第三十四話 入学式
私はアロマに手を引かれて騒ぎが起きている場所から離脱した。
アルファとリシも後方を気にしていたが、どうやらついてくる者はいないようだ。
「アロマ、もう大丈夫だ」
「そう」
走るのは停まってくれたが、手を離してくれない。
「アロマ、もう大丈夫だ。手を」
「いや」
「えっ?」
「離すのは嫌。このまま入学式に向かう」
「どうして?」
「マクシムは、全ての女性から狙われているから」
「全て?」
「そう、王女様の花婿じゃないから、全校生徒がマクシムを狙ってる」
「いやいや、そんなわけないだろ?」
あまりにもアロマの発言が突拍子もないので、私は呆れてアルファとリシを見た。
だが、二人は顔を背けて視線を合わせようとはしてくれない。
「まさかね?」
「嘘じゃない。だから、私が入学式の間は手を繋いで横にいる」
「アルファとリシがいるから」
「ダメ、彼女たちは平民で、貴族への抑止力としては弱い。その点、私は公爵家出身だから貴族の位としてはマクシムよりも上になる。王女様以外は私に逆らえない」
アロマの権威に縋るのは申し訳ないが、彼女からはすでに告白を受けていて、好意を持たれていることはわかっている。
それに、私にとってもアロマは嫌いな相手ではない。
何を考えているのかわからないと思ってきたが、今の行動も私のことを考えてくれていた。
「わかった。正式な婚約を受けるのか、まだ正式には決められない。それでもいいか?」
「それでいい。だけど、今日は側にいる」
「ああ」
私はアロマに連れられて入学式会場へ入った。
VIP席に座る王女様と、その横に座るナルシス。
かつては私が座っていた場所にナルシスがいることで、二人との間に完全な距離が空いたことを実感できた。
「どうしたの?」
「いや、大丈夫だ。それよりも座ろうか」
VIP席は、それぞれが個別に区切られているので、部屋に入ると下から見えなくなる。席に座って一息つくことができた。
「疲れた?」
「ああ、私が思っていた反応とは違ったのでな」
かつての私は常にイザベラ王女様の隣にいて、真剣な顔をしていた。
女性たちからは、悲鳴や奇声を浴びることはなく、早朝から奇声を浴びて気疲れしてしまった。
「そう? マクシムは侯爵家で家柄がいい。それに見た目も、頭も良い。狙わない女はいない。マクシムの子種を欲しがる女子は、この学園の九割」
「それは言い過ぎだと思うぞ」
「言い過ぎじゃない。マクシムは自覚が足らない!」
なぜかアロマにしては珍しく怒っていて、アルファとリシからもため息を吐かれてしまう。
私は処刑されるような男だ。
女性の気持ちがわからず、自分の気持ちを暴走させてしまうような人間なのだ。
思っていると言ってもらって初めて私は自覚ができるのだ。
「王女様の挨拶」
そう言われて舞台を見れば、王女様が主席の挨拶をしている。
これも、かつてと同じ光景だ。
言葉も一言一句変わることなく、前回は全てを聞き逃すまいと真剣に聞いたものだ。だけど、今の私にとってはどうでもいい。
「アロマもSクラスだったか?」
「そう、実技一位。ブイ」
「さすがだな」
アロマが誇らしげにピースサインをする。
「筆記はナタリーが一位。魔法は王女様が一位だった。王女様は筆記でも二位」
「そうか、やっぱり優秀だな」
「気になる?」
「いいや。私には関係ないことだ」
「そう」
王女様の挨拶が終われば、私たちはSクラスの生徒が授業を受ける教室へと移動を開始した。校舎は、研究棟や劇場からも繋がっているので、かなり広い。
Sクラスはその中でも最上位に位置しているので、さらに面倒に感じてしまう。
「ようこそ最も優秀な者たちよ!」
私たちを出迎えたのは高齢の女性であり、マスターダリルという。
彼女は学園で教授として長年勤めており、礼儀作法から魔法学科、教養などの幅広い知識を持つ女性で、王族であっても口が出せない権力をもつ。
二つ名は、《元老院の賢者》とも言われている。
「マスターダリルに、ご挨拶申し上げます!」
「「「「「ご挨拶申し上げます!」」」」」
王女様の掛け声に合わせて、全員が声を揃えて挨拶をする。
「ふふ、今年は優秀な方々が揃っていますね。それに男性でこのクラスに入ることを許されたお二人がいるのも珍しいことです」
かつては私一人だけがSクラスに在籍していた。
今回はナルシスもSクラスのスタートだ。
確か、前回はBクラスか? Cクラスだったと思う。
いつの間にか、授業のレベルに追いついてSクラスまで上がってきた秀才だったはずだ。
「女性は、男性に見られてこそ輝く生き物です。お二人はこの学園で婚約者や結婚相手を決めることでしょう。それを知る女性たちは美しく輝き、あなた方にアピールします。それに応えるように男性たちも精進して頂ければ幸いです」
「「はい!」」
「よろしい。それでは、今から入寮の挨拶を皆さんに我が校の生徒となった証をお渡しします」
そう言って配られたのは、ノートサイズの魔導投影機。
通称、魔ブックだ。
昔は魔導書を配られていたそうだが、今はこの魔導投影機の中に魔導書や様々な記録が保存できるように開発されている。
「あなたたち専用にするために魔力を流し込めば起動します。どうぞ、魔力を流してください」
私が魔力を流すと魔ブックは真っ白に染まって、フロスティーに魔力を与えた時と同じ現象が起きる。
「皆さん、魔力を流し終えましたね。それでは成績表を開いてください」
操作方法を説明されて、画面にタッチして成績表を開く。
名前:マクシム・ブラックウッド
年齢:十五歳
性別:男性
魔法属性:無、風、雷、回復
所属クラス Sクラス
学科
魔法学 G
教養 G
実技 G
礼儀作法 G
「学科に関しては、在籍した当初は皆がGランクです。最高がSランクとして」
S、A、B、C、D、E、F、G、の順番でランク分けがなされる。
「成績が上がればクラスを上げることができます。逆に成績が悪ければ、クラス落ちを味わいます。男性は基本的に退学はありませんが、女性の中には成績が極端に落ちた者には退学もありますので、十分に気をつけてくださいね。あとは若いあなたたちなら、魔ブックを操作して自分で使いこなしてください。それでは入学の挨拶を終えます」
「先生、自己紹介などは?」
「必要ありません。変動激しい我が学園では、優秀な者は皆に覚えられ、そうでない者は忘れ去られていくものです」
イザベラ王女にも物怖じしないで発言するマスターダリルは流石だ。
私はあまり魔ブックを触ってこなかったが、今回は色々と研究して見るのも良さそうだ。それに魔導具と言えば、そろそろ彼に会って挨拶もしたい。
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