第三十話 隣の領地 問題 前編

 ブラックウッド家は街道以外に、海と雪山に面しており、唯一南の地から先に隣の領地が存在する。

 アング子爵が管理する領地で、それほど大きくはないが賑わっており、この地方最大の賑わう街を作り上げている。


 そのためブラックウッド領がどこにあるのか知らない者でも、アング領の隣と言えば大抵は場所をわかってもらえる。

 では、アング領がどのように発展を遂げたのか? それは男性たちを売り物にしているのだ。


 王国最大の歓楽街、それがアング領である。


 お世辞にも治安の良い領ではない。


「つまりは、アング領から領境を作ったことで苦情が来ていると?」

「はい」


 リシの報告で、アング領からの苦情内容を渡される。

 内容は、領境を作ったことで、気軽に領を行き来できなくなり、客が減ったというものだった。


 メチャクチャな理由もいいところであり、税も取っていないので実質領から出て行く分には自由なので客が減ったなどと言われる筋合いない。


 では、どうして問題が起きていると文句を言っているのか? それが今回の争点になる。


「アング領にブラックウッドの民が誘拐される恐れがあります」


 そう。この間の冒険者たちが男性にイタズラしようとしたいた延長には、男性の誘拐までもが裏に潜んでいた。

 それを手引きしていたのが、アング領領主であるアング子爵なのだ

 さらに冒険者たちは誘拐した男性を売ると言う、人身売買を行なっていた疑いがある。


 そのためアング領からの冒険者は全てシャットアウトした。

 

 というよりも、冒険者ギルドがないブラックウッドでは冒険者は拒否させてもらうことにした。

 荒くれ者たちで構成された冒険者を信用していないということもあるが、騎士や領民が魔物を倒してくれた方が、領地の資金として提出してくれる。

 

 その方が領内の発展に役立つからだ。


 整備も行き届いてきて、冒険者の必要性が減りつつある。


「うむ、相手が求めていることはなんだ?」

「マクシム様との交渉だそうです」

「私との交渉?」

「はい。アング子爵に望みがあるようです」

「交渉の場は?」

「領境にて」

「わかった、応じよう。私も学園に戻るまでの時間が迫ってきている。この問題を未解決のまま立ち去りたくはない」


 ベラ、リシ、アルファ、それにグレースにも立ち会ってもらって、交渉する場所を設けることにした。九ヶ月の時を過ごしたブラックウッド領の問題を残しておきたくはない。


 すでに冬が到来していて、十分な食料確保ができている。

 領境を作って法の整備も終えた。

 王国に収める税以外に、領民が安定して食事を取れる蓄えもできたので、無事に領主代行の任を終えたい。


「どのような人物なのだ。アング子爵とは?」

「一言でいうなら蛇のような女性です」


 答えてくれたのは外交を担当してくれているグレースだ。

 グレースは何度か、アング子爵領内で商売をしたことがあるそうだ。

 その際にどのような人物なのかあったことがある。


「蛇?」

「派手な見た目に、狡猾な人物なのです。自分の利益を最優先に考え、欲しいものは何をしても手に入れようとしてくるのです」


 そんな話をしながら交渉の場に赴くと、真っ赤なドレスに身を包んだ。

 派手な姿をした綺麗な女性だった。

 ただ、化粧が濃く、香水の匂いもキツイ。


「あっら〜これはこれは、本当にブラックウッドのマクシム様ではありませんか?!」


 黒い扇子で自らの顔を隠しながら、こちらの見定めるような瞳を見つめてくる。


「お初にお目にかかります。アング子爵」


 貴族の礼に則り挨拶をする。


「ふふ、やっぱり素敵」

「私を相手に交渉をしたいと言う話ですか? どのような話でしょうか?」

「そうね。私は経験豊富な女なの。どうかしら? 私の正室として花婿に来ない?」


 いきなりの結婚の申し出だが、アルファが耳元で囁きかける


「アング子爵には20人の旦那様がおられ、年齢も50を超えていたと思います。化粧で美しく着飾っておいでですが、年若いマクシム様を欲する色欲ババアです」


 最後の方はアルファから怒りを感じてしまう。

 それほど声を荒げないくてもいいと思う。


「申し訳ありません」

「あらっ、女王陛下の花婿候補を辞退なされたのでしょ? なら問題ないのでは?」

「いえ、他にやりたいことができましたので、それに結婚を先に申し込んでくださいました方々がおられます」

「そんな女たちなんてどうでもいいじゃない! それとも貴族である私の言うことが聞けないと言うのかしら?」


 男は貴族になれない。

 保護される対象なので、母上がいればアング子爵よりも上位になるが、今この場ではアング子爵が最上位の貴族ということになる。


「申し訳ありません。帰って母とも相談が必要になりますので」

「あら、そんなこと許さないわよ! 私は欲しいものは手に入れる。一度は失敗したけど。こうやって交渉の場に行きづり出した時点で止まれないのよね!」


 アング子爵が黒い扇子を掲げると、領境に隠れていた50名ほどの冒険者の女たちが現れる。


「あなたは交渉の帰りに魔物に襲われて命を落とした。そういうシナリオでいいわよね。やってしまいなさい!」


 アング子爵の言葉に冒険者たちが私たちを捕まえるために動き出す。


「グレース。私の側を離れないように」

「はっ! はい。マクシム様」

「皆も無理はしなくていい」


 連携をとって周囲の護衛をするベラ、リシ、アルファ。


 まさか、ここまでの愚者だとは予想外すぎて、呆れながらも私は天に向かって雷を放った。


 ブラックウッドの騎士の家系を舐められるわけにはいかないのだ。

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