第五十五話 ツンデレ王女

 私は獣人王国の女王であるガリアさんとの異文化交流を進めることにしました。アロマやミーニャ、サラ先輩から、ガリアさんの態度について聞かされていたので、ツンデレという態度を取られていることを理解した。


 女性の性質は難しいが、恥ずかしいあまりに素っ気ない態度をとってしまうそうだ。女性の心情は本当に難しい。


 どうして、好きな相手に冷たくしたり、厳しく当たるのか? いや、私も王女様以外の人間には厳しく当たったことはある。

 それは王女様以外の人間には優しくしては行けないと勝手に思っていたからだ。


「今日はランチを一緒にしてくれて嬉しいのにゃ!」

「こちらこそ、私に付き合わせてしまって申し訳ありません」


 緊張した様子のガリアさんはいつもの元気な様子ではなく、借りてきた猫のように椅子に小さくなって座っている。


「とんでもないのにゃ! マクシム様は、私のことを考えてしてくれたのはわかるにゃ。アロマにゃと、ミーニャがいっぱいマクシム様と仲良くできるように頑張ってくれたにゃ」


 この子は悪い子じゃない。


 ちゃんと周りのことを考える子なんだ。


「少しずつで構いません。良ければ、仲良くなりませんか?」

「うっ、嬉しいにゃ! さっ最初は文通からお願いしますにゃ!」

「文通? ふふ」


 見た目は肉食系なのに、中身はとても優しい人なんだろう。


「だっ、ダメかにゃ?」

「いいや、文通からしていきましょう。お互いのことを知ることから始めるのに丁度いいと思います」


 こういうのは新鮮だな。

 女性は、積極的で常に甘えて体を擦り寄せてくるのが多かった。


 ガリアさんのようにお淑やかで、控え目な人は初めてかもしれないな。

 一番近くて、真面目なサラサさんかな?


「ちょっといいっすか? ブラックウッド先輩」


 名前を呼ばれて意識を向ければ、チビでソバカスだらけの男子生徒がそこにいた。ナルシスのようなイケメンでもないようだ。


「誰だ?」

「これはこれは、学園の一年として入学した。ダイ伯爵家のダビデと申します。こいつらはシカ子爵家、ウマ男爵家の男子ですよ」


 後に控えるデブでお菓子を食べている二人の少年。

 どっちもかなりガタイが良い。

 鍛えれば、強くなれそうで面白いな。

 

「ダビデ? すまないが、知らないな。それに今はお客様とランチをとっているんだ。挨拶ならもういいだろ?」


 私は三人を確認して、視線をガリアさんに戻した。

 ガリアさんは、どうしたら良いのか戸惑っているように見える。


「ちょっと待ってくださいよ。お客様? 獣人王国の女王だとか?」

「ああ、そうだ。ガリアさんとランチを取る約束をしていてな。すまないが先約がいるんだ。遠慮してくれないか?」


 話が以上なら、これ以上は話していたくない相手だ。


「すいませんが、その役目代ってもらえませんかね?」

「はっ?」

「にゃ?」


 何を言っているんだこいつは? 


「いやね。男であれば誰でもいいんなら? 俺様たちでも問題ないでしょ? むしろ、侯爵家のマクシム様では、獣人王国に嫁ぐことできない。なら、俺様たちなら獣人王国に嫁ぐことができます。お互いの利益について考えるなら、俺様たちの方がいいでしょ?」


 私は腕を考える素振りをする。

 いや、まさかここまでバカな者がいると思わなくて、驚いてしまった。

 

 相手への敬意も何もない。

 何より、これでは私だけではなくガリアさんへの侮辱になるとは考えないのだろうか?


「いや、意味がわからん」

「はっ? あんたはバカですか?」

「バカではないが、そうだな。お前の言いたい獣人王国にお婿に行きたいから、代わってくれという意味は理解できる。だが、今日は私がガリアさんと約束してランチに来ているのだ。貴様が、ガリアさんと正式に約束してランチを取ればいい。わざわざ私が代わってやる意味がわからん。帰れ。私に失礼なことを言ったことは忘れてやる」


 ふと、処刑される前のナルシスを思い出した。

 今の、ナルシスは私に殴られてからは大人しくしていた。

 だから、別の変な虫が湧き出てきたのかもしれないな。


「すみません。王国の恥をお見せしました」

「なっ、なんのにゃあれは?」

「私も初めて会うのは、どうやら躾がなっていないようです」

「ひっ! まっ、マクシム様は、そんな顔もできるのにゃ?」

「えっ? すいません。怖かったでしょうか? 自覚はありませんでした」

「そっ、そうなのかにゃ? いつもの優しい雰囲気とは違って、戦士のようだったにゃ!」


 どうやら、ナルシスにトラウマがあるように、無礼な男や迷惑な男には、嫌悪感を抱くようになっているのかもしれないな。


「今日は邪魔が入ってしまってすみません。後日、もう一度ランチをしてくれますか?」

「いいのかにゃ?」

「全然問題はありません。文通もして、お互いを知り合えば、もっと楽しく話ができると思うので、どうぞ今後もよろしくお願いします」

「嬉しいのにゃ!」


 あいつらが来てくれたおかげで、ガリアさんの緊張が取れて、ツンデレも治ったのだろうか? 女性はやっぱり不思議だな。


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