獣人王国

第五十一話 獣人王国の危機

 巨大な森に囲まれた聖なる大樹を城として作り替えた楽園は、危機に直面していた。

 森は魔物に侵食され、対抗できていると言っても次第に戦士も減り続けている。


「由々しき事態でございます」

「どうした?!」

「とうとう、我が国の男性が百名を切りました!」

「なんだと!!!」


 美しい姿をした獣女王は咆哮を上げて、獣人王国の危機に直面した事実にどうするべきか、日夜思考を続けていた。


「どうすればいいと思う?」

「多種族を迎え入れることでしょうか?」

「うむ。しかし、どの種族でも男性が不足しているのは変わらないだろ?」

「それはそうですが、普人族は未だに1/100程度で済んでいると言われています」

「なんと! 我々が五万の女性に対して百名の男性だというのにか?」

「はい!」


 獣人王国と普人族との交流は断絶して久しい。

 断絶した理由として、獣人を乱獲して奴隷としようとする。

 普人族がいるからだ。


「もしも、普人族を受け入れたとして、獣人たちが奴隷として乱獲されてしまえばどうすれば良いのか?」

「一つ、案があります」

「なんだ?」

「私の姉が、王国にいるはずなのです」

「なんと! 姉の名はなんとうのだ?」

「ミアといいます。元々、傭兵をして各地を放浪していたのですが、娘ができたから、王国で落ち着くと連絡を最後に音信不通になりました」

「まだ、生きていると思うか?」

「わかりませんが、もしも王国ならば、母親が死んでも子供を孤児院に預けるだけだったと思います」


 獣女王は、王国滅亡に直面したことで、危機的状況を打破するために王国との交流を再開しようと考えた。

 そのための一手として、ミア、もしくはその娘にアポを取って、王国の男性との交流が持てればと考えた。


「わかった。私も先導して、獣人王国の滅亡を食い止めるぞ」

「はい! 具体的にはどうされるのですか?」

「私自身が、王国の学園に転校する」

「なんと! 確かに女王は、まだ若く良いと思いますが、王国側が受け入れてくれるでしょうか?」

「まずは手紙を送ることから始めよう」

「わかりました」


 部下が立ち去っていった後に女王は一人で、聖樹から見下ろす森を見た。

 ただ、狩りをして生きていくだけでは、これからの未来を生きていくことはできない。


 それに普人族の男がどのような女性を好むのか、それも知らなければいないだろう。

 男に獣人王国に来てもらって子種をもらわねばならない。


 もしも叶うなら、私自身も番を見つけたい。


「ふぅ、王国では上手くできるだろうか? 私は粗暴な生活を送ってきたからな。数名の獣人族の美人を連れていくとしよう。強く大きく美しいエレファント族がいいか? それとも凶暴だが、強いワニ族か? 賢いのが良ければ猿人族だが、さて私はライオット族として、種族の長には向いているが、他の種族よりも大きくも、強くも、賢くもないからな。自分は好かれるのか不安でしかないぞ」


 それでも獣人王国のためにやらなければならないだろう。


「女王様! 書状が完成しました」

「うむ。よろしく頼む」

「はっ!」


 早速王国へ書状を続けて、数日後。


 王国から受け入れる旨の連絡が戻ってきた。

 ただし、迎えるのは五名までで、年齢は十五歳〜十七歳のみである。


「なるほどな。若者だけに制限して、老練な知恵を持たない者を選ぶとは王国は狡猾だな」

「はい。恐ろしくはありますが、これも獣人王国のため、女王陛下」

「わかっている。私は十六歳だ。私を筆頭に数名を選ぶ。獣人王国のことは頼んだぞ。アミ」

「はっ! ガリア様がこのような立派になられて私は嬉しいです」

「よせ、私はまだまだだ。お前がいてくれるからこそ、この道を選ぶことができたのだ」

「嬉しきお言葉です。それと、やはり私の姉はすでに亡くなっておりました」

「そうか、お悔やみ申し上げる」


 王国の慣れている者がいれば、心強かったがアミの心情を思えば、何も言えぬな。


「ガリア様、私も昔のことなので、もう姉の顔も覚えておりません。ですが、姪が生きていることは分かりました」

「姪?」

「はい。ミーニャというので、同じく学園に通うことが決まっております」

「そうか! それは心強いな」

「はっ! どうか姪のことも気にかけてあげてくださると嬉しく思います」

「ああ、私の方も頼りにさせてもらおうと思う」


 不安を抱えていたが、味方が王国にいると思うだけで、ここまで心強いとはな。


 私は三名の従者を連れて、王国へと旅立った。

 森には魔物が現れ、狩りをしながら王国へ辿りついたのは、獣人王国を出て一週間がかかってしまった。


 だが、やっとたどり着いた王国は、獣人王国とは明らかに違う発展した都市に圧倒されてしまう。


「ここが普人族の都市なのか!」


 王都に来るまでに街々を見てきたが、圧倒的な衝撃の連続だがった。

 私はここで男性を見つけるためだったが、多くのことを学ぶことができることだろう。


「よくぞおいでくださいました。私はマスターダリル。あなた方を担任するものになります」

「マスター! そうか、よろしく頼む。私はガリア。獣人王国の十六代女王だ」

「これはこれはクイーン自らお越しとは本気でございますね。それでは我が教室にご案内いたします」


 私は制服というものをいただいて、ここまできた汚れを落としてから、教室へと向かった。


 そして、私は運命の出会いをすることになる。


「なっ!」


 なんと教室に二人もオスがいるのだ。

 そして、その一人に私は心奪われた。


「おっ、お前の名は?」

「うん? マクシム・ブラックウッドだ。ガリア女王。よろしく頼む」


 私はこの男に出会うために生まれてきたんだ。

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