第四十九話 一区切り

 ナルシスが医務室に運ばれていき、イザベラ様とナルシスの従者である二人が後を追っていった。

 私はナルシスに一矢報いたことで、気持ちを切り替えるきっかけができたように思えた。


「マクシム様」


 控えの通路で、アルファが待っていてくれる。

 リシやアロマがいないところを見ると、アルファが気を利かせてくれたようだ。


「心は晴れましたか?」

「どうなのだろうな? ただ、私は自分の気持ちに一区切りがつけたように思える。イージス先輩のおかげで気持ちを切り替えることができたと思っていたが、ナルシスとの確執がこのようなことで解消されるとはな。今後も奴の動向は注意するが、私の中ではトラウマを克服したように思える」

「良う御座いました」


 私の気持ちを晴らすように、アルファはめでたいことのように声を大きくして言葉を発した。


「これで」

「よかったのです!」

「そうか。そうなのだろうな」

「はい。あのようなくだらない男のためにマクシム様の貴重なお時間を使う必要はありません」

「おいおい、あれでも花婿候補だぞ」

「国として価値があろうと、私に取ってはマクシム様に以上に価値のある男性はおりません」

「そうか、アルファは揺るがぬな」


 私はアルファに近づいて、抱きしめた。

 自信をくれたのは、いつもアルファだった。


「マクシム様?」

「行こう。私の価値をより高めて、アルファの自慢の男になるために」

「もう十分ではありますが、マクシム様が羽ばたく未来が見たいです」

「期待してくれ」


 私は闘技場を後にして、ナルシスに対して興味を失った。



 魔物の森、そこは多くの高ランクの魔物が生息しており、人が生き抜くのはパーティーを組んで浅瀬だけにしていれば良いと言われていた。


 深い深い森の向こうには亜人の国が広がり、危険な区域と言われている。


「オーガの少女よ。会いにきたぞ」


 私が呼びかければ、真っ赤な髪に小麦色の肌をした、グラマラスなオーガが現れた。


「オマエはツヨイ ニンゲン。 ナニカヨウカ?」

「私の名はマクシム。そして、男だ」

「オトコ? オトコ?? オトコ!!! オスか!!!!」

「オーガがオスという言い方をするとは知らなかったが、そうだ」

「ぐふふ、オス! オスは初めてみた!!! 我とタタカエ!!!」

「いいだろう。貴様が負けられば私に従うか?」

「ワタシがマケル? オモシロイ、オマエ勝てばシタガウ」

「いいだろう」


 私は魔物の生体について調査がしたいと思っている。

 手始めに、魔物の森で出会ったオーガ娘に協力してもらう。


 グラマラスな体型とは別に、瞳に映る純粋さ。

 オーガとして生まれたことで、持って生まれた身体能力。


「うがあああああああ!!!」


 咆哮を上げると、全身に筋肉が隆起して、ゴリゴリなマッチョへと変貌を遂げる。


「それがオーガの力か! 面白い!」


 私はナルシス戦で、上手くいった雷を纏う魔法を応用する。

 全身の反射神経を上げることで、爆発的な力を発揮するオーガ娘の攻撃を回避する。


「ナニッ!」


 私は元々、防御が得意だった。

 男性は力が弱いと思ってきたから、ベラや他の騎士たちの動きをみて先読みをするように心かけてきたからだ。


 圧倒的な暴力を使うオーガ娘。


 だが、その動きは直線的で、動きが読みやすい。

 筋肉が盛り上がって、動きは他の魔物や人よりも大きい。


「お前は真っ直ぐだな」

「ヤッパリ、ツヨイ!」

「電光石火!」


 初動が最も早く、どれだけ力が強かろうと、速かろうと。

 この一瞬だけは、私の方が早い。


「オーガよ。君も強い」


 私は木刀を持ってオーガ娘を撃ち抜いた。


「ガハッ!」


 その頑丈な体躯に木刀はたいしたダメージにもならないだろう。


「だが、これが真剣であれば、殺していた。負けを認めるか?」

「……ミトメル」

「えっ?」

「キョウカラ、ワタシはオマエのモノダ!」

「うん? 私の物?」

「ソウダ、ワタシはオマエのヨメになる!」


 先ほどまで盛り上がっていた筋肉は元の細くグラマラスな体へと戻り、力強さを残したまま私へ抱きついてきた。


「えっ! ヨメ?」

「ソウダ。オマエに従う! それはワタシのスベテヲあげること! つまり、ヨメになること」


 少しだけ頭を抱えそうになったが、モンスター娘の思考など私がわかるわけもない。これは主従契約なのだろうか? それとも夫婦契約とでも言えば良いのか?


「それで貴様は私に従うのだな?」

「従う!」

「なら、もうそれでいい」

「ヤッター!!! アルジ様、好き!」

「おい!」


 グラマラスな体が私を抱きしめる。

 不思議な物で、もっと固くて獣くさいと思っていたが、全然臭さを感じない。

 むしろ、柔らかで花の香りがする。


「私は学園で生活をしている。えっと、名前はなんて言うんだ?」

「ワタシ? アカネ! カカ様がツケテくれた!」

「そうか、アカネ。私は学園で生活をしている。後三年は学園にいなければならない。学園はルールがあり、人のルールを守らなければいけない。アカネはこの森にいるか?」

「いや! アルジ様のソバニイタイ!」

「ならば、人の生活を覚え、人と生きることを学ばなければいけない。できるか?」

「ガンバル!」

「うむ。ならば、私の言うことをよく聞いてくれよ」

「ワカッタ! 夜はマグワウか?」

「マグワウ?」


 私は言葉の意味を考えて、一瞬アカネの顔を見て、顔を赤くしてしまう。


 体は立派な女性なのに、純粋なアカネにこれからは圧倒されそうだ。



 

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