第二十九話 罪と罰

 目の前で起きている現象、今までの生活では知らない光景。

 ただ、かつての私は彼女たちの感情を知っている。

 ナルシスに敗北して、捉えられ抑えつけられる私を見て向けられた視線を笑み。人をバカにして力で言うことを聞かせようという浅はかな考え。


 ニヤニヤと下衆な笑いを向ける女性の顔は、そんなかつての屈辱を思い出させてくれる。


 過去に戻り女性を愛する。女性を知るという誓いを立てた。

 だが、その誓いを立てると同時に、私は心に決めていることがある。

 それは大切な人たちを守れる様になりたいということだ。


「君たちに問う。我がブラックウッド領の者か?」

「はっ! 何が我が、だ。男のくせに。偉そうにしてんじゃねぇ!」


 冒険者リーダーが私に触れようとして、雷に弾かれる。


「あん?!」


 何が起きたのかわからない様子で、感じた痛みを摩るように自分の手に触れる。


「もう一度聞く。我が領の者か?」

「ちげぇよ。私らは隣のアング子爵領から来てんだよ。あっちは土地が小さくて税金も高い。まぁ、こっちよりは発展しているけどな。特に男に不自由しない生活ができていたんだぜ。だけどな、ブラックウッドは田舎だ。仕事はあるが男漁りもできやしねぇ」


 どういう政策を取っているのか知らないが、隣の領から来たのなら問題ないな。もちろん、他領と揉め事になるかもしれない。

 だが、このようなバカな者たちを放置している方が問題がある。


「私はただ、優しくするだけで良いと思っていた。だが、彼のような犠牲が出てしまった以上は、甘くするだけではダメだと理解させられてしまう」


 裸で床に眠る太った男性。

 彼を守ることはできなかった。

 自分が過信していたことを思い知らされる。

 守れる対象は限られているんだ。

 私が王国の父たる花婿になれば、王国の民全員を守らなくてはいけなかったかもしれない。

 

 今思うと、その器量は私にはない。

 何せ、自治領ですら管理ができていないのだ。


「あなた方に命じます。即刻、ブラックウッド領から退去しなさい」


 私の命令を聞いた冒険者たちは笑い始める。


「おいおい。こいつバカだぜ。男が優遇されてるから勘違いしてんじゃねぇか?」

「いいえ。私はブラックウッド家領主代行、マクシム・ブラックウッドです。権限を持ち合わせています」

「へぇ〜領主様のご子息様だったのかい。それはそれは、なら余計にここであったことを隠蔽するためには、口は封じさせてもらわないとね」


 冒険者リーダーの言葉に他の者たちも大きな声で笑い出す。


「そうか、自分たちの犯罪を認めた上でさらに犯罪を重ねるんですね」

「もういいだろ。私らとあんたじゃ意見が合わない。だけど、あんたの体は好きにさせてもらうよ」


 ミーニャたちがしたことなら、可愛いと思ってあげることができた。

 だけど、こんなにも人が変わるだけで嫌悪感が浮かぶのか、私はまた一つ学ぶことができた。


「この八ヶ月。私は成長を遂げ続けた。フロスティー!」


 私が呼びかけると、黄金に輝く芋虫が私の頭の上に現れる。


「なんだそれ? そんな魔物を飼ってるとか貴族のお坊ちゃんは変な趣味をしているね。だけど、それも高値で売れそうだよ!」


 冒険者リーダーが動き出して、十名ほどの冒険者も動きを開始する。

 フロスティーが頭の上で黄金の糸を吐いた。


 払い除けようとする冒険者たちにまとわりつく糸は、重さを増して電流が流れ出す。


「アバババっババババババッバば!!!!」


 電気を受けて叫び声をあげる冒険者リーダー。

 何を逃れた者たちがいたようだが、現れたリシによって取り押さえられる。


「マクシム様!」

「リシ、よくやってくれた」

「危険なことはおやめください!!!」


 私の褒める言葉に、リシから怒声が返される。

 

「まっ、マクシム様に何かあったらどうするのですか!」


 リシを見れば必死な顔をして涙を浮かべている。


「すまない。リシ、君の責任問題になるところだったね」

「そう言うことではありません!!! 私のことなどどうでもいいのです。マクシム様は御身を軽んじるところがあります!!! それはマクシム様を大切に思っている者たちを悲しませるのです!」


 いつも恥ずかしがり屋で、真面目な彼女ではあるが、今日の彼女は真剣で心から私のことを心配してくれているのがわかる。


「すまない。リシがそこまで私のことを考えてくれているとは思っていなかった」

「わっ、私はマクシム様がいなくなって不安で」


 とうとう泣き出してしまった彼女。

 強く見えていても同い年で、まだまだ心は未成熟な女性なのだ。


 私はかつての経験があるからこそ冷静でいられたが、もう少し彼女のことを考えるべきだった。


「本当にすまない、リシ。これからは気をつける」

「はい! よろしくお願いします。そうしていただけなければマクシム様をお守りすることができません」

「ああ、約束しよう。だから、私を守ってくれ」

「一生お守りします」


 リシの真剣な瞳に私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。


 今回のことで、私は領内の法整備が必要になることを悟った。

 誰でも受け入れて難民を受け入れることも、仕事を求めてきた者を受け入れることもできるだけしていきたい。


 だが、その中で犯罪を犯す者の選別が必要になる。


 難しいことだが、他領のことを知り。

 気質などの勉強も必要になるようだ。


 本当に自分の無知が嘆かわしい。


 

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