第四十二話 魔法実技研修 2

 各々が魔法実技研修の準備をする中で、私も一応参加するつもりで用意をした。魔物と戦うことは実は初めてだ。

 かつての私は常に騎士に守られる立場で、魔法の訓練もそれほどしてこなかった。


 自治領へ戻る際に戦った盗賊が、実戦としては初めてだった。


「マクシム君、ナルシス君、プリン君。魔法科の授業を受けている男性はあなた方三人だけです。女性たちは、あなた方にプレゼントするために狩りを頑張ることでしょう。どうぞ獲物を持ってきた子達を迎えてあげてくださいね」


 マスターダリルにそのような声をかけられて、私とプリン君は顔を見合わせる。一人だけナルシスだけは一歩前に出て微笑んだ。


「はい。マスターダリル! 男は女性の帰りを大人しく待つものですからね」

「ナルシス君、淑男ヨシオですね。品のある男性は余裕を示すものです」


 いい子ちゃんぶっているナルシスの態度に、私はプリン君とニヤリと笑みを作ってしまう。


「マスターダリル」

「なんです? マクシム君」

「男子も参加して良いんですよね?」

「えっ?」

「我もこの血沸き肉躍る魔物狩りに参加したいのだ」


 白衣さんがいないので、プリン君が全開で楽しもうとしている。


「あなたたちは危険なんじゃ?」

「はっ!」

「ふん!」


 私が雷を発生させ、プリン君が岩を浮かせる。


「ほぅ〜、二人とも魔力の練度はたいしたものね。だけど、まだダメよ。魔法だけでは危険なことに全て対処できるわけではありません」

「フロスティー!」

「シーザー!」


 私の肩に止まっているフロスティーが金色の糸を吐き雷の範囲を広げてくれる。


 プリン君のシーザーは大きくなって、鎌を自在に操り前衛としてシャドー戦闘を開始した。


「まぁ! それは最新の魔導具じゃない! ふふ、面白い物を持っているのね。いいわ。ただし二人一緒に行動するのですよ」

「「はい!」」


 私たちは二人で森の中へと入っていった。


 後を振り返るとナルシスが満面の笑みを浮かべていたので、不気味に感じたが、ナルシスと一緒にいるくらいなら、プリン君と一緒に魔物対峙をしていた方が楽しい。


「我はシーザーを試したくて試したくてうずうずしていたのだ。マクシム君には心から感謝しているぞ。普段は付き合ってくれる者がいないからな」


 男性は護衛をするだけでも大変なので、魔物退治は行かせてもらえない。


「私もプリン君と一緒に魔物退治ができるのは楽しみだったよ」

「うっ、嬉しいものだな。友人がいるというのは」

「私もだよ。ほら、ラビットだ。シーザーを試してみてはどうだい?」

「うっ、うむ。我は研究者だからな。戦いは得意ではない」

「任せてくれ。君がピンチになった時は私が守ろう」

「ふふ、マクシム君はかっこいいな。わかった。行こう! シーザー! 目の前のラビットを倒せ!」

「シャー!!!」


 シーザーはラビットを鎌で倒すが、倒し方がグロい。

 プリン君が気持ち悪くなってしまった。

 私はプリン君の背中を摩ってあげる。


「だっ、大丈夫だ、マクシム君。うむ、魔物と言っても生き物を殺すというのは、大分意味が違うものだな。実験で死んだ魔物を見たことはあったが、行きた者の命を狩る。男の私はこんなにも弱いものだったのだ」

「初めてなんだ。そんなものだよ。私だって、戦闘を初めてした時は気持ち悪くなったものだ」

「ふふ、ありがとう。マクシム君は優しいな」


 それからプリン君と共に何体かの魔物を討伐することができた。

 レベルという物をあげたことがなかった私だが、レベルを上げると色々な恩恵を受けられることがわかった。


「うむ。シーザーが倒しても私が倒したことになるのだ」

「そのようだ。私もフロスティーが倒して魔物も私のレベルに反映されたようだ」

「これは新たな発見だな。研究室にばかりこもっていては知らないことだった」

「まぁ、男性は魔物を討伐することをあまり推奨されていないからね」


 男性は危険なため、魔物討伐に参加を許されていない。

 このような授業の一環として、魔物を倒すことができるのは稀なことだ。


 ーーカンカンカン!!!


「おや、一人目の組が魔物を連れ帰ったようだね」

「そうか、我たちのレベルも10まで上げることができた。そろそろ戻ろうか?」

「そうだね」

「グアあああああああああ!!!!!」


 帰ろうとした私たちの元に大きな熊の魔物が現れる。


「なっ! なんだこいつは! どうしてこのようなテントの近場に、このような魔物がいるんだ?!」

「プリン君、こいつは危険だ。シーザーを下げてくれ!」

「しっ、しかし。シーザーを囮にして逃げなければ我たちの方が危険ではないのか?」

「いいや、シーザーが簡単に倒されてしまうだけだ。私とフロスティーがこの場を預かるからマスターダリルを呼んで来てくれ」

「し、しかし!」

「いいから! いけ!」

「くっ! 必ず戻るぞ!」

「ああ」


 プリン君を逃して、私は大きく息を吐いた。


「グアああああああ!!!」


 逃げるプリン君の背中を追いかけようとするビッグベアーの目の前に金色の糸を張り巡らせる。


 糸に触れたビッグベアーがバチっと感電して、動きを止めた。


「お前の相手は私だ!」

「グアアああああああ!!!」

「時間を稼がなければないけないな! フロスティー、力を貸してくれ」

「キュー」


 私は相棒である芋虫の頭を撫でた。

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