第二十五話 視察 2

 北の村々を訪問したことで米という食料を手に入れた。

 北に住まう人々を数え、中央がある程度把握できているので、残された南は人口の予測が立つ。

 そこから、土地の面積から考えるとブラックウッドは南の方に土地が多く。

 端から端まで雪が降るかと言えば、中央に戻ってきた時点で雪は降っていない。そこから南は暖かい空気が流れ、海に面して食糧事情も問題は少ない。


 北側は食料事情の問題解決だけでなく、働く雇用の問題も解決してくれた。

 ただ、それを売るための流通させる方法を考えなければならない。


「明日からは南の方に行かれるのですよね?」

「いや、その前に会いたい人がいるんだ。ブラックウッド家と取引をしている商人がいるよね」

「ハバック商会ですね」

「ハバック商会?」

「はい。ハバック商会はブラックウッド家が長年付き合いのある商人で北から南まで全ての流通を取り仕切っております」

「一つの商人で全てを仕切っているのか? うむ。その辺も調べる必要がありそうだ」


 ハバック商会との面談の約束を取り付けて、南へ視察にいく前に会うことにした。ブラックウッド領の主となる街はそれほど広い街ではない。

 それでも他の村々に比べれば街としての体裁を保っている。


 その中で、唯一領主の屋敷に次ぐ大きな屋敷があり、ハバック商会の看板が掲げられている。


 私はアルファとリシを伴ってハバック商会の中へと入った。


 扉を開くと三人の女性が立っていた。


「よくぞおいでくださいました。マクシム・ブラックウッド様」


 中央に立つメガネをつけ、ウェーブがかかった髪をしたスーツ姿の女性が挨拶をする。


「あなたは?」

「我がハバック商会の代表をしております。三代目のグレース・ハバックにございます」


 年齢的には二十代後半ぐらいに見える落ち着いた雰囲気の女性。

 商人として、ブラックウッド家を牛耳っているのなら、侮れない相手だ。


「本日は商談の話をしたくてきました」

「それはそれは面白いですね。では、どうぞこちらへ」


 私たちはグレースに案内されて、部屋の奥へと進んだ。

 商談の場に訪れた部屋の中は、豪華な調度品が並びブラックウッド領内にある部屋とは思えない飾り付けにハバック商会の力を見せつけているように感じる。


「さて、商談のお話ということですが、どういったご用件でしょうか?」

「まず初めに、ブラックウッド家の現状はお分かりでしょうか?」


 私の質問に対して、グレースのメガネが怪しく光。


「我々も商人ですので情報は大切にしております。ブラックウッド家のやり方は誇り高いと思っておりますが……」

「無駄遣いが多いですよね」

「……はい!」

「率直に言っていただきありがとうございます。私は領主代行として権限を授かりました。そこで収支報告書を確認してブラックウッド領の問題点を改善したいと思っています」

「ほう」


 前のめりになったグレースが私の瞳を見つめる。


「具体的にはどうされるおつもりですか?」

「まずは、ブラックウッド家として騎士の誇りを軽んじるつもりはありません。ですから、難民の受け入れをします」

「それでは解決できないのでは?」

「いえ、難民を受け入れるということは人材の確保ができるということです。それに伴う存在は食糧事情だけです。それ以外は人材がいる方が何かと役立つことを証明します」

「証明ですか?」


 私は商談のために用意した書類を提出する。

 まだ、南の方は見ていないため北側と今後の展望だけではあるが、ブラックウッド家が掲げるべき政策をまとめた内容を提出する。


 ブラックウッド家には南に広大な土地があり、北にはそこでしか取れない食材がある。さらに今まで拒否しないで集まった難民たち。

 正しい仕事内容と、生活環境、そして教育が必要になる。


 その中でかかる費用は最小限にしたい。


 だが、領民が育ったのちは。


「なるほど。我々に先の未来へ投資をしろということですね」

「はい。我がブラックウッドに住まう商人として協力を要請できないですか?」


 資料を提出して投資を口にする。

 グレースはため息を吐いて腕を組んだ。


「投資をすることはやぶさかではありません。ですが、担保をいただきたい」

「担保?」

「はい。正直に申し上げれば、マクシム様が当店を訪れた時から、一つのお願いを聞いていただければ、我々は全ての財力を投じる用意ができています」

「一つの願い?」

「はい。もしも、我々が投資した場合。マクシム様が私を妻として迎え入れてくれることです」

「妻として?」

「はい。失敗するつもりはありません。ですが、私がこれまで築き上げた実績と資金をかけます。ですから、マクシム様の妻になれるという担保をもって、私の全てを捧げたいのです」


 彼女の提案にアルファとリジが武器に手をかける。


 私は二人を止めるように手を挙げた。


「後悔はしませんか?」


 彼女は私を求めるだけで協力するという。

 それは随分と軽い条件だ。


「ふふ、男性の価値が高く。その中でもマクシム様ほどの最高の男性とのお近づきになれるのであればこれほどの投資条件はありません」

「なら、交渉成立としましょう」

「よろしいのですか?」

「あなたは金と商人として矜持をかける。私が差し出せる物がこの身だというなら、取引に異論はありません」

「マクシム様!」


 アルファが声を荒げるが、私はそれを手で制した。


「あなた様の覚悟。しかとお受けしました。では、契約書の準備を」

「いえ、それはこちらで持ってきました。魔法契約です。内容について問題がないか読んでから、判断ください」


 魔法契約は、口約束で行われる契約の際に相手に契約を裏切らせない契約を結ぶ。


 1、甲と乙の提示した内容に互いに同意する。

 2、甲と乙の契約に破棄した場合は、契約に準じた賠償が生じる。

 3、甲と乙の互いの同意の元でのみ契約は成立する。


 大まかに説明すれば、この三つだけだ。


 だが、私がこの身を差し出す代わりに、相手は私に全てを捧げると告げた上での契約になる。


「ご用意がよろしいのですね」

「私は悪い男でしてね。あなたの言葉をそのまま契約に収めたい」

「私の言葉に異論はありません。あなたの妻の一人になれるのであれば、喜んで全てを捧げます。もちろん、他の妻たちと協力することもお約束します」


 グレースが後に控える二人を見る。

 二人は妻ではないけど、グレースは私からすれば十歳ほど離れているので、覚悟をしているのだろう。


「それでは契約を」

「はい!」


 互いの指先を傷つけて、同意した内容で契約書を書き。

 魔法陣の上に置いて血を流す。

 互いの血が魔法陣の上で混ざり合い。契約は成立する。


「これを持って、あなたは私の妻でよろしくお願いします。グレース」

「はい! マクシム様。私の全てを捧げます」


 私はこうして、初めての妻を迎えました。

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