第二十話 近衛騎士アロマ

 ブラックウッド家は大将軍を輩出する侯爵家であり、領地を持っている。

 花婿修行をするために、王都に滞在していたが、その必要がなければ正月の挨拶でもない限り王都にいる必要はない。


「領地に帰る?」

「はい。母上。お婆様に領地を任せていますが、私は王都の貧民街や孤児たちのような子が領地にいないのか心配なのです。私の采配で変化を与えらるなら、領地に戻って働きたいと思っています」

「王国の法律では、男性は優遇されているけれど。貴族にはなれないのよ。つまり何かやりたくても代表者にはなれないの。他にも女性から男性への相続権もないわ。結婚したとしても資産を相続できるのは女性に限られているのよ」

「わかっております。代表者になりたいや、資産を相続したいと思っているわけではありません。ただ、自分にできることを知りたい。そして、私は知らないことが多すぎると考えるようになったのです」


 自分を成長させる。

 それは知らないことを知ることだとヴィが教えてくれた。


 学園に通うまでの一年間。

 私は領地にできることをしてから学園に行きたい。


「そう、あなたは毎日成長しているのですね。わかりました。あなたに領主代行の権限を与えます。代行なので私の代理でしかありません。継承はできませんが一時的にあなたが思うことができるのであればそれも可能でしょう」

「ありがとうございます母上。すぐに出立しようと思います」

「私はいけないので、ベラをつけましょう。気をつけて行ってくるのですよ」

「ありがとうございます!」


 私は早速、ベラとアルファに指示を出して旅支度を始める。


「兄様! どうして領地に戻るのですか?」

「サファイア。学園に通うまでの一年間で、私は自分の可能性を知りたいと思ったんだ」

「可能性?」

「ああ、私はこれまで花婿修行ばかりしていて、世界の広さを知らなかった。だから、領地に戻って自分の世界を広げたいんだ」

「わっ、私もついて行ってはダメなのですか?」

「サファイアは次期侯爵家の当主になるからね。まだまだ母上の元で勉強が必要だ。私が領地に帰るのは一年だけのことだ。王都でゆっくり待っていてくれ」


 悲しい表情を見せていたサファイアだが、覚悟を決めた顔を見せる。


「わかりました。兄様が成長なされるのであれば、私も負けません」

「ああ。また会えるのを楽しみにしている」


 サファイアと別れを惜しんでいると、アルファが部屋をノックして入ってきた。


「失礼します。マクシム様、来客です」

「来客? 珍しいね」

「アロマ様です」


 アロマ・ビンセントは私の幼馴染だ。

 ブラックウッド家と肩を並べる騎士の家系で、ビンセント家は近衛騎士長を多く輩出している。

 現在も次期女王陛下である王女様の騎士として務めているはずだ。


「わかった。会おう」

「はい。訓練所で待っているそうです」

「またか、彼女らしいな」


 サファイアが努力型の軍略の秀才とするなら、アロマは個人で戦う戦闘の天才だ。


「久しぶりだな。アロマ」


 私が訓練所に入ると騎士たちが膝を折り、息も絶え絶えになっていた。


「どういうこと?」


 睨みつけられて、剣を突きつけられる。

 

「いきなりのご挨拶だな」

「アロマ姉さん! 兄様に何しているの!」


 そう言って剣を払い退けるサファイア。


「サファイア邪魔」


 アロマがサファイアに剣を向けようとするが、それはベラが止める。


「お嬢には手は出させんよ。アロマ嬢」

「邪魔が多い」


 激しくアロマとベラが打ち合う。


 ボクはため息を吐いて、両者に雷を落とした。


「うっ!」

「おお!」

「いい加減にしろ。アロマ、人の家にきて暴れる癖を直せ」

「……マクシム?」


 私が魔法を使ったことに驚いたのか、アロマが驚いた顔を見せる。


「ああ、私はマクシムだ。我が家に来て暴れるのをやめろ」

「……ごめんなさい。お話がしたい」

「最初から、そう言え」


 雷を落とすとアロマが大人しくなった。


 アルファにお茶を用意してもらって、やっと落ち着いて話ができる場を設ける。サファイアとベラが先ほどのことを心配して、私の後で立って睨みを効かせている。


「それで? いきなり来てどうしたんだ?」

「どういうことか教えてほしい。どうして王女様の花婿候補を辞退したの?」

「ああ、やっと受理されたのか」


 過去に戻ってきて辞退してから、花婿候補を辞退が受理されるのに一年ほどかかっている。手続きなどもあるから仕方ないが、面倒な手続きが多すぎる。


「なぜか、私は他にしたいことができたからだ」

「他にしたいこと? 花婿よりも?」

「ああ、私は気づいたんだ。花婿候補の勉強をしているよりももっと大切ことがあるって」

「それは何?」

「そうだな。まずは自分の成長と世界を知ることだ」

「自分の成長と、世界を知る? それは花婿ではできない?」

「ああ、花婿候補を辞めたことで出来た時間で色々なことができたからな。この一年、私は充実した日々を送れているぞ」


 アルファが入れてくれたカップに口をつける。

 

「なら、私と結婚する?」


 いきなりの発言に私は飲んでいたお茶で蒸せてしまう。


「なぜ、そうなる」

「花婿候補だから、諦めてた。だけど、花婿候補じゃないなら遠慮はいらない」

「アロマ姉! それは家族の私が許さないんだからね!」

「サファイア、うるさい。あなたは妹でしょ」

「妹だって結婚できるもん!」


 男性が少ないので、家族と結婚はできるが、私は普通に他人の誰かと結婚するよ。


「はぁ、今の私は誰かと結婚したいとは思っていない。だが、できればちゃんと好きな人と結婚したいと思っているんだ」

「私は嫌い?」

「まだ、わからないが正しい」

「わからない? 私はマクシムが大好き」


 アロマから告白をされるとは思っていなかったので、意外に感じるが、こいつは昔から何を考えているのかわからないやつだった。

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