第三十九話 一度目の接触

 私はあれからイージス先輩と共に本を読むのが、空き時間の日課になっている。

 イージス先輩は、図書館の妖精と自分で言うだけあり、多くの知識と、本の配置を理解されている。

 10万冊はあると言われている図書内の配置をほとんど全て覚えているのだ。


 その日もいつも通り、空き時間ができたので図書館へ入った。

 すると、珍しく話し声が聞こえてきた。

 私とイージス先輩以外がいるのは珍しいので、イージス先輩の友人だろうと思って、邪魔をしないようにイージス先輩がいる方を避けて図書館を一周する。

 つい、いつもの癖でイージス先輩がいる場所へと戻ってきてしまった。

 

 そこには先ほどのような話し方ではなく、言い争うような声が聞こえてきた。


「おいおい、僕の言うことが聞けないのか?」

「ハァ〜、あなたは〜、私の言うことを聞いていないではないですかぁ〜」

「聞いているだろうが! こんなところで一人でいるお前を僕の彼女にしてあげるって言っているんだよ」

「だ〜か〜ら〜、間に合ってますって言っているではありませんか〜。私にあなたは必要ありません」


 イージス先輩が大きな胸の前でバッテンを作る。

 その仕草が可愛くて、微笑ましく思えてしまう。


 それしても声をかけている人物を見て、私はびっくりしてしまった。

 そこにいたのはナルシス・アクラツなのだ。

 王女様の側にいないと思えば、こんなところでイージス先輩に声をかけていた。


 それもあろうことか、「僕の彼女にすると」言う発言は流石に聞き捨てならない。

 私はナルシスに関わらないでおこうと思っていたが、友人のイージス先輩が迷惑しているのを見て見ぬ振りはできない。


「そこで何をしているんだ?」

「何?」

「あ〜、マクシム君いらっしゃいなのです〜」

「お邪魔します。イージス先輩」

「マクシム君は歓迎なのです。さぁさぁ、あなたはさっさと立ち去ってくださいねぇ〜」

「ハァ?! さっきの返事を聞いてないだろ?! 僕の彼女になれ! これは命令だ。僕は王女様の花婿候補なんだぞ!」


 私が間に入って、イージス先輩が立ち去るように促したのに関わらず、激昂するナルシス。私がどうして彼を嫌いになったのか思い出した。


 かつてのナルシスの周りには、いつも別の女性がいた。

 私は花婿候補として王女様しかいなかった。

 別にそれを悪いとは思わなかったが、生理的に嫌いだとは思った。


 複数の女性と付き合っていることが生理的に無理なのではなく、隣にいる女性一人一人にナルシスは真摯な態度と取っていなかったのだ。


 あるときは、「お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!」と女性に吐き捨て。あるときは、「なんで僕の言うことが聞けないんだ! お前は僕の彼女だろ。つまらない女だ」と罵っているのを見たことがある。


 それを見て嫌悪感を感じた。


 だが、今回花婿になったことで落ち着くかと思ったが、それを盾にして女性に言うことを聞かせようとするとは呆れ果てたやつだ。


「あのねぇ〜、君が誰か知らなかったけど。王女様の花婿候補なら〜、あなたの彼女は王女様でしょ? 王女様以外と花婿は浮気してはダメなんですよ〜」


 イージス先輩がいつも優しい雰囲気でナルシスを諭そうとする。

 だが、そんなイージス先輩の行為をナルシスは素直に受け取らなかった。


「うるさい! いいから花婿候補様に従え!」

「いい加減にしろ!」


 駄々っ子のように騒ぐナルシスを一喝する。


「なっ! なんなんだよお前! お前には関係ないだろ?!」

「関係のあるなしではない。困っている女性がいて、困らせている迷惑な男がいる。それを見過ごせる私ではない!」

「うっ、なっ、なんなんだよお前は」

「いいか? 花婿候補とは、王国の父と呼ばれる存在だ。全ての女性から憧れ、それを王女様が所有している。そこに価値があるのだ。貴様のような女性を困らせるようなことをするものではない!」


 私の剣幕に対して、ナルシスは言葉を失った様子で、ジリジリと後ずさる。


「うっ、うるさい! 偉そうに説教してんじゃねぇ! お前だって綺麗な女を何人も侍らせているじゃないか?! ボクだって、女性が多い世界なんだからそれをしても許されるはずだろ?」


 あまりにも利口とは言えない発言に、私は深々とため息を吐いた。

 どうしてくれようかと頭を抱えてしまう。


「それは違うよ」


 だが、意外な人物から否定の言葉が上がる。


 いつもはのんびりと優しそうな話し方をするイージス先輩が、立ち上がって毅然とした態度を取っている。口調もハッキリとした物言いを意識している。


「なっ、何が違うって言うんだ?」


 ナルシスの叫びに、イージス先輩は窓から差し込む光に照らされて、堂々とした態度で言い放つ。


「君とマクシム君は違う!」


 私はイージス先輩の横顔に美しさを感じてしまう。


「君は他人の権力で女性を物のように扱おうとした。だが、マクシム君は私を一人の友人として扱ってくれた。その時点で君と彼とでは好意を向ける度合いが変わってくる。私も一人の人間だからね」


 イージス先輩が私を見て笑ってくれた。


「何よりも、君には花婿候補として様々な人間が期待している。それを無碍にしている君の行為は、国民である私たちが見ているぞ。そして、女王となられる王女様も見ていることを忘れてはいけない」

「ふっ、ふん。お前のような女など代わりはいくらでもいるんだ!」


 流石に分が悪いと判断したのか、ナルシスは捨て台詞を吐いて立ち去っていった。


「ふぅ〜、久しぶりにいっぱい話したので〜、疲れました〜」


 気を抜いたイージス先輩がニヘラと力の抜ける笑い方をしました。


 私はそんな先輩と瞳を合わせて笑ってしまう。


「ありがとうございます。先輩」

「ふふ、どうですかか〜? 私はかっこよかったですか〜?」

「はい。とても」

「なら、将来はマクシム君のお嫁さんにしてください〜」

「えっ!」

「先ほど、彼にも言ったけど君ほどの〜。好感を持てる人はいないのです〜。体には自信がありますよ〜」


 ボインボインと柔らかなボディーで抱きしめられる。


「それともこのまま食べてしまいましょうか?」

「あっ、いや、次の授業があるので!」

「ふふふ、いつでもお待ちしてますよ〜」


 服を脱ぎ出しそうなイージス先輩を話して私は自分の顔が赤くなっているのを感じてしまう。


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