「ふふ、任せて」


 私は、アロマ様と対等な立場で握手をしました。


 これは全てマクシム様のために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る