第四十四話 魔法実技研修 4

 私はビッグベアーの動きを観察するように、金色の糸を森全体に張り巡らせました。

 レベルを上げたお陰で、魔法の威力が上がっているように感じる。


「ビッグベアー。この森の上位モンスターだったはずだ。私の魔法がどの程度効くのかわからない。だけど、今はプリンくんが逃げる時間を稼ぐ必要があるな。フロスティー、すまないが力を貸してくれ」

「キュー」


 ビッグベアーは、先ほど感じたビリビリとした痛みを警戒して、動きをためらっていた。


 だが、それも一瞬だけだった。


「グアアああああああ!!!!!」


 咆哮と共に鋭い爪が糸を切り刻む。

 雷が発生しても、関係ないと威力を発揮する。


「さすがだな。ならば」


 私は覚悟を決めた。


 魔法は全てフロスティーに任せる。


 護身用の剣を抜いて構えを取った。

 学園に来てからは一度も抜いていない。

 

「いざ」

「グアアああああ!!!!!!!」


 鋭い爪が左右から振り下ろされる。

 ベラよりも重く、サファイアよりも速く、リシよりも力強く。


 全ての攻撃に威力が高くレベルが違う。


「それでも防御に徹していれば、捌ける!」


 サファイアの時も、ベラの時も、私は防御が得意だ。

 爪の攻撃を受け流し、払い除け、隙を付く。


「グアああああ!!!」

「お前は魔物が魔物で、もっと知性的な相手なら、ボクは勝てなかっただろうな」

「キューーーーー!!!!」


 足や腕に何重にも巻きついた金色の系がビッグベアーの動きを止める。


「確かに多少の雷なら耐えられるかもしれない。だけど」


 私は身動きを封じられたビッグベアーの片目に剣を突き刺しました。


「さようなら。雷よ」


 脳を焼き切るように体内から雷を放電させる。


「グアああああああああ……」


 ドスン!!!


 ビッグベアーの体内から煙が上がって絶命する。


「フロスティー、糸で胸を切り裂いてくれないか?」

「キュー」


 フロスティーの糸は凄い。

 束になればあの強力な力を持つビッグベアーの動きを止めることができる。

 そして、硬度を上げれば、身動きができないビッグベアーの体を切り裂くこともできた。


「確か、爪と魔石に価値があるんだったね」


 フロスティーが切り裂いてくれたビッグベアーの魔石を取り出す。


「ふぅ、私が一人でも強力な魔物を倒すことができたのだな」

「ギュルルル!」

「うん?」


 喜びも束の間、私が戦いを終えて座っていると。

 一体のオーガが立っていた。この森に住まう最強種の一角。

 

「はは、今レベルが13になったばかりだ。それでもビッグベアーと違って君には勝てそうにないよ」


 赤い髪をした美しいオーガがこちらを見つめている。

 戦いになれば、ビッグベアーよりも強い相手に勝てるとは思えない。


「ギュルルル!!」

「うん? 声かと思ったけど、腹の音かな? 良ければ、熊肉を持っていくかい?」


 私は魔石を取り出したビッグベアーから距離をとってオーガへ差し出した。

 警戒を持っているようだが、オーガ少女は近づいてきてビッグベアーを担ぎ上げた。


「オマエ。イイヤツ。ソレニツヨイ」


 カタコトではあったが、人の言葉が話せることに驚き、私がビックリしている間にオーガ少女は去ってしまった。


「マクシム君!!!」


 マスターダリルの声にプリン君が助けを呼んでくれたようだ。私は改めてホッと息を吐き出して座り込んだ。


「マクシム君。大丈夫ですか? ビッグベアーはどこです?」

「この通りです」


 私は魔石をマスターダリルに渡した。


「なんと! 倒してしまったのですか?! 信じられません」

「運が良かったのです」

「それで? 死体はどこに?」

「ビッグベアーを倒した後に、オーガが現れまして、ビッグベアーの死体を持っていきました」

「まぁ! 随分と消耗していますね。事情はわかりました。あとはこちらで処理しますので、テントでおやすみなさい」

「はい」


 私はマスターダリルに抱き上げられて、救護室へと運ばれた。さすがは賢者ダリル様だ。

 私を抱き上げて、あっという間に救護室まで連れて行ってくれた。


「外傷はなく、魔力が枯渇しているだけのようです。ゆっくりとおやすみなさい」


 優しく諭されて、ベッドに横になれば、プリン君が飛び込んできた。


「マクシム君! 大丈夫なのか?」

「ああ、ビッグベアーはやっつけたよ」

「なんと! 君は凄いな!」

「いいや、プリン君がくれたフロスティーがいてくれたからだ。君に命を救われた」

「ボクの方こそだ。ありがとう、マクシム君」


 私たちは互いの無事を喜び、握手を交わした。


「そろそろ、魔法実技研修も終わりが近づいているぞ」

「そうか、今年は誰が優勝だろうか?」


 かつての世界線では、イザベラ王女様とアロマが手を組んで優勝していた。

 だが、今年はアロマとイザベラ王女は別々の組で挑んでいるからな。


「うわああああ!!!!」

 

 救護テントからでも聞こえる大歓声が上がった。


 どうやら最大級の獲物を持ってきたようだ。


 私はプリン君に肩を借りてテントの外へと出て確認に向かった。

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