side ー 聖男 4

《side ナルシス・アクラツ》


 花婿候補の授業は僕が考えていたよりも想像を絶する面白くない物だった。

 元の世界で培った数学や歴史は全く通用しない。


 王国の歴史から、教養、礼儀作法、最悪なのは刺繍だ。

 なんで男が刺繍をしなくちゃいけないんだ。

 僕はこういう細いことが大嫌いなんだ。


「そこ、歪な針の入れ方になっています。これがあの方ならば完璧にするのに」


 僕は比べられるあの方とやらに殺意を覚えそうになってきた。

 この傲慢家庭教師は常に僕とそいつを比べるようなことをいうのだ。


「あ〜めんどくさい。毎日毎日毎日。勉強ばかりで息が詰まる! たまに外に出る授業はないの?」

「そうですね。ナルシス様は何かしたいことはありますか?」

「そろそろ聖男と呼ばれる準備をしておきたいな。それに獣人たちでモフモフもいいだろうな」

「ほう、具体的に何をなさるのですか?」

「孤児院だよ。孤児院の悪辣な環境にいる子達を連れてきて、僕の世話をさせるんだ。この間の授業で、国のどこの領にでも貧民街があって孤児がいるんだろう?」


 これは家庭教師であるアーデルハイドに習ったことだが、王都にも貧民街があり、孤児たちは国から支援を受けていると言っても最低限であり、毎日満足いく食事も取れていないという。

 

 そんな話を聞いたなら、役立てずにはいられないよな。

 今の男爵家は昔のように貧乏じゃない。

 僕の支援をするために、多くの貴族たちが貢物をしてくれている。

 そこお陰で家庭教師を雇って、僕の食事や着る服も良くなっているからな。


「もうおりません」

「はっ?」

「ですから、もうおりません」

「どういうことだよ?!」

「私も本日のニュースを読んで知りました。ナルシス様は新聞は読まれませんか?」


 貴族新聞とかいうふざけた新聞はどこどこの貴族が有名な宝石を手に入れたとか、どこどこの男性がかっこいいらしいというふざけた噂程度の記事を数ページに渡って書かれている。

 最初は、この国のことを知るためにと思って見ていたが、くだらないと思って読まなくなった。


「ハァ、新聞は教養の一つです。今後は毎朝目を通すようにお願いします。情勢や市場を知ることは国を代表になる上で最も必要なことの一つです」

「はいはい。それで? もうおりませんとはどういうこと?」

「はい。ブラックウッド家が貧民街の大修繕を行いました」

「はっ?」

「ですから、ブラックウッド家が貧民街に炊き出しを行い、孤児を救ったと報じられていたのです」

「なんだよそれ! 僕以外にもそんなことをしようとする奴がいるってこと?」

「そうなりますね。しかも、ブラックウッド家は、自分の領でも同じことを行って、領地の改革に乗り出したことも報じました」


 クソっ! 大貴族が出てきたら僕のありがたみがなくなるじゃねぇか!

 

 お金だけじゃなくて人員まで使いやがってクソが! 


「お顔が醜くなっておりますよ」

「うるさい!」

「ふぅ、この程度のこと動揺を隠せなくてどうするのです? それに聖男になるための手立ては他にもたくさんありますよ」

「そうなのか? 貧しい者を救う以外に手立てが?」

「はい。人を救うことは美談になりますが、もっと大きなことをなされば良いと思います」

「なんだよ大きなことって!」

「そうですね。一つはナルシス様も発言された奉仕活動です。恵まれない地方を巡って男性として奉仕活動をすれば人々から支持は受けやすいです。何年か前の聖男は巡礼という形で、各地を回って子を授けたと言われています」


 なんだよそれ! 田舎に行って女を抱きまくれってことかよ!

 僕は女王陛下の夫になる男だぞ。そんなことできるはずがない。


「却下!」

「では、環境改善でしょうか? 王都周辺でも魔物の出没が確認されています。本来は女性がやる危険な仕事を手伝うことで、旗印となり指揮向上に努めます」


 魔物の討伐か、魔法や戦闘の訓練になっていいかもな。


「ただ、荒くれ者の冒険者や傭兵たちに襲われる危険もあります」

「なんだよそれ! 身の危険ばかりじゃないか」

「それは仕方ありません。聖男とは、自らの身を顧みることなく女性に尽くせる男性のことを言うのです」


 なんだよ。それじゃ聖なる男じゃなくて、性なる男じゃないか。


「もういい。とりあえず買い物をしながら街の様子でも見にいくぞ」

「わかりました。護衛も兼ねて同行します。そうですね。街で言うならば、仕事がない者たちに仕事を与えるって言うのもありかもしれません」

「仕事を与える?」

「はい。雇用を受け入れれば社会貢献の一環になります。ナルシス様が最初に言われた孤児は幼いため教育が入りますが、すでに成人している女性に雇用を設けるので、教育は必要ない場合があります」

「なるほどな。よし、そういう人材がいないか探しにいくぞ」

「かしこまりました」


 くくく、僕だけの命令を聞く駒を作ってやる。


 そのついでに慈善活動をして、聖なる男へ近づくんだ。


「ちなみに教育されていない女子は、男性を襲う恐れがありますので、あしからず」

「獣かよ!」


 僕はアーデルハイドの脅しに屈することなく街へと飛び出した。


 前に買い物に出た時は世紀末みたいな女がいたから警戒は怠らない。


「おや?」

「どうされました?」

「前に来た時よりも街の雰囲気がいいな」

「はい。孤児がいなくなり、貧民街の者たちが盗みや暴力を使うことが減りましたので、治安がよくなっております」


 少し街を歩けば、前回との違いがすぐにわかってしまう。

 それぐらいに街の雰囲気がよくなっていた。


「これで雇用向けのやつはいるのかよ?」

「さぁ?」

「ぐっ!」


 しばらくアーデルハイドと街を歩いて、見つけられたのは以前に僕を捕まえた世紀末巨太女とガリガリの病的女だった。


 二人は街の変化に馴染めなくて、途方に暮れていたので声をかけてやると僕の後についてきた。

 メイドとして雇い入れることが決まったので、僕として雇用の一歩を進めたことになる。


 本当に大丈夫なのか不安だか、何事も一歩目が肝心だからな。


「これからよろしく頼むぞ」

「は〜い! 絶対にナルシス様のために痩せるわ!」

「私も健康になる」


 自分のことじゃねぇか! ハァ、とにかく二人をメイドとして教育もアーデルハイドに頼んだ。


「かしこまりました。その分の給金も請求させていただきます」

「はいはい。そう言う話は母さんとしてね」

「はい」


 お金はあるんだ。問題ない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。

思っていたよりもたくさんの方に読まれてアクセス数が伸びて嬉しく思っております。


よりたくさんの方に読んでくだされば嬉しく思います(๑>◡<๑)


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感想などもいただければ作品が生きてきますので、どうぞよろしくお願いします。

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