第三十八話 図書館の妖精
学園に入学すると様々な授業があり、かつての私は王女様の側で未来の花婿に必要な授業ばかりを取っていた。
だが、今の私は自由の身であり、卒業後は母上の手伝いをするために領地経営をしたい。男性は貴族として爵位を継ぐことはできない。
だが、サファイアは王都で大将軍になるために頑張ることだろう。私はサファイアが収める領地をしっかり管理する役目を担ってやりたい。
そこで多くの女性を愛して、子供を作り、領地の活性化をすることが将来的な目標だ。王国全土を支える父にはなれなかったが、一領地の父と呼ばれるぐらいにはなりたいものだ。
女性は身籠れば働くことが困難になる。
また小さな子供がいる間は、乳飲子たちの生存率をあげるためにも、母親が働かなくても養ってやれるような領地経営がしたい。
私は強い女性たちに支えられるばかりではなく、彼女たちが体を動かす分を頭を良くすることで支えになりたい。
学園は素晴らしいところで、魔法、騎士、学士、商人、農業、医術など様々なことを学べ。
かつての私は商人、農業、医術の勉強を頑張ることで、米を知り、市場価値の上昇や、王女様が怪我をした時のことを考えて医療を学んだ。
そのおかげでシンシアを救うことができた。
では、今回の私は何を学ぶべきなのか? 同じことを繰り返しても仕方がないと思う。そこで魔法と学士を学ぼうと思っている。
魔法はヴィのお陰で雷を得て、さらに自分の得意な回復魔法はかつての記憶で随分と研鑽が積めている。
そこに正確な知識を入れることで、より深い理解が得られると思う。
「学士は領地経営などの帝王学が学べるのだな」
学士は教養などの一般教育から、貴族が受ける帝王学。
領地を収めるための処世術の授業などが含まれていて、私が知らない貴族の女性たちのことなども知ることができる。
王国には、二つの公爵家、五つの侯爵家、二十の伯爵家、五十の子爵家、百の男爵家、そして、地方辺境伯、準男爵、騎士爵という貴族の位が存在する。
伯爵にも階位が存在するので、厳密には位がそれぞれあるのだが、高い位に着くと領地をもらい受け。領地経営が必須になる。
貴族たちの中には王都に住んで、細々と暮らしている者も多くいる。
そのため一概に貴族と言っても千差万別であり、領地を持つ貴族のことを上位貴族。王都で官職に就くものを中位貴族。そして領地も、仕事も持っていない、貴族の位によって支給される年金だけで細々と生活する下位貴族に分けられる。
下位貴族に生まれたとしても、しっかり勉強をして官職について仕事をすれば中位にはなれるのだが、楽を覚えた下位貴族は怠惰な日々を過ごしてしまう者が多い。
「学士の授業をとったことで、より詳しく歴史を学ぶことができて、とても面白い」
歴史の授業はかつての私も受けていたが、花婿候補は知らなくても良い内容だと省かれていた。
内容的に、堕落した貴族や、没落した人々など見るに耐えない人物たちを、私に見せたくはなかったようだ。
アーデルハイド先生は、本当に良い先生だった。
だけど、私と同じく真面目すぎるところがあったようだ。
ゴシップ的なネタは私の耳に入れないようにしてくれていたのだろう。
そんな授業内容を楽しく聞いていると、ふと調べたいことがあり私は図書室を訪れた。
「確か、古い貴族たちの年表録があったはずだ」
昔見たことがある貴族たちの活躍や、その家ができた経緯が書かれた記録を思い出して読みたくなった。
そんな思いで訪れた学園の図書館はとても広くて、どこに何があるのかわからない。困り果てていると、メガネをかけた一人の女性を見つけた。
私は空き時間だが、まだ授業時間中だったため誰もいないと思っていたので驚いてしまう。
大人しそうな女性は窓際で光に当たって眠ってしまっていた。
「失礼」
私が何度か声をかけると、女性は肩をビクッと振るわせて目を開く。
「ふぇ?」
「こんなところで寝られていては風邪を引きますよ」
「あっ、これはご親切にありがとうございます」
小柄でメガネをかけた可愛い女性は、柔らかな雰囲気と笑顔で私にお礼を告げ
ました。
「いえいえ、それは良いのですが。今は授業時間ですが寝ていて大丈夫ですか?」
「あ〜」
驚く間もゆっくりと柱時計に目をやるが、呆然と眺めたまま固まってしまう。
「あら〜、やってしまいました。サボってしまったようです〜」
あまり慌てている様子もない彼女に、私は苦笑いを浮かべてしまう。
「急がなくても良いのですか?」
「も〜、すでに〜、半分ほどが過ぎているので諦めます」
のんびりとした口調とは裏腹に、決断力は素晴らしい。
「そうですか」
つい、おかしくて笑ってしまう。
「あ〜、笑いましたねぇ〜。そういえば〜、男性の方です〜」
どうやら私が男性であることに今気づいたようです。
どこまでもマイペースな人に私は面白いと感じてしまう。
初めて会う女性なので、名前も知らないが好感が持てる。
「すいません。あなたはネクタイの色的に先輩ですよね?」
学園では、学年別でネクタイの色が分けられいる。
「そうで〜す。二年のイージスだよ。サラ・イージスよろしくねぇ〜」
小柄で眼鏡なほんわか先輩が嬉しそうに声をかけてくれる。
「どうして図書館で寝ているのですか?」
「ふふ、それはね。私が図書館の妖精さんだからだよ」
へっえんとふんぞり返る。
「はい?」
「冗談。だけど、図書館に誰よりも長くいるのは本当。君こそ授業中にどうして図書館にいるの? サボり? 男の子なのに大胆〜」
「違います。探している本があって」
「なになに? お姉さんに言ってみ」
「貴族の年表録なのですが」
「あ〜、あれね。ちょっと待ってて」
そういうとイージス先輩はトコトコと音がしそうな足取りで、どこかに歩いて言ってしまった。図書館の中は広いので一度見失うと本棚の影響で人探しも難しくなる。私は、探すのを諦めて元の場所に戻った。
「どこ行ってたの?」
「えっ?」
先に戻っていたイージス先輩が本を渡してくれる。
「はい。これだよ」
「いつの間に」
「ふふ、言ったでしょ。私は図書館の妖精だって」
自慢げに胸を張れば、意外に大きな胸元がご立派に強調される。
「ありがとうございます。助かりました」
「ふふ、いいよ。男の子とお話ができるってなんだか幸せだからね〜」
のんびりとした雰囲気をしたイージス先輩との出会いは、私にとっても癒しになって嬉しかった。
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