side ー 王女 1

《sideイザベラ・アレクサンドロス・アロガント》


 苛立ちを覚える出来事が多すぎて朝から頭を抱えていた。

 

 どうしてこの世は馬鹿ばかりなのか? 男などに熱をあげて犯罪に手を染めるなど意味がわからない。

 この世は女性が支配しているのだ。男など子供を産むための道具でしかない。


 それなのに母上やお婆様は、花婿を取ることは名誉あることだと言って私に結婚の良さを勧めてくる。


 だが、男など煩わしいだけだ。

 太っていて醜く、見るに耐えない。


「イザベラ様。書類をお持ちしました」

「何が書類だ! ナタリー。どうせ花婿候補の写真だろ!」

「よくご存知で」


 私の幼馴染であり将来の宰相になるナタリーは、悪い顔をして笑っている。


「似たような顔ばかりを並べられても私は喜ばないぞ」

「はい。ですから、今回は新しい花婿候補の写真とリストを持ってきました」


 未来の女王である私の元に届けられる花婿候補の写真は年々増え続けている。

 100分の1と言われる男子の無駄遣いと言ってもいい。

 王国に住まう者が10万人しかいないというのに、一万もいない男性のうちで、十代となれば、それこそ見つけてくる方が難しい。


 それを全て私の花婿候補にしようと、商人や男爵たちは孤児や平民から無理やり子供を攫って養子として迎えてから、私に献上して手柄を立てようとしてくる。


 花婿など、どこが良いのか私はわからぬが、どうせ子供を作れば用無しになり、城で一生を飼い慣らされるだけの存在の何が良いというのか?


 私は花婿候補たちの写真を見て一人の人物に目を止める。


「こいつはマシだな」

「うん? アクラツ男爵家のナルシス殿ですね。一応実子のようです。よかったですね。養子ではないので、整形などの心配もなさそうです」

「ふん、作り物か自然な物なのかはわかる」

「はいはい。そうですね。天然のイケメンをずっと見ていますからね」

「マクシムのことか? あれはなぁ〜」


 私の花婿候補筆頭と言われるブラックウッド家は昔からよく知っている人物ではある。だが、それ故に面白味もなく、興味が薄い。


「ブラックウッド家のマクシム様は、マシだと言われていたではありませんか?」

「マクシムは勤勉でな。見た目も他の者たちに比べれば随分マシだと思うが、それだけだな。真面目なだけで面白味のない人間だと思っているよ。私はもっとこう、人間くさくて、自分の欲望に忠実な方が好みなんだ」


 そう思って見るとナルシスという男は作り物のような笑顔が、実に人間らしい醜悪さを表しているように見える。


「ハァ、相変わらず変わっておりますね。この結婚すら難しい世の中で男を選べるのなどイザベラ様ぐらいなものです」

「ふん、私だって好きこのんで王女に生まれたわけじゃない。それに王女としての役割は果たそうとしているつもりだ。それに私が断った男性の中からお前やアロマだって選べるだろ」

「それはそうですね」


 宰相となるナタリー。

 近衛騎士をしているアロマ。


 二人には子を成してもらわなくてはいけないので、私が選ばなかった男性の中から花婿を選ぶ権利がある。

 女王の花婿になるために励んでいる者たちなので、そこまでマシな男は何人かいる。


「さぁそろそろ仕事だ。男のことなど考えている暇など私にはないんだ」

「そうですね。お手伝いします」


 私の前には花婿候補の書類以外にも、母上の仕事を手伝うためにさまざまな報告がなされてくるのをチェックして、私が動ける範囲の王国の問題を解決している。


「うん? 何だこれは?」

「どうしたんです?」

「ブラックウッド家から、花婿候補の辞退がなされている」

「あら? どうかしたのでしょうか? 体調を崩されたとか?」

「あの真面目なマクシムが体調を崩した? 花婿候補を辞退するほどの体調不良か?」

「それ以外に花婿候補を辞退する理由がありますか? マクシム様は王女様に心酔していたではありませんか」


 社交界デビューもしていないが、上位貴族の子息として数回挨拶をしたことがあるが、マクシムは昔から私を好きだという視線を向けてきていた。

 

 それをウザいと思っていた。


 それが年々真剣さを増していて、いよいよ来年学園もあり、他にいなければマクシムを選ぶしかないかと思ったタイミングでの辞退。


「何かあるのか?」

「そういえば、ブラックウッド家が孤児院の支援や貧民街の改革を行なったと報告が上がっていましたね」

「ああ。その時は私の気を引きたいのかと思っていたが、このタイミングで辞退するとは、わけがわからんな」


 本当に何を考えているマクシム。

 

 私の気が引きたいのか? だが、花婿候補を辞退してしまえば私が選ぶことはない。

 私は男など誰でもいいのだ。子供が生めれば王国のためになる。

 

 マクシムが唯一まともだから選んでやろうと思っていたが、自ら辞退するならどうでもいい。


「マクシムがいなくなったなら、筆頭はこのナルシスという男だな」

「おや、よろしいのですか? 調査しましょうか?」

「いい。去る者を追う暇など私にはない」

「そうですか、かしこまりました」


 マクシムが写っていた花婿候補筆頭の写真を外してゴミ箱に捨てた。

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