サイド ー 王女 2

《sideイザベラ・アレクサンドロス・アロガント》


 学園への入学する前に、魔物討伐や、盗賊討伐など、片付けなければいけない案件が山のようになって押し寄せてきた。正直疲れてしまう。

 

 花婿候補を決める際に誰でもいいと思いながら、花婿候補たちの写真の束を見つめて、マクシムのことを探している自分がいた。

 なんだかんだと自分がマクシムを気に入っていたことを思い出して、マクシムが花婿候補を辞退したことをしばらくしてから思い出した。


「そういえば辞退したのだったな」


 なぜ? そんな疑問が浮かんできた。

 あいつは私を好いていた。

 うざいと思っていた反面、他の者がいなければマクシムでいいかと思っていた。だが、いざ居なくなると。


 誰にすればいいのかわからなくなった。


 ふと、他の者たちの花婿候補の写真の中で顔がいい男が目に入った。


「ナルシス・アクラツか」


 男爵家だが、他のデブで醜い男たちに比べれば随分とマシな方だ。

 家庭教師の欄を見れば、マクシムを指導していたアーデルハイドの名前を見て、ナルシス・アクラツに決定した。


「本当にこの方でいいのですか?」

「ああ。花婿でも、どうせ候補だ。学生時代に気に入らなかったら断ればいい」

「それはそうですが、誰も決めないという選択肢もありますよ」


 ナタリーなりに、私への気遣いをしてくれる。


「誰も決めない? そんなことが許されるはずがないだろう」

「そんなことはありません。花婿候補の該当者なしとすれば、それ以外の男性を選ぶこともできるじゃないですか」

「そんなことをお母様と、お婆様が許すはずがないだろ」


 私はナタリーの言葉を突っぱねて、ナルシス・アクラツを正式な花婿候補として決定した。


 すぐに大体的な発表がなされた。

 

 入学式は、私を主席として、次席はマクシムだったそうだ。


 マクシムは私を見てどのような顔をするのだろう? 

 そんなことを思いながら学園に向かえば、マクシムの側にはアロマが手を繋ぎ、二人の美しい女性を連れていた。


 そうか、マクシムはすでに別の女性たちに意識を向けて私のことなど興味がないのか。薄情なものだな。


 それから数日、ナルシスと過ごした。


 つまらない男だ。


 確かに顔はいい。だが、野心家で女性を物のようにしか見ていない。

 

 ふと、マクシムを見てしまう。マクシムは誰に対しても平等で、毅然とした態度で接する姿に私は目を逸らしてしまった。


 そんなある日、アロマからマクシムとランチを取ってほしいとお願いを受けた。アロマがマクシムから離れなければならない用事ができたというのだ。


 無自覚で無警戒な幼馴染を助けるのはやぶさかではない。


 マクシムは私たちと食事をすることを聞いていなかった様子で驚いていたが、ナタリーから話しかければ昔のように穏やかな雰囲気で話をする。

 それは幼い頃から見ていた聡明で、穏やかなマクシムの姿だった。 

 私を好きになったと言って花婿候補をしながら辛そうにしているマクシムではなかった。


 そして、極め付けは私に入れてくれたお茶だ。


 これは、マクシムと私しか知らない話だ。


 幼い頃の私は泣き虫で、痛がりだった。

 それは冷たい物も、熱い物も全てダメで、全てマクシムが払い除けてくれた。

 女王の教育を受けるようになり、人に弱みを見せていはいけないと言われるようになり、人前で泣くのをやめ。自分の弱点を晒さなくなった。


 だから、熱いお茶を出されても黙って口をつけて、冷めるまで飲まない日々だった。


 そんな昔のことをマクシムは覚えていてくれて、私に出されたお茶は丁度良い温度だった。おかげで久しぶりに美味しくお茶が飲めた。


 だからつい……、私は問いかけてしまった。


「どうして花婿候補を辞退したんだ?」

「えっ?」


 マクシムは驚いた顔して、私が我慢ができなくて促してしまう。


「どうした? 答えよ」

「イザベラ様に相応しくないと思ったからです」


 相応しくない? お前ほどの男以外に私に相応しい男がどこにいる?

 あのナルシスなど花婿のくせに一週間もすれば、私から離れて他の女子の尻ばかり追いかけているぞ。


 あのような男も珍しいが、まるで魔物のようだ。


「それでは、そろそろ失礼して」


 マクシムが話は終わったと立ち上がろうとする。

 私はマクシムを捕まえたいと咄嗟に立ち上がり、テーブルに足をぶつけてしまう。その拍子にマクシムが入れてくれたお茶の残りがこぼれた。


 熱くはない。マクシムが調度よくしてくれたから。


 だけど、皆は驚きオロオロと慌てる中で、マクシムが私のスカートのシミを取ってくれて手についた紅茶を拭くようにハンカチもくれる。


「これは?」

「私が刺繍したハンカチです。どうぞ使ったら捨ててください」


 王国でハンカチを渡す意味は、戦で命を落とさないように大切な物の無事を願うことだ。


 そして、捨ててくださいは。私と別れてくださいを意味する。


 そうか、私はいつの間にかお前を傷つけたのか? お前を見ていなかったからか? お前が好きだと花婿候補になるために頑張っている際に、お前を蔑ろにしたからか?


 もうお前の心は私にないのだな……。


 ぐっと、私はハンカチを握りしめた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです!!


素敵なレビュー頂きました。

本当にありがとうございます。


切ない話が続きましたが、次からは明るい話にしていこうと思います。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る