第四十話 従者とのひととき
アルファとリシは僕の従者として同じ授業を極力受けてくれている。
入学する際に彼女たちも試験を受けて合格しているが、私の護衛も兼ねているので、成績に関係なくSクラスになってしまう。
二人ともSクラスとして恥ずかしくない成績を収めてくれている。
ただ、アルファは医術、リシは騎士の授業が私と被っていないので授業を受けるときは私は空き時間ができてしまう。
二人が取っている商人は領地経営をしたい私を助けたいと二人が思ってくれたようだ。
私と一緒に成長しようとしてくれている二人の行動が嬉しい。
ただ、彼女たちと過ごす時間も大切にしたいと思っている。
だからこそ三人でお茶を楽しむ時間を大切にしている。
この二人なら私の秘密を話しても信じてくれるのではないかという気になったしまう。
だから……。
「アルファ」
「はい?」
「リシ」
「なんでしょうか?」
「今から私が話をする内容は、私にとって一番の秘密だ。誰にも言わないと誓ってくれるかい?」
「もちろんです。マクシム様との誓いを違えたことなどありません」
「私もです。必ず騎士として主君との誓いを守ります。誰にも言いません」
「ありがとう」
二人は真剣な顔で約束をしてくれた。
話せば、二人は冗談を言っているか、私の頭がおかしくなったと思うかもしれない。だが、それは彼女たちからの信頼が私にはなかったということだ。
「私にはね。前世と言えばいいのか? 未来を体験した記憶があるんだ」
「はい?」
「どういうことですか?」
私の言い方が悪かったのか、理解を得ることができなかった。
「つまりだ。私は十年後の未来まで生きて、そこで処刑をされて死ぬことになる」
「なっ! 誰がそのようなことを!」
「許せません!」
疑うことなく、私の発言に怒りを示した二人。
私は二人の反応があまりにも素直で、つい笑ってしまう。
「マクシム様? 冗談なのですか?」
「えっ? 嘘ですか?」
「いいや。本当のことだ。私は二年前に自分が処刑される未来を思い出した」
「二年前……、もしかしてあの高熱を出された日ですか?」
「どういうことです?」
アルファは私の変化が起きた日を言い当て。
屋敷にいなかったリシはわからないと首を傾げる。
「二年前にマクシム様は生死の境を彷徨う高熱を出されたことがあるのです。その日に目覚めると、わっ、私のことを大好きだと」
恥ずかしそうに言うアルファはとても可愛い。
「いいなぁ〜」
リシはアルファの発言に素直に声を漏らしている。
「リシは私のことが好きかい?」
「なっ!!!もちろんです!」
うん。硬くて真面目で素直だね。
「私もリシのことが大好きだよ」
「ハウっ! あっ、ありがとうございます!!!」
従者たちは反応が面白いね。
「それで納得ができました。マクシム様の態度が急に変わり、とても優しくなられました」
「変わる前の私は優しくなかったかい?」
「あっ、いえ優しくはあったのですが、その優しさを王女様だけに向けられている様子でした。それ以外の者たちには冷たく無関心だったように思います」
アルファは私のことをよく見てくれている。
「その通りだ。未来を生きた私は無表情、無関心、冷血漢と呼ばれるような男だった」
「信じられません。私がお会いした時のマクシム様は聡明で、とてもお優しく、私のようなむさ苦しい女にも笑顔を向けてくださいました。未だに私はマクシム様を直視すると。ふぅ〜」
意識を飛ばさない代わりに、鼻血を出したリシ。
彼女は極度の恥ずかしがり屋で、私を見るだけで緊張してしまうようだ。
ただ、それは私が好きだからだとマヤ様が伝えてくれたので、今は彼女の気持ちを知っている。
「リシ、ありがとう。そんな君たちだから知っていてほしい。私は処刑される未来を変えたいと思っているんだ」
「それは花婿候補に関係するのでしょうか?」
「よくわかったね。アルファ」
「マクシム様が発言を変えられて最初に行った変化が花婿候補辞退だったからです」
「ああ、私は花婿候補として、イザベラ様に選ばれ、そして私は花婿に相応しく
あろうとして処刑されることになる」
「なっ! それはあまりにもおかしな話ではありませんか?」
「だが、それが結果なのだ」
ヴィ以外にも、信頼できると思った二人に、この話をしようと思った。
それはナルシスの動きが気になったからだ。
ナルシスはイージス先輩を口説こうとしていた。
それも花婿候補を盾にしてだ。正直、それは悪手だった。
だが、今度は王女様に取り入ろうとしている。
それ自体は本来の動きなのだが、どうしてもナルシスと言う男が気になってしまう。
「誰が、マクシム様を処刑したのですか?」
「……それは今は伏せておこう。悲しくなるからね」
私の発言に二人とも悲しそうな顔をしてくれる。
本当に素敵な女性たちに囲まれていて嬉しい。
「ただ、ナルシス・アクラツ。彼が関与していることは間違いない」
「ナルシス・アクラツ様ですか? 花婿候補の?」
「そうだ。彼がおとなしく花婿候補に収まるなら私は何も言うことはない。だが、かつては好きになった女性であるイザベラ王女様が不幸になる未来など見たくないのだ。だから、ナルシス・アクラツが悪さをしないように君たちにも見ていてほしい」
私は二人に頭を下げてお願いした。
本当は関わらないでおこうと思っていた。
未来の王女様が幸せであればいいと。
だが、ナルシスがイージス先輩にしていた行為は、かつて私が見た光景に類似していて嫌悪感を抱くものだった。
「わかりました。マクシム様の憂いを取り払うのも我々の役目」
「委細承知しました。ご指示があらば、斬って捨てる覚悟を持ちましょう」
そこまでの覚悟がいるのか、いるのかもしれない。
私だけが知っているからこそ、私だけが止められる悲しい未来を止められる。
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