サイド ー 聖男 8

《sideナルシス・アクラツ》


 上手くいかない! 


 どうしてだ? 何もかもが上手くいかない。

 転生してきて、貞操逆転世界だと気づいたから母親を僕の虜にした。

 その後は、やる事なすこと上手くいかない。

 

 それでもアーデルハイドに指導してもらって、僕自身は優秀であることはわかっている。そんな僕が仕掛けたことが全て上手くいかない。

 まるで、全てが把握されて邪魔されているようだ。その邪魔をしているであろう人物。


 同じ教室で、授業を受けるマクシム・ブラックウッド。


 いつも僕の行動の先にはあいつがいる。

 

 魔法実技研修で、あいつをハメてやるつもりだった。

 別に殺す必要はない。

 ボロボロになったところ助けてやればそれでよかった。


 なのに、男のくせに強くて、優しくて、見た目も良くて、頭も良い。


 完璧人間。


 なんなんだよあいつは!


 もっとクソ真面目で、猪突猛進なやつなら、ひらりとかわして罠を用意してやれば勝手に落ちて行くのはずなのに。


 だから、僕は考え方を変えた。


 あいつは相手にしない。他のバカな男たちは排除が完了した。

 残されたのは、プリンだけだ。

 だが、あいつを排除しようとするとマクシムが邪魔をする。


 なら、それも放置する。


 僕の目的はあくまで花婿として、女王の婿になってからだ。

 花婿になれば、早々に離婚はできない。

 離婚できなくしてから、大勢の女性を愛してやればいい。


 だから、僕は大人しくしている。


 だが、どうしても腹が立つことが目の前に飛び込んできた。

 僕が狙っていた女、イージスがマクシムとキスをしていたのだ。


 許せると思うか?

 許せるはずがないよな。

 イージスは僕の女になるはずだったんだ。


「どうしてこうも上手く行かない? 僕は自分のダメなところを見直してちゃんとやっているはずだ」


 この世界に来る前の僕は、自分自身の自己評価が低い人間だった。

 人間関係に対する不安があった。ずっと信じていた友人に裏切られた。


 だから本の世界だけが僕の世界になって、貞操逆転世界に憧れた。

 

 ここなら、どんな見た目をしていても女にモテる。


 そこで他の男を見下せる地位になれば、誰にもバカにされない。

 

 そして、僕が目覚めた時。僕は人生の勝ち組だった。

 

 見た目は中性的で、貞操概念逆転世界で好かれる男になっていた。

 魔法の訓練も、勉強もして努力は怠らなかった。

 アーデルハイドに指導を受けて、花婿として完璧な礼儀作法や教養を手に入れた。


 そして僕は花婿に選ばれた。

 男の一番になったはずだろ? どうしてマクシムばかりチヤホヤされるんだよ。僕の方がかっこいいだろ? 僕の方が努力しているだろ? 僕の方がいっぱい色々なことを考えて行動しているだろ? 

 こんなにも女を求めているのに、どうして僕を選ばないんだ。


「許さない」


 何もなければ相手にしないでおこうと思っていたのに。

 僕の女に手を出すなんて。


「ナルシス・アクラツ」

「マクシム・ブラックウッド」


 僕は彼を呼び出した。

 裏から策略をぶつけてもダメ。

 頭も僕の同じぐらい賢い。


 女はマクシムばかりチヤホヤして、僕は花婿だと避けられる。


 なら、僕がマクシムに対して鬱憤を晴らす方法は一つしかないじゃないか。


「僕は君に決闘を申し込む」

「どうして?」

「別に、君は一人でビッグベアーを倒すほどの男だ。挑戦したと思うのはおかしくないだろ?」


 本当は、退学をかけて戦いを挑みたい。

 だが、マクシムは常に未知数で、僕は勝てると言う確信が持てなかった。


 花婿候補として、僕は退学するわけには行かない。

 だけど、あいつを殴りたい。


「ああ、構わない。だが、お前は戦えるのか?」

「バカにするな!」


 僕は氷を発生させてマクシムへ飛ばした。

 当てはしない。


「いいだろう。そうなのかもしれないと思ってきたからな」


 場所は闘技場。


 観客は数名の女性たち。


 僕の味方と言えるのは、リリとガーリだけかもしれない。

 二人は僕を見て祈るようなポーズをとっている。


 イザベラ様も興味を持ってくれているが、果たしてその心情は僕を見ているのか、それともマクシムを見ているのかどっちだろうか?


「勝敗は?」

「魔法、剣、体術、なんでもありだ。相手が参ったと言ったら終わり」

「何かかけるのか?」

「いいや、互いのプライドだけだ」


 僕は弱い。その自覚を持って戦う。


 マクシムは余裕のある顔で僕を見ている。

 

 男らしいイケメンで余裕がある嫌なやつだ。

 転生する前の親友を思い出す。


 僕はデブでノロマで、ヘラヘラと笑っているようなやつだった。

 だから、親友で優しくしてくれるイケメンに騙されていることも気づかなくて、僕が好きだったあの子を奪われた。


 だから、あいつの分もお前にぶつける。


「いいだろう。お前らしく無いように思えるが受けよう」


 僕はお願いしていたマスターダリルを見る。


「二人の同意が得られました。それではナルシス・アクラツ君対マクシム・ブラックウッド君の決闘を認めます。互いが戦闘不能や降参を宣言された際に決着とします。大きな怪我につながる場合は止めることもありますので、そこは承知ください」

「「はい!」」

「それでは互いのプライドを賭けた戦いを始めます! 開始!」


 僕は開始と同時に油断しているマクシムの顔面を。


「なっ!」

「僕を舐めるなよ!」


 思いっきり殴り飛ばした。

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