side ー 商人妻
《sideグレース・ハバック》
母から受け継いだ商人という仕事は嫌いではない。
だが、受け継いだ土地が悪い。
いや、土地は良いのだが、納める領主が悪い。
商売人である我々は稼ぐことが容易く感じる場所だが、良心の呵責と戦わねばならぬ日々だった。
人が良い領主を助けるために我が家は多くの犠牲を出してきた。
ありがたいことに、商人として成功していたので男性から子種をいただき子供を産ませていただくことが出来ていた。
だが、私は男性の醜悪な部分をどうしても受け入れられないと常々思っていた。
知っているだろうか? 男性は国から保護されることをいいことに大人になるにつれて太って醜くなっていくのだ。
傲慢な性格、横柄な態度、醜い体型。
商人として、数名の男性と取引をしているが最悪という言葉しか浮かんでこない。こんな田舎にいる男性だからなのか、それともほとんどの男性がそのような人物たちなのか、私は幻滅しかしてこなかった。
そんな男性の一人である。ブラックウッド家の嫡男であるマクシム様が領地に帰ってくるという情報は仕入れていた。
ブラックウッド領内で何をするために帰ってくるのか、逐一情報を集めているとマクシム様の方から会いたいと連絡がきた。
どうやら領に戻ってきて、一週間ほどは屋敷にこもっていたようで何をしていたのか分からない。一週間が過ぎると北側へ旅行をしていたようだ。
随分と気分やでいらっしゃるご様子ですね。
そんなマクシム様から当家に会いたいと連絡がきた。
しかも、こちらを呼びつけるのではなく、マクシム様から足を運んでくれるという。それだけでもこちらへの配慮が伺える。
「グレース様はどのようにお考えなのですか?」
私の右腕であるエフィーが不安そうな顔をして問いかけてくる。
これまでのブラックウッド家は、ハバック商会に無理難題を言ってきていた。
その中で利益を出さなければいけないため、無茶なこともしてきた。
「もしも無理難題をいうようなら、こちらも無理難題をふっかけるつもりよ。私は母や祖母とは違うの」
「かしこまりました。グレース様の覚悟に我々も従います」
エフィーは私を支えてくれる素晴らしい女性だわ。
だから、彼女にも幸せになってほしい。
「ふぅ、いったい何を要求されるのかしらね」
私たちは覚悟を持って出迎えることにした。
店の前に馬車が止まり、マクシム様が降りてくる。
唾を飲み込む扉が開くのまった。
従者が扉を開くと、まだ幼さの残しながらも男性らしい顔立ち。
だけど、太ってもいなければ傲慢な印象を受けるこちらを蔑んだ視線もない。
そこには真剣な瞳でこちらを真剣に見ている。
彼を見た瞬間、私が思った感想。
《ヤバー! 何? マジでカッコいんだけど?! ありえる? めっちゃかっこいい。もうなんでもいい。全部あげたい! お姉さんの全部あげたい》
「よくぞおいでくださいました。マクシム・ブラックウッド様」
平気なフリをして挨拶をする。
「あなたは?」
「我がハバック商会の代表をしております。三代目のグレース・ハバックにございます」
私が名乗るとさらに真剣な顔になる。
ヤバー。カッコ良すぎてヤバー。あかん、語彙力が、思考が幼くなる。
「本日は商談の話をしたくてきました」
「それはそれは面白いですね。では、どうぞこちらへ」
商談用に用意している部屋を見て眉を顰めるマクシム様。
くっ! 悪趣味だったかしら? だけど、商人の力を示すために必要なんです。なんなら全て渡すので許してください。
「さて、商談のお話ということですが、どういったご用件でしょうか?」
「まず初めに、ブラックウッド家の現状はお分かりでしょうか?」
ハァハァハァ、落ち着け自分。
これはハバック商会の分岐点なんだ。自覚を持て。
「我々も商人ですので情報は大切にしております。ブラックウッド家のやり方は誇り高いと思っておりますが……」
「無駄遣いが多いですよね」
「……はい!」
「率直に言っていただきありがとうございます。私は領主代行として権限を授かりました。そこで収支報告書を確認してブラックウッド領の問題点を改善したいと思っています」
「ほう」
ヤバー! 何それヤバー! ちゃんと問題点を理解して、こっちが警戒していたことも見越してる。頭までいいなんてヤバー!
「具体的にはどうされるおつもりですか?」
「まずは、ブラックウッド家として騎士の誇りを軽んじるつもりはありません。ですから、難民の受け入れをします」
「それでは解決できないのでは?」
「いえ、難民を受け入れるということは人材の確保ができるということです。それに伴う存在は食糧事情だけです。それ以外は人材がいる方が何かと役立つことを証明します」
「証明ですか?」
差し出された資料に目を通す。
正直に言えば、不十分な点が多い。
収支報告書を調べ、人口比率、北側で見つけた新しい食料。
それらをまとめたまではいいけど、試算するべき資金の欄が空白になっている。
「なるほど。我々に先の未来へ投資をしろということですね」
「はい。我がブラックウッドに住まう商人として協力を要請できないですか?」
ある意味でブラックウッドらしい。無理難題ではある。だけど、投資先がはっきりしていて、人事の使い方も明記されている。
確かに最初は領内を救うだけだが、後々の他領への商売にもつながっているという。
「投資をすることはやぶさかではありません。ですが、担保をいただきたい」
「担保?」
私はマクシム様を見た時から頭の中は一つのことしか考えられなくなっていた。
「はい。もしも、我々が投資に失敗した場合。マクシム様が私を妻として迎え入れてくれることです」
「妻として?」
「はい。失敗するつもりはありません。ですが、私がこれまで築き上げた実績と資金をかけます。ですから、マクシム様の妻になれるという担保をもって、私の全てを捧げたいのです」
護衛が怒って武器に手をかけるのは当たり前だ。
こちらも無理難題をふっかけている自信はある
そんなことを許す貴族がいるはずがない。
何より、侯爵家の人間が、平民である商人の女を迎え入れるはずが。
「後悔はしませんか?」
マクシム様は十四歳とは思えない余裕に満ちた顔で私に問いかけてきました。
《ほしい! これほどまでに魅力的な男がほしい!》
「ふふ、男性の価値が高く。その中でもマクシム様ほどの最高の男性とのお近づきになれるのであればこれほどの投資条件はありません」
「なら、交渉成立としましょう」
「よろしいのですか?」
《えっ? マジで? マジでいいの? 私全てを捧げるよ。妻にしてくれたらあなたのためにブラックウッド領を王国で一番の領にしてみせる》
「あなた様の覚悟。しかとお受けしました。では、契約書の準備を」
「いえ、それはこちらで持ってきました。魔法契約です。内容について問題がないか読んでから、判断ください」
魔法契約書まで!!!
口約束だけでも信じるのに、もうそんなことされたら……。
「グレース様」
マクシム様が商会を去った後、エフィーに問いかけられる。
「何かしら?」
「よろしかったのですか? いつものブラックウッド家の無理難題では?」
「エフィー。あなたはマクシム様の魅力に逆らえるのかしら?」
「……無理です。正直、グレース様を羨ましいと思っています」
「なら、わかるはずよ。全力をあの方をお支えする。あの方の契約が未熟な物であるなら、我々が絶対に成功させるように準備をすればいい。今すぐ北側に人を派遣して頂戴。そうすればエフィーあなたにも」
「わっ、私も!!!すぐに用意します!」
これは革命よ。
マクシム様は王国を変えることができるお人に違いない。
私はそれを商人としての立場で支える。
そして、彼の方に褒めて頂くの。
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