第五十二話 怪しい視線

 私は最近、変な視線を感じるようになった。

 最初は、護衛をしてくれている三人かと思ったが、どうやら違うようだ。


 元々、女子生徒からの視線を感じることは多かった。

 だが、ここ最近は毎日と言ってもいいほど視線を感じる。


「それで? 私のところに逃げてきたと?」

「ああ、私一人では振り返っても誰もいないことが多いのです。サラ先輩なら、わかるのではないかと思いまして」

「ふふ、そんな簡単なことは容易いけど、どうしようかな?」


 サラ先輩は図書館の妖精というだけあり、図書館内にテリトリーという空間魔法をかけているそうだ。

 だからこそ、私が最初にきた際に本の場所を特定して、教えてくれることができたのだ。


 そして、図書館に入ってきた異物がいればすぐにわかってしまう。


「なら」


 私も少しは先輩にやり返せるようになってきたので、先輩に近づいて、ぎゅっと頭を抱きしめた。


「なっ!」

「どうですか?」

 

 私はさらに先輩の頭を撫でてあげる。

 イタズラをしてくる先輩だが、やられるのは案外弱いことを知っている。


「もっ、もう、仕方ないなぁ〜。マクシム君って、結構悪い男だよね。女をこんな方法で誘惑して使うなんて」

「そうですか? 嫌だったですか?」

「いっ、嫌じゃない」

「ならいいじゃないですか?」


 私は少しだけサラ先輩への接し方を学んだ。

 

「む〜、なんだか段々掌の上で転がされている気がするよ〜」

「サラ先輩は可愛いので、つい構いたくなるんです!」

「もうもうもういいよ。わかった。わかりました。教えてあげるから」

「ありがとうございます」

「君の位置からは見えないように気配をしけてのぞいている子がいるよ。もちろん女の子だけど、私は初めて見る子だね。一応獣人? だから新入生じゃないかな?」


 私はミーニャたちではないことはわかっているので、それ以外の獣人と言われると最近転校してきた獣人王国の物かと思うが、何を目的にしているのかわからない。


「なるほどね。他国の獣人さんか。う〜ん、私の持っている知識で言うなら、獣人国って聖なる木を守護する一族なんだけど、男性不足は次第にひどくなっているんだよね」

「男性不足?」

「うん。前に話した亜人の国が存在しているって話を覚えているかな?」

「ああ、覚えているよ」

「その中でも、人の国と交流を断絶しながらも密かに交流があるのは、獣人族なんだよ。だから、王国内でも見ることができるんだけど。その獣人王国は、近年男性不足に悩まされているようだね。王国の男性が1/100だとしたら、獣人の国は、1/500とも1000とも言われているよ」


 それは随分と深刻なことだ。

 それでも獣人王国の女王だと言っていたから、優遇される立場にいるはずなので、子孫繁栄はできるはずなのだ。


「う〜ん、案外マクシム君に会って惚れちゃったとか?」

「そんなことがありますか? 他国の男性を好きになるものなのかな?」

「マクシム君はあり得ない?」

「一目惚れというのはあり得ないですが、次第に知り合って好意を抱くことはわかります」


 私はもう間違えたくないと思っている。

 好きになってくれてる子達は大切にしたい。


 だけど、自分が本気で好きになって一途に周りが見えなくなるのは怖いと思ってしまう。

 それはどこかで本気で女性を好きになることにブレーキをかけているような気がしてならない。


「うんうん。なら、前にも言ったけど君には、世界を知って欲しいんだ。オーガの女の子。アカネちゃんのように君は自ら世界を広げてほしいな。だから、少しだけ手助けをしてあげる」


 サラ先輩が指を鳴らすと、図書館の空間が歪んで配列が変わっていく。


 それは隠れていた人物を丸見えにしてしまった。 


「なっ!」

「あ〜。やっぱり君だったか」


 赤茶色い毛並みが豪華でありながら、小柄な体がアンバランスな可愛らしさを見せるガリアがそこにいた。


「よっよう。偶然ではないか? たっ確かマクシムと言ったな。こんなところで出会うとはな」


 この状況で偶然を装うとするとは、意外に面白い人物なのか?


「いや、最近ずっと私をつけていただろう? 何か用があったのではないか?」

「あっいや! それは」


 見る見る顔を赤くするガリアさんに、私は首を傾げてしまう。


「ははぁ〜ん。お姉さんわかっちゃった。マクシム君。ちょっといい?」

「はい? どうしました?」


 私はサラに耳を貸して欲しいと言われて、サラの口元に耳を近づけると耳をカプリと噛まれた。


 ゾワっとして体が震えてしまう。


「ハゥ!」

「なっ!!!!!」


 私の反応にガリアが気を逆立てて驚きを示した。

 続いて、モジモジと股を擦り合わせて、涎を垂らし始めた。


「やっぱり」

「えっ?」

「多分だけど、彼女はさっき話していた通り、君に一目惚れしたんじゃないかな? だけど、初めて意識する他国の男性に、どうやって声をかけていいのかわからなくて、後をつけていたんじゃないかな?」


 サラ先輩の言葉に驚きながら、ガリアさんを見る。


「えっと、君は」

「ちっ、違うぞ! 私はお前のことなんて好きじゃない! 好きなんてあり得ないからな。獣人は誇り高い生き物なんだ! 自分から好きなんて言わないんだからな!」


 そう言って図書館を飛び出して行った。


「あれは?」


 私はよくわからないガリアさんの態度に戸惑い。

 サラ先輩を見れば。


「ぶははははは、初めて感満載じゃん! 超面白い! いや、あれはもう好きって言っているもんでしょ。あの子面白いね。まぁマクシム君か嫌いじゃないなら構ってあげたらいいと思うよ」

「まぁ少しずつやってみます」


 私としても、世界を広げるために、ガリアさんと仲良くなるのはやぶさかではない。

 

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