第二十二話 盗賊
王都を出て三日ほどの場所にブラックウッド家の土地がある。
護衛を務めてくれたのは、ベラ、ミーニャ、ポリン、ウルル、アルファの五人にプラスして、五人の騎士たちが付き従ってくれている。
ベラ隊長指揮の下で、ミーニャ、ポリン、ウルルは騎士の従士として同行している。アルファは私と同じ馬車に乗り、ベラ隊長が御者をしてくれている。
もう一台の馬車に荷物と獣人三娘が乗って騎士の一人が御者をしながら、残り四人が二台の馬車を守るように陣形を取っていた。
「いかがですか、マクシム様」
「あまり王都の外に出たことがないからね。やっぱり不思議な気分だよ。生まれも育ちも王都だ」
「そうですね。上位貴族の方々は、成人されるまではあまり外に出られる機会はないものです」
私も来年には成人して、独り立ちを意味して学園への入学が決まっている。
そこでは王女様やアロマ、ナルシスなどが同級生で顔を合わせることになるだろう。それまでに自分という存在の成長をさせておきたい。
「すでに二日を過ぎて、あと半日ほどで到着すると思われます」
「そうか、私は守られてばかりで申し訳ないな」
「そんなことはありません。皆、マクシム様のためであれば命を落とす覚悟があります」
「それは大袈裟だぞ」
「大袈裟ではありません!」
アルファが真剣に言ってくるので、もう少し騎士たちのことを考えた方がいいように思える。
「盗賊だ!!!」
ベラの叫び声と共に乱暴に馬車が停車する
窓の外を見れば、二十名ほどの盗賊が私たちを取り囲んでいた。
「マクシム様、絶対に馬車から出ないでくださいませ」
そう言ってアルファが外に飛び出して、馬車の上に飛び乗る。
「おいおい! そんなに大事な物を載せているのか?」
盗賊の頭らしき女性が叫び声を上げる。
鍛えられた騎士たちは強くはあるが、数の暴力は脅威だ。
「うらっ!」
「ぎゃっ!」
ベラとアルファは流石に強い。
だが、獣人三人娘も頑張っている。
だが、技量の差が生まれつつある。
「危ない!」
私はミーニャが斬りかかられるのを見て、馬車を飛び出した。
雷で盗賊を倒して、獣人たち三人の前に立つ。
「ヒュ〜! こいつは上玉じゃねぇか?!」
私の顔を見た盗賊のかしらが口笛を吹く。
大柄でクマのような体躯。
ベラやアルファが強いことはわかるが、別物の強さを持っているように感じる。
「お前ら! 男だよ! 男を攫っていくぞ!」
「「「「「ウォーーーーーー!!!!」」」」
それまで騎士たちに押されていた盗賊たちが、私の出現によって活気付く。
「マクシム様! 馬車にお戻りください!」
「そうだ。マクシム様」
アルファとベラが私を守るように前に立つ。
だが、五人の騎士たちも傷つきながらも、なんとか命を繋いでいる。
「私の大切な者たちを傷つけたのだ。黙っていられるはずがないだろ」
「マクシム様?」
ミーニャが不安そうに私を見上げている。
「大丈夫だ。ミーニャ」
私はミーニャの頭に手を置いて撫でてから、ベラとアルファの前にでる。
残っているのは十五名ほど。
私は十五名を視界に捉えて手をかざす。
「うん? なんだい?」
「雷よ」
全員へ雷の魔法が放たれて轟音が響いて、全員が昏倒する。
「なっ!」
「マクシム様?!」
「殺してはいない。全員の意識を奪っただけだ」
「凄い!」
ミーニャから感心した声が聞こえてきた。
私が振り返るとポニンとウルルが抱きついてきた。
「怖かったの!」
「怖かったです!」
「二人とも大丈夫だ。もう怖い盗賊はいない」
私は抱きしめてきた二人の頭を優しく撫でてやる。
顔を上げれば、ベラとアルファが驚いた顔をしていた。
「二人とも、盗賊は気を失っているだけだ。捕らえてくれないか?」
「あっ! はい。ただいま」
「それと怪我をした人は私の元へ」
「何をなさるのですか?」
「回復魔法をかけるだけだ。少し休息を取ったら、盗賊を連れて領地に向かわなければいけないからな。怪我は治しておきたい」
「かしこまりました」
二人が指示を出して騎士たちの治療を済ませ、食事と水分補給を済ませた上で、盗賊たちを歩ける程度に回復させて私たちは領地へと向かった。
その馬車の中では、アルファに驚いた顔をされて問いかけられた。
「マクシム様の魔法は異常ではありませんか? 普通はあのようなことができないはずですが?」
「そうなのかな。ヴィの教えに従って魔法の訓練をしていたからじゃないかな?」
「それに、どうして盗賊たちを殺さなかったのですか?」
「彼女たちは盗賊になるいうことは、生活が苦しくなったということだ。それを改善してあげれば良き働き手になってくれるかもしれないからね」
「マクシム様はお優しく過ぎます。世の中にはどうしようもない人もいるのです」
知っているよ。
私はどうしてもナルシスを許すことはできない。
自分とは合わない人間は必ずいる。
その時が来ても私は躊躇うつもりはない。
「ああ、これは一度だけのチャンスだ。彼女たちがチャンスを活かすも殺すも、彼女たち次第だよ」
私は自分に与えられた一度きりのチャンスのように、人にチャンスを与えたいと思っているのかもしれない。
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