第四十三話 魔法実技研修 3

《sideナルシス・アクラツ》


 僕は考えた。

 

 女どもが僕を避けるなら、僕以外の男を全て排除すればいい。

 手始めに数名の男子生徒には消えてもらうことにした。


 何、簡単な話だ。


 男性は基本的に臆病で、傲慢で、弱い。

 

 ちょっと怖いことがあれば、すぐに家に引きこもって出てこなくなる。

 そのくせ女性に対して傲慢な態度をとって、迷惑をかける生き物だ。

 努力も勉強もしないから弱い。


 そんな奴を追い詰めるのは簡単にできてしまう。


 臆病な奴にはより恐怖を与え学園を去って貰えばいい。

 傲慢な奴には自分の命令ができない理不尽な環境で、命令をされる立場であることを理解させればいい。

 弱い者には、虐げられる痛みを与えればいい。


 僕は手を汚す必要はないんだ。


 少しだけ、欲望に忠実な女性たちの心を動かす手助けをしてあげればいい。

 勝手に人はゴロゴロと坂道を転がり始めるものだ。


 例えば、あまり見た目がよくなくて他の女性に劣等感を持つ者がいるとする。

 その子に教えてあげるのだ。


 男とは弱い生き物であると。

 臆病なので、助けてあげると声をかければ簡単についてくると。

 傲慢であるが故に勝手に自滅すると。


 男を手に入れたい女は、たくさんいる。

 僕が花婿候補として、避けられるならそれを利用すればいい。


「リリ、ガーリ。君たちは僕の味方だよね?」


 筋肉ムキムキなリリは、ボキボキと指を鳴らして肯定する。

 包帯を腕に巻き付け、爪を噛むガーリも僕をみて頷いた。


「なら、君たちにやってもらいたい仕事があるんだ」


 僕はイザベラ王女様から離れられない。

 だから、二人に簡単なお願いをした。

 彼女たちの友人である。底辺クラスの女子たちを唆して、男を襲わせろと。


 リリとガーリは僕の言葉に笑みを浮かべて、すぐに行動を開始した。


 彼女たちは、僕に愛されたい。

 愛されるために様々なことをしてくれる。

 僕がイザベラ王女と結ばれた暁には、彼女たちにもおこぼれをあげるつもりだ。


 それを知っているからこそ、彼女たちは僕のために頑張ってくれる。


 そして、残すはマクシムとプリン。

 目障りな上位クラスの二人だ。


 この二人は他の男と違って、臆病でも、傲慢でも、弱くものない。厄介なことだ。ならば、排除ができなくても再起が難しい程度に体のいうことが効かなくなってくれればいい。


「さて、あの二人をどうしてくれようか?」


 そんな矢先におあつらえ向きのイベントが開始された。

 

 魔法実技研修。


 いくら女性が狩ってきた獲物を男性が受け取るイベントだと言っても、真面目なマクシムのことだ。ただ、黙って待っているなんてことはしないはずだ。


「先生、男子も狩に出てもいいですか?」

「良いですが」


 マクシムは友人だと言っているプリンを連れて魔物の森に入って行った。

 魔法が使えるのは誤算だった。それに強力な魔導具も持っている。

 失敗するかもしれない。だが、深手を追ってくれればそれでいい。

 失敗したとしても、狩りにはアクシデントが付き物だから、誰も咎められない。

 

 プリンでも、マクシムでも、僕の邪魔になるなら男は排除する。


「リリ、ガーリ」


 僕は魔法実技研修が始まる前から仕込んでいた二人に合図を送り。


 マクシムたちが森に入っていく瞬間まで、奴らの背中を見続けた。


「バカな奴らだ」

「ミスターナルシス?」

「いえ、何でもありません。マスターグリル。この森はどれほど危険なのですか?」

「そうですね。生徒たちが戦えるレベルの魔物が多くいるので、それほど危険な森ではありません。ですが、何種類か、危険な魔物が混じっております」


 危険な魔物かぁ〜いいね。


「命の危険がないと言えば嘘になります。例えば、鬼の魔物であるオーガや、クマの魔物であるビッグベアーなどは、この森でも上位に入るので、十分に危険と言えるでしょうね。まだレベルも高くない生徒たちでは、殺されてしまう恐れがあるので、この辺りの魔物は危険でしょうか?」


 マスターグリルの話を聞いて、ますます僕は笑い出しそうになってしまう。

 リリとガーリが仕掛けるのはビッグベアーだ。

 レベルもあげたことがない男子生徒が、森に入るだけでも無謀なのに、命の危険があるビッグベアーに遭遇したらどうなるのか?


 考えただけで笑いが込み上げてくる。


 ーーーカンカンカン


 マスターグリルと話をしていると、一組のパーティーが獲物を持って帰ってきた。僕以外の二人がいなかったため、渋々彼女たちから。


「ナルシス様に捧げます」

「いいだろう。ワイルドボア討伐、おめでとう」


 マルマルと太ったイノシシの魔物を献上された。

 嬉しくもないが、どこで繋がっていくのかわからない。

 笑顔が彼女たちを褒め称えれば嬉しそうな顔をする。


「ありがとうございます! とても嬉しいです」

「「キャー!!!」」


 笑いかけたぐらいでキャーキャーとちょろ女たちだ。


 そんな組が数名続いた。あるとき茂みから小太りのプリンが現れた。


「たっ、助けてくれ!」

「どうしたのですか?! ミスタープリン」

「マスターダリル、クマです! ビッグベアーが出ました。今、マクシム君が」


 息も絶え絶えで、ここまで走ってきたのはわかるが、僕は口元を隠した。

 誰にも見せるわけにはいかない。


 この森で最強に近いビッグベアーに襲われたマクシム。

 死ねばラッキー。怪我でもしたら御の字だ。


「どちらの方角ですか? すぐに助けに参ります!」


 先生たちは女生徒についているので、マクシムは一人で放置されている。


「くくく、さぁどうなるかな? リリ、ガーリよくやった」


 私はここにいない二人を労うように言葉を呟いた。

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