第五十一話 三人娘は構われたい

 学園に通い出して、一年が経とうとしている。

 ミーニャを含めた、ウルル、ポリンが入学してきた。

 彼女たちは私の護衛ということで、一年下の学年に入る。


「お前たちは私よりも強いのか?」


 早速、アカネが序列がどうのと言い出して、ミーニャたち三人に喧嘩を売ってしまう。


「すまない。ミーニャ。私の躾がなっていなかった」

「いえ、マクシム様。私たちも護衛として、三年間、みっちりとベラ様に鍛えていただきました。力を示すときに丁度良い相手です」


 オーガのアカネに対して、ミーニャは微笑んだ。


「誰からするんだ! 私は誰でもいいぞ!」


 筋肉を肥大させて、相手を威圧するアカネに対して、ミーニャが前に出る。


「まずは私からでしょう。一番強い私が、元気な時にやらなければ不公平になりますから」

「舐めてるのか? 雌猫!」

「うるさいですよ。筋肉ダルマ」

「殺してやるよ!」


 初手はアカネが動いた。


 私は、ミーニャが強く成長してくれたことを嬉しく思っている。

 孤児たちは皆、あれからもブラックウッド家が主となって支援を続けている。

 グレースが調達してくれた資金を使って、人材育成にも力を入れ出した。


 ブラックウッド領はますますの発展を遂げていることは手紙で知っている。


 そして、ミーニャはその第一段階として、私が知らなかった亜人種の成長を見定めることになる。


「うらっ!」


 アカネは弱くない。

 魔物の森に行けば、上位に入る実力を持つ。

 戦闘技術が乏しいために、アルファやリシには及んでいないが、ちゃんとした指導者がつけば強くなれる素質を持っている。


 現在は学園で私の従者という立場から、アルファにメイドとしてのイロハを習っているところだ。

 一年という期間では、人の社会で生きていくルールや話し言葉など普通のことを教えるので精一杯だった。


 森の中で生きていたのはある意味で凄いが、彼女の母親が少しだけ人と共に生活をしたことがあったので言葉を話すことができた。


「まっすぐで力強いです。だけど、それだけ」

「なっ!」


 しなやかで軽やかなミーニャの動きは、アルファやサファイアとも違う柔らかな体を使った身のこなしが可能にした体術で、アカネの背後に回って爪を突き立てる。

 そのまま引き裂けば決着だ、ミーニャはそうしない。


「一度目。まだやりますか?」


 たった一合で決着がついてしまった。


「まだまだ!」


 振り返ってミーニャを殴ろうとするアカネだが、その場にミーニャの姿はなくてあっさりと背後を取られる。


「ひっ、卑怯な!」

「卑怯ですか? いいでしょうでは、正面から相手をしてあげます」

「うらっ!」


 正面に立ってアカネが殴りかかるが、一撃もミーニャを捉えることができない。代わりに、ミーニャの鋭い爪が、アカネに傷をつけていく。


「もっ、もういい!!」

「そうですか? まぁ、後が控えていますからね」

「次は私ですね。ウルルです」


 全身から小さな傷をつけられて血を流すアカネの前に、兎人族のウルルが立つ。小さかった体は身長が伸びて可愛い尻尾が印象的だ。


「今度こそ!」

「私はミーニャほど優しく無いのです。それに手加減も下手なのです」


 そう言って高々と飛び上がったウルルは、その跳躍を生かして空中でバランスを整えて蹴り技を披露した。


 スカートなので、男性の前ではスパッツなどを履くことを推奨しておこう。


「痛い!」


 脳天に蹴りを喰らったアカネはそのまま意識を失った。

 私は小さな傷も含めて全て回復魔法もかけてやる。


「最後はポリンなのだ!」

「わっ、私だって一人くらいは!」


 さすが今までの二人で学んだのか、筋肉を下半身だけにして速度重視を選んだようだ。アカネの動きが変わる。

 だが、それはポリンにとっては悪手だったようだ。


「なんだ? 走るのか? いいぞ! かけっこ比べだ!」


 アカネがポリンを追いかけ、ポリンがアカネを追いかけるようにぐるぐるとした追いかけっこになり、最終的にアカネの体力が尽きた。


「もっ、もうダメ」

「なんだ? もう終わりか? でも追いかけっこは楽しかったからまたやろうな! ポリンは楽しかったぞ」


 どうやら、私があっていなかった三年間で、三人とも随分と成長をしたようだ。それも、戦闘技術だけでなく女性としての成長も体に現れている。


 ミーニャはスレンダーながらも柔らかで女性らしい丸みを帯びた。

 ウルルは、身長が伸びてグラマラスな体になり美しくなった。

 ポリンは、身長こそ低いが出るところは出ており、心の成長は一番遅いようだが、可愛くはある。


「我々、三人。これよりマクシム様の護衛につかせていただきます」

「ああ、大きくなったね」


 私は、一人ずつ頭を撫でてあげる。

 三人とも嬉しそうな顔をしてくれるので、ついついモフモフが気持ちよくて撫ですぎてしまった。


 三人とお腹をむけてアラレもない姿で私に撫でられるのを待つポーズをとっている。


「旦那様は凄いぞ! 私を負かした三人を手玉にとっておられる!」

「アカネ。ここからは大人の世界です。あなたにはまだ早いですよ」

「いや、私は!」

「マクシム様。三人が手篭めにされるのを待っておりますので、お部屋でお願いします!」

「まっ!」


 アルファの言葉に三人娘の目が光って、私は自室へと運ばれていった。

 

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