第二十八話  問題点

 領地の経営が順調に進んでおり、街の視察を兼ねて南の小さな街アミンにやってきていた。


「マクシム様、あまり出歩かないでくださいね。時間も制限させていただきます」


 私を心配するリシに怒られながら、護衛をしてもらいながら街中を歩く。


 南のアミンには五千人の人口と、五十名の男性がいることがわかっている。

 男性の年齢は、上は五十代から、下は十歳を切るまで存在する。

 軍備の管轄として、リシが護衛対象として管理してくれている


「わかっているよ。発展してきた街中を見ればいいだけだ。それほど時間はかからないよ」


 最初の頃よりも話せるようになったが、リシは未だに私と話をするときは堅い。リシ以外にも、隠れて数名の騎士が私の護衛をしてくれている。

 そこまで緊張しなくても良いと思うが、彼女は真面目なのだろう。


 アミンの街は気候も穏やかで、食べ物が豊富にあり、食堂や居酒屋も多い。

 他領から出稼ぎに来た者たちなどもいて、人口が増えて賑わっている。


「随分と賑わっているね」

「はい。整備業や冒険者業に報奨金が順調で、仕事を求める者たちが集まってきていますので。宿や食事も美味いと評判が良いそうです」

「そうか、それで賑わってくれるなら嬉しいことだ」

「ただ、他領の者たちと自領の者で差別化をしておりますので、他領の者には不満も出ているようです」

「差別化?」


 楽しそうに見える他領からの出稼ぎ組だが、何が問題なのだろうか?


「はい。他領にきているので、男性との交流がないのです」

「男性との交流?」

「自国領では、少なからず年頃になると男性と交流できるチャンスを与えるのです。それが貴族たちの権利の一つとなっております」


 リシは顔を赤くして言いにくそうにしていた。

 私としては恥ずかしいことではないが、異性に話すときは気にするようだ。


「ですが、他領へ出稼ぎに来ると、男性は自国領の者たちで匿っているので、チャンスがないため不満になっているようです」


 女性ばかりだから生まれる弊害が、このようなとこで出ていたのだな。

 働き盛りの女性は確かに若く子供を産んでいてもおかしくない。もしくは産んだ後で出稼ぎに来ているのかもしれない。


 そんな彼女たちが稼いだお金を自分の家に送る以上に余らせ持て余していると言う。


「ふむ。それは交流を求めているのか? それとももっと肉体的な?」


 私が問いかけると、リシは顔を真っ赤にしてしまう。


「どっ、どちらもだと思います。全く交流がないので、男性を見たいと思う女性。稼いで自信に満ち溢れたことで子供を作りたいと思う女性がいると思いますので」


 リシは真面目なので、私が問いかければ恥ずかしくても答えてくれる。


 意地悪をしているわけではないが、少しだけ楽しく思ってしまう。


 ふと、路地裏で怪しい動きをしている一団を見つける。彼女たちは何かをのぞいていた。


「何をしているのかな?」

「確認してきます」


 そう言ってリシが離れると怪しい集団に囲まれる。


「よう、あんた男だよな?」


 ガタイがよく、冒険者風の女性たちはニヤニヤとした顔をして私に声をかけた。薄暗くなっている時間。酒が多少入っている様子で、彼女たちの気も大きくなっているのかもしれない。


「そうだが? 何かようか?」

「おいおい、男がこんな時間に一人で出歩くなんて危ないじゃないか。どうだい? 私たちが家まで送ってやるよ」

「いや、遠慮しておくよ。人を待たせているんだ」


 出稼ぎに来ている冒険者を撃退するわけにもいかない。

 厄介なことだ。

 リシや騎士たちが来るまで我慢するしかないな。


「そんな釣れない事を言うなよ。私らはさ。体を持て余してんだよ。目の前にご馳走がいる。それも見たこともないほどのご馳走だ。この機会を逃せるかっての」


 リシから私を隠すように冒険者たちが壁を作って私を路地へと追いやっていく。もしかしたら、リシが確認に向かった場所でも同じことが起きているのかもしれない。


 どうしたものかと考えていると、私を路地へ追いやった冒険者のリーダー格の女性が人目がなくなったのを確認して態度を豹変させる。


「もう誰も助けに来ないよ! 護衛がついていたみたいだが、私の仲間らが足止めしてるからね。へへ、これほどの上玉だ。ここで私だけが味わうなんて惜しいからね。ついてきたもらうよ」

「ついていく?」

「そうだ。大人しくしてくれなきゃ。その綺麗な顔に傷がつくよ」


 もしも、リシが見に行った現場が今と同じ状況なら、他にも被害を受けた者がいるかもしれない。


 私は彼女たちの言うことに従って、後についていく。

 リシには悪いが、これも状況を理解するために必要なことだ。


 そう思いながら、ついて行った場所は、宿などがある場所からも離れた町はずれだった。壊れた古屋がたち、お世辞にも衛生管理が良いとは言えない。


「ここだ! 入りな!」


 背中を押されて中に入ると、一人の男性が裸で寝転んでいた。

 お世辞にも綺麗な顔をしているわけではない男性は太っていて、王国に住まう男性らしい。


「男を確保したはいいが、不細工でノロマで、性欲も薄い。だけど、あんたはいい男で私らを楽しませてくれるだろ?」


 そう言って冒険者リーダーの後ろから十名の姿が現れる。


「ふぅ、気づかない私によって犯罪を犯させるまでになっていたんだね」


 これは解決しなくてはいけない事件だ。

 

 

 

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