第四十八話 二度目の接触

 アルファに宣言した通り、私は積極的に女性と話をするようにしている。

 特に私を好きだと言ってくれたアロマやイージス先輩との関係は、前よりも親密になったと言えるだろう。


「本当にいいの?」

「ああ、私はアロマを受けれようと思っている。まだ、学園を卒業するまでは正式な者ではないが、アロマには私の正妻として迎え入れたい」

「嬉しい。私はずっとマクシムが好きだった。だから嬉しい」


 アルファ、リシ、グレースの三人は妾として。


 アロマを第一夫人、イージス先輩を第二夫人として考えている。


 全ては母上に報告して、互いに同意をしたらの話だ。

 卒業後は領地経営の手伝いをするつもりだが、学園にいる間は迷いの森や様々な異種族女性の研究をしたいと思っている。


 私の新たな目標だ。


 そんな私の元にナルシスから呼び出しを受けた。

 ナルシスの従者であるガーリさんが、闘技場まで来てほしいと言うのだ。

 何事かと思って、アロマたちと一緒に向かえば、王女様やイージス先輩まで観客席に座っている。


 これはどう言うことだ?


「ナルシス・アクラツ」

「マクシム・ブラックウッド」


 闘技場の中央で待っていたナルシスを呼べば、奴は私の名前を呼んだ。

 不思議なものだ。かつての私たちは互いに意味嫌いあって、私はナルシスの策略にハマり処刑されてしまった。

 

 だが、今世では闘技場で正面から向き合っている。


「僕は君に決闘を申し込む」

「どうして?」


 ナルシスが決闘をするような人物ではないと私は思っている。

 だから、何か仕掛けがあるのではないかと疑ってしまう。


「別に、君は一人でビッグベアーを倒すほどの男だ。挑戦したいと思うのはおかしくないだろ?」


 意外にも、強い私に挑戦したいという。

 男性がそんなことを言うのは珍しい。


「ああ、構わない。だが、お前は戦えるのか?」

「バカにするな!」


 ナルシスは氷の魔法を使って、私へ魔法を放った。

 当てないように飛ばされた氷を私も避けはしない。


「いいだろう。そうなのかもしれないと思って来たからな」


 場所は闘技場。


 観客は数名の女性たち。


 ガーリさんが来た時点で、ナルシスが私を呼んだことはわかっていた。


 そして、イザベラ様が観客にいると言うことは、ナルシスもそれなりの覚悟を持っているのだろう。


「勝敗は?」

「魔法、剣、体術、なんでもありだ。相手が参ったと言ったら終わり」

「何か賭けるのか?」

「いいや、互いのプライドだけだ」


 意外な答えだった。

 ナルシスなら、勝敗によって私を退学させようとしているのかと思っていた。


 だが、プライドだけと言っている割には、ナルシスの顔は本気だ。


「いいだろう。お前らしく無いように思えるが受けよう」


 マスターグリルが中央へ降り立ち、開始の合図を告げる。


「それでは互いのプライドを賭けた戦いを始めます! 開始!」


 ナルシスは開始の合図と共に走り出して、殴りかかってきた。


「なっ!」


 本当に意外なことばかりだが、その拳は鋭くサファイアよりも早かった。


「僕を舐めるなよ!」


 私を見下ろすナルシス。

 その瞳には、劣等感を感じさせる嫉妬の炎が燃え上がっているように見えた。


 クク、このような形でナルシスと戦える時が来るとは夢にも思わなかった。

 いつも誰かの影に隠れて、自らは前に出ない男が前に出た。

 それほどの憤りを、それほどの憎悪を、私に抱いたと言うことだ。


 それは私が思っている、ナルシス・アクラツと言う男とは少し違うかもしれない。だが、顔は同じなのだ。


「いいだろう。思いっきりいかせてもらう」


 バカにしていたのは私の方だったようだ。

 花婿候補に選ばれる男が、なんの努力もしていない馬鹿者ではないとわかって嬉しいよ。


「私も魔法を技として使うのは初めてだ。電光石火デンコウセッカ


 自分の体に電気をまとわせて、反射速度を一時的に上げる。

 

「グハッ!」

「一発は一発だ」


 私はナルシスの腹に重い一撃を入れる。

 ナルシスが私の顔を殴ったことは、自分の油断が生んだ結果だ。


 花婿候補の顔面を殴るわけにはいかないので、腹パンで許してやる


「そうやって、いつも上から目線で僕を見下ろしているんだろう!」

「知らんよ。私は貴様の事など相手にしていない」

「それが上から目線だって言うんだ! 澄ました顔をして、花婿候補である僕の事を眼中にないようにして、なんなんだよお前!」


 ナルシスの周りに無数の氷が浮かび上がって、私へ飛来する。

 今度は当てるつもりでとんできた氷を、防御もしないで避けた。


「なっ! ナルシス・アクラツ。貴様は私の何を知っている?」

「はっ? 知らないよ! 知るはずがない。僕よりも身長が高くて、勉強ができて、魔物を倒せるぐらい強い。そのくせ、女にモテて鼻につく嫌な奴。それが僕から見たマクシム・ブラックウッドだ! それ以外のことは何も知らない!」


 氷とナルシス自身が飛びかかってくる。


 私は雷を発生させて氷を防ぎ、ナルシスを迎え撃とうとして、ナルシスは地面に手を添えていた。


「氷柱よ!」


 地面から大量の太い氷柱が私を襲う。

 

「雷神」


 迫る氷柱を私は雷を纏うことで防ぎきった。


「凄い魔力だ」

「うるさいよ! 僕はお前に褒められたくて戦っているんじゃない」


 ナルシスの瞳がイザベラ様に向けられる。


 ああ、そうか。ナルシス、お前はイザベラ様に相応しくあろうとしているのか? お前は悪だ。それは間違いない。方法は私から見れば最悪だった。


 だが、お前にも思いがあるなら、遠慮はいらないな。


「歯を食いしばれよ」

「は? うわっ!」


 私は思いっきりナルシスの顔面を殴った。


 花婿候補だとか、男だからとか関係ない。


 私はナルシスにムカついていた。

 良くも私を処刑しやがって!

 

「痛いか? まだやるか?」

「やるに決まって」


 脳が揺れて足に力が入らないのだろう。

 魔力もある。魔法の才能も、訓練も積んでいる。


 だが、圧倒的な実践経験が不足している。

 私が騎士たちと訓練して、盗賊や魔物と戦ってきた経験値の差が、勝敗を分けた。


「落雷!」

「ちょっ!」


 立てないナルシスに私は特大の雷を落として、決着をつけた。

 意識を失ったナルシスを見て、マスターダリルが勝者を告げる。

 

「勝者マクシム・ブラックウッド君」


 敗北をしても、ナルシス・アクラスの評価は上がったことだろう。


 私は思いっきりナルシスを殴って気分がスカッとしたので、もうそれでいい。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る