第二十四話 視察 1

 リシは、見た目の凛々しさ同様に口数が少ないが、仕事はしっかりとできるタイプの人間だった。道案内や護衛、戦闘に関して文句のつけようがない。


 アルファ、ベラ、リシの三人で私の護衛は十分に努めてくれる。

 そして、ミーニャ、ポニン、ウルルの三人は、メイドと騎士の両方の勉強をするために、この一年で成長を遂げてもらおうと思っている。


「まずはどこに行かれますか?」

「ブラックウッド領は大きい領だ。人口は約3万人ほど。 一周の距離は162.2kmで、面積は222.25k㎡。馬車で全てを回ろうと思えば三日はかかる。さらに視察も兼ねて話を聞こうと思えば、二週間ほどの時間はかけるつもりだ」


 二台の馬車で移動をしながら、領内を回ることになる。


 領地は南北に広がっていて、冬である現在は北に進むと雪が降り積もる場所も存在する。だが、その状況の北の地を知らなければならない。

 

「寒いな」

「よろしければ、この膝掛けを」

「アルファも寒いだろ。私は大丈夫だ」

「それでは、お隣を失礼します。これならば寒くはありません」


 アルファが隣にきて二人に膝掛けを被せる。

 体温と膝掛けで先ほどよりも暖かくなった。


「マクシム様、村が見えてきました」


 ベラの声で窓の外を見れば、冬を越えられるとは思えないボロボロでスキマ風が防げない家々が建ち並ぶ。


「これは……」

「マクシム様」


 私の驚きにアルファが心配そうに呼びかける。


「大丈夫だ。わかっていたことだ」

「はい」

「この地を救う手立てを早急に考える必要がある。ブラックウッド家の資産を減らして救っても付け焼き刃にしかならない」


 私は一日をかけて、北の村々を回って現状の把握や人口の増加、年齢を見て数を数えた。


「村長、協力感謝する」

「何年ぶりだろうね。男性が我が村を訪れるなんて」

「男性は全くですか?」

「数年前に隣の村に生まれた子がいたが、病で亡くなりまして。数年男性を見ておりません」

「そうか。魔物の脅威はどうだ?」

「それはたまに。ですが、村の者が一丸となって戦っております」


 村の中を見て周り、村長に礼を述べて家を出れば雪が降り始めていた。

 もうすぐ春が近い時期だというのに、この辺りにはまだ雪が降る。


「こんな場所で育つ作物もあるんですね」


 そう言ってミーニャが見つけた草を見て、私はあることに気づいた。

 それは数年後に王国各地で広がる食べ物に似ている。


「それは稲だね」

「稲? なんですそれは?」

「そうか、寒い地域で水は豊富にある。そして、稲の元になる物が育つのか。そうか、アルファ。この稲が三つの村にどれぐらいあるのか村人に協力してもらって調べてくれ」

「かしこまりました」


 一つ目の食料問題が解決できるかもしれない。


 人口が増え続けているブラックウッド領。

 

 北の地は満足に雨風を凌げる家も建てられていない。

 学校や病院なども足りない。

 これでは次世代を育てることすら難しい。


「村々を回ってかなりの数があることがわかりました」

「よし、これらをブラックウッド家が買い取る」

「えっ? このような草が何になるのですか?」

「村人たちの中に稲が食べられるように出来る方法を知っているか聞いてきてくれ」

「かしこまりました」


 私の提案に、村人たちが集まり、三つの村の一つに住む。

 東方からやってきた女性が知っていた。


 刈り取った稲穂から籾(もみ)を分離する(脱穀だっこくをさせ、(稲架はさ掛け)を行い。(脱穀)、(籾すり《もみすり》)、(籾殻もみがらを取り除いて玄米にする。

 続いて、(籾すり)、糠(ぬか)と胚芽を取り除いて、(精米せいまい 、最後に鍋に水を注ぎお米を炊く。


 時間が脱穀と籾で二日かけた。


 最後に炊き上がるまで三日をかけたが、完成した大きな鍋で食べた米は甘くてとても美味しかったのだ。


「凄いです!」


 東方からやってきた女性、ヤチヨの指導してもらって作り出した米は美味かった。


「村長たち、あなたたちにはこの米の生産をヤチヨに習いながらしてもらいたい。米は保存も効くので、塩漬けした肉や野菜とも相性がいい」

「マクシム様が言われるのであれば、やってみましょう」


 米の美味さを知った村人たちも、私の意見に賛同してくれた。

 一年をかけて行う一大事業ではあるので、いくつかの土地分けをして一つがダメになっても良いようにアドバイスも加えておいた。


「農業のことまでご存知なのですね」

「いいや、流石にそこまではわからない。だから、ヤチヨの存在はありがたいよ」


 ブラックウッド家が様々な難民を受け入れていたからこそ、ヤチヨのような他民族が領内にいてくれた。

 そして、他国で食材として使われている物を私はかつての知識で知ることができる。


 疫病に続く、王国の危機は飢饉に関係している。

 疫病によって働ける者が少なくなり、小麦が取れなくなったのだ。

 その際に疫病から生き残っていた北の大地に住まう者たちがもたらした米が王国を救うことになった。


 かつての知識がなければ、このような発案はできなかっただろう。


「北で行える仕事。分散する生産と生活に必要な借りや料理など、分担をはっきりさせることで難民として紛れ込んでいた者たちも協力者として領へ溶け込んでくれればいい」


 マヤ様に告げていたように弱者が弱者のままでいない環境整備を考えなければならない。

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