第三十三話 入学

 領地経営の主をマヤ様、補佐にグレースとエフィーをつけて託すことにした。

 そこから管理などは、グレースが判断して行って良いと母上からも確約を受けたのでグレースの裁量が重くなる。


「グレース。大丈夫かい?」


 ベッドでグレースに問い掛ければ、グレースは幸せそうな顔を浮かべて私を見上げた。


「任せてください! マクシム様のために全力で尽くします! 私ほど幸せな商人はおりません」

「もう商人というより、領主代行の家令だけどね」

「そうかもしれませんが、幸せなのです」


 グレースがギュッと私に抱きついた。

 成熟した体をしたグレースの胸は大きくて、抱きしめられるととても気持ちがいい。年齢も私が考えていたよりも若く二十二歳だ。そうだ。

 落ち着いた雰囲気をしているので、大人びて見えていた。

 右腕のエフィーは二十歳になったばかりで、二人ともよく尽くしてくれている。


 学園に入学する際の制服などは、全てグレースが用意してくれた。


 彼女なりにお金に関することは、全てしたいという主張からだった。

 母上からは貴族の庇護を受け、グレースからは金銭的な庇護を受ける。

 私は一人では生きていけない弱い生き物だ。


 それから三日をかけて王都に帰る間、母上とサファイアがいて、大規模な移動になった。

 ミーニャたち獣人娘たちが、冒険者業の手伝いをしてレベルを上げたことで騎士としての頭角を表した。

 元々、獣人は身体能力が高いので、レベルを上げて体を鍛えれば騎士たちと肩を並べるほど強くなれる。


 もう一年、ベラの元で修行をしたのち、母上が後見人になって学園に通うそうだ。私の護衛として入学するそうなので楽しみにしている。


 周りの成長を見た私は、学園への入学をするための試験を受けた。


 かつての私が受けた試験なので、カンニングをしているような気がする。

 今回はあまり良い点にならないように平均的な結果を目指した。


 筆記試験

 実技試験

 魔法試験


 三つの試験だが、私にとっては筆記試験は全てわかってしまうので、合格ラインになる点数で止めておく。


 実技試験は試験官との一騎打ちだが、私は目立たないように試験官と打ち合って倒されないことを意識した。


 最後の魔法試験は、的に向かって使える魔法を当てればいい。

 無属性魔法の魔力を固めたマジックアローで的を撃ち抜いた。


「ふぅ、これで平均的な結果で合格できるだろう」


 男性ということで、元々合格率は90%と言われている。

 試験を受ける理由として、教室を分けるために行われる。

 私は平均的な成績を目指したから、王女様と同じ教室になることもないだろう。


「マクシム様、合格通知が届きました」

「そうか、平均的な点数をとったはずだから、Bクラスになれればいいな」

「何を言っているんですか! Sクラスの次席合格と書いてありますよ」

「なっ! なんだと!」


 私はアルファから合格通知を受け取り、送付されている成績表を広げた。


 そこには、


 学科試験3位合格。

 実技試験2位合格。

 魔法試験2位合格。


 よって、Sクラスの次席合格とする。


「なっ! 私はあれほど手を抜いたのにどういうことだ?!」

「マクシム様が手を抜いても、他の者よりも優れていたということではないですか?」


 おかしい。かつての私は学科試験2位。実技試験2位。魔法試験3位で次席合格だった。学科と魔法が変わっただけで同じ次席合格ではないか!


「はぁ、こればかりは仕方ないな。とにかくこの結果を受け入れるしかない」


 未来を変えることは難しいのだろうか?


「とりあえず、アルファ、リシには従者として一緒に来てもらう。よろしく頼むぞ」

「はい!」


 かつての私には従者がアルファしかいなかった。

 リシが一緒に来てくれるだけでも、随分と違う。

 何よりも、花婿候補を辞退しているので、花婿に選ばれることはない。


 そして、入学式の前日。


 王女様が、花婿候補を発表した。

 前回は、事前に伝えが来ていたので私は知っていたが、何も連絡がないということは私ではないことはわかる。


「マクシム様! 花婿候補の名前がわかりました」

「誰だったんだ?」


 やはり、かつての自分が勤めた場所を誰がするのか気になる。


「それが、私も初めて聞く名前なのですが、アクラツ男爵家のナルシスというそうです」


 私は全力でガッツポーズをした。


「マクシム様?!」

「いや、すまない。私は花婿から外れたことが嬉しくてな」

「そこまで嫌だったのですね。おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」


 こうして私はかつての運命を変えることができた。

 

 男性は清さを求められるため、聖職者のようなローブが制服になっている。

 女性は強さを表すために、軍服を制服にイメージされている。


「よく似合っておいでです。マクシム様」

「ありがとう。アルファ、君もよく似合っているよ。リシも素敵だ」

「あっ、ありがとうございます」


 王都に慣れていないリシは戻ってきてから硬い。

 学園に入れば、また環境も変わるので慣れてくれればいいが。


「それじゃ行こうか」

「はい」「はっ」


 二人を連れて部屋をでれば、母上とサファイア。他にもヴィやベラなどが馬車の前で待っていてくれる。


「兄様! 素敵です」


 サファイアが抱きついくるので受け止めてあげる。

 しばらくは寮生活で会えなくなるので、抱きしめてあげられるのもしばらく難しい。


「マクシム。立派になりましたね」

「母上、ありがとうございます。無事に学園生活を終えて、領地の経営を手伝います」

「そんなことを今考えなくてもいいのよ。学園を楽しんでいらっしゃい」

「ありがとうございます」


 私は母上に抱きしめていただき、ベラや、ヴィを抱きしめてお礼を伝えた。

 

 彼女たちを不幸せにはしない。

 彼女たちと幸せな未来を迎えることが私の望みだ。


「いってまいります」

「ええ、行ってらっしゃい」

「いってらっしゃい。兄様!」


 私は大勢の者たちに見送られて学園へ入学を果たした。


 寮と校舎、それに訓練所や品物を買う商店などもある巨大な学園内で、三年間を過ごすのだ。


「周りが騒がしいな。何かあったのかい?」

 

 学園の校門を越えてから、何やら騒がしい。

 後に従うアルファに問いかける。


「それは……マクシム様が歩いているからだと思います」

「うん? そうなのか?」

「はい」

「どうすればいいだろうか?」

「手でも振ってあげれば良いのではないでしょうか?」

「そういうものか?」


 私はアルファのアドバイスに従って、騒いでいる女子生徒たちに向かって手を振ってみた。


「「「「「「「ぎゃああああああああ!!!!!!」」」」」」」」


 予想以上の奇声に私はただただ驚き固まってしまう。


 戸惑う私の手を握った者がいた。


「もったいないからダメ」


 アロマが私と女生徒たちの間に入って手を引かれて走り出す。

 アルファとリシも驚いていたが、後を追って走り出した。

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