第十四話 奉仕活動 終

 半年をかけた貧民街の大改革は一つの終結を迎えることができた。

 孤児たちは、一ヶ月ほどで自分たちの生活ができるようになり。私は週に一度だけ、彼女たちに男性に慣れてもらう時間を取ることにした。

 それ以外では、教養を学ぶ時間として、文字や計算、歴史などを学ばせている。


 獣人は、身体能力が高い者が多く。

 物覚えもいいので、ベラ隊長が指導する騎士訓練は、子供たちも楽しくできているようだ。


 さらに、貧民街の清掃も完了して、壊れた家は修繕した。仕事もなく体力が低下していた物たちは回復魔法と食事を与えた。

 名前と、できることを聞いて、彼女たちに仕事の斡旋なども行うことにした。


 貧民街とは言われているが、王都にある区域なのは間違いないため、物流を流通させて、仕事を与えることで十分に街としての機能を取り戻すことができる。

 その結果としてブラックウッド家の仕事を優先的にしてもらえる人材を確保できたので、王都にこだわらない者たちには、ブラックウッド家の領地に移動してもらって、農地や領の工事の人員にあてがった。


 仕事を与え、領地も良くしていく。

 

 一石二鳥だったことに、母上も喜んでいただけた。


「マクシム。あなたが考えた政策のおかげで我がブラックウッド家は人材確保ができただけでなく、他の貴族たちからも、さすがは侯爵様と褒め称えていただいたわ」

「そうなのですか?」


 いつもの夕食風景で母上が嬉しそうな顔をされているのは、私としても嬉しい。


「母様、兄様は聖男に選ばれてしまうのでしょうか?」

「いいえ、それはないわ」

「どうしてですか?」

「マクシム自身が望んでいないからよ」

「兄様はどうして聖男が嫌なのですか?」


 サファイアの質問に、私はかつてのナルシスの顔が浮かぶ。

 きっと過去に戻ったということはナルシスは、聖男になるために色々と策を講じているはずだ。


 私は、ナルシスと争うつもりはない。


 花婿候補も争わないし、聖男の座も欲しくはない。

 

 むしろ、大切な人たちと安全安心な未来を迎えるために、清く正しく清廉潔白に生きることを目指した方がいいだろう。

 そして、未来に起こる厄災に対して、私ができる限りの処置を講じていた。


 それでも訪れる未来がどこまで変革できるのか全く読めないのだ。


「私は誰かと争ってまで、その地位を欲しいとは思わないんだ。それよりも自分が大切に思っている人たちが、幸せに暮らせるための準備をしていたいと思うぐらいだよ」

「兄様は優しいのです!」

「そうかな? 私は私の力を過信しないでいようと思っているだけだよ。自分ができないことを無理にはしない。そして、手に入らない物を求めて他の人たちに迷惑をかけたくはないんだ」


 女王陛下を今でも好きなのか、本当はわからない。

 むしろ、私の気持ちは好きだったよりも、執着に近いと思っている。

 花婿候補として勉強をしてきて、学園に行く際に花婿に選ばれ、私は驕ってしまった。

 

 自分こそが選ばれた存在なのだと、傲慢になり女王陛下に近づく男を嫌って遠ざけようとしていた。


「マクシム。あなたは次は何をしたいのかしら?」


 母上の質問に、私は思考を巡らせて一つの答えに辿り着く。


「友人を作りたいと思います」

「えっ? 友人ですか?」

「はい。私には男性の友人がおりません。ですから、一人、できれば二人ほど友人を作ってみたいと思います。サファイアとシンシアの関係を見ていて思いました」

「ふふ、それは意外でしたが、良いと思います」

「兄様! お友達は凄く良いものです。シンシアは最近、兄様のことばかり聞いて来るんですよ!」

「はは、なかなか会いに行けていないからね。半年が経って随分と元気になったとサファイアが教えてくれるのが私も楽しみだよ」

「そうなんです。シンシアったら病気が治ってからは食事も摂るようにして、魔法の練習も始めたのですよ。元々、体が弱くて動くのは苦手でしたが、魔法の才能はヴィに負けぬものがあるという話です」


 死の淵を彷徨った者は魔力が上がるという話があるが、シンシアももしかしたらそうなのかもしれないな。


「それは凄いね。母上」

「何かしら?」

「母上のお知り合いに男性の子を持つ方はおられませんか?」

「そうね。知っている人なら結構数名いるのだけど、親しくしているわけではないから、一人だけかしら」

「母上のご紹介でしたら私も会うことができると思います。その子をご紹介いただけますか?」

「あ〜紹介はできると思うのだけど、ちょっと変わった子なのよ。大丈夫かしら?」

「どんな方でも構いません。話してみなければダメかどうかもわかりませんから」

「マクシムは本当に活動的になったわね。わかったわ。相手に聞いてみます」

「はい。よろしくお願いします」


 奉仕活動を一段落させた私は、友人づくりを始めることにした。

 せっかくのやり直しなのだ。


 前回していないことを全てしたい。


 私はこんなにも世界を知らなかったのだから。


 夕食を終えた私はふと月の美しさが気になって庭に出た。


「今日は満月か」


 美しい月は囚人として収容されていた時にも見ることができたが、このように自由の身で見れる幸福がこれほど嬉しいとは思わなかった。


「マクシム様?」

「誰?」


 月明かりで相手が見えないで呼ばれた私は振り返りながら意識を失った。


「何が?」


 意識を失う瞬間、自分が囚われることなど考えていなかった。

 

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