第十話 奉仕活動 2
シンシアの病を改善したことで、伯爵から大変なお礼を受けた。
その表情には感動と感謝が込められていて、自分が行った行為で、他人からここまで感謝されるのは初めてかもしれない。
私にとっては家族へ何かをするのは当たり前になってきた。
シンシアの主治医が、状況を聞いてやってきた。
妙齢の女性は診断魔法と言われる医療魔法を使ってシンシアを診断した。
「本当に治っている! 肺にあった影も、心臓の萎縮も」
未来の知識として、知っている私だが、彼女はこの時から使えていたのだな。
過去の記憶がなければ、私にも治療は難しかった。
どうやって治すことができたのか教えてほしいと懇願されたほどだった。
その話は後日するというまでは、離してくれなかったので
「しかし、シンシアを助けたことは他言無用に願いします」
「何故ですか? あなた様の所業はまさしく聖男となるべき行い。我が一族は一丸となって後押ししますよ!」
シンシアのお母様に当たる。
ジール伯爵は、とても可憐で綺麗な女性だった。
ただ、その瞳は血走っていて、何がなんでも私の支援をしたいという目をしていた。だが、私としては聖男として祭り上げられることを喜ばしいとは思わない。
それは、ナルシスと敵対する行為であり、また国の重鎮たちの目に留まって厄介なことになりかねない。
「それは結構です。ハッキリ申し上げて聖男になりたくないんです」
「何故なのかお聞かせ頂いても?」
私は心配そうに見ているサファイアを見る。
「私は大切な人たちだけを守りたいんです。この国全体は私は助ける気がない。自分が気に入った女性だけです」
私は善人でいるつもりはない。
いや、かつての私は女王陛下の花婿になって、国民の父になるつもりだった。
だが、それは私には向いていないことを知った。
「自分が気に入った女性だけ……。それは選別されるということですね。なるほど!」
えっ? 選別? 何それ?
「つまりは、マクシム様に選ばれた女性しかお側に近づけないということですね。承知しました。聖男など必要なく。すでに神の領域に達したマクシム様は女性を選ぶと。ふむふむ、そのお考えを尊重します!」
あれ? 変な方向に話が進んでいる気がするぞ。
「そうなのです! 兄様は悪男を目指すと言われていました!」
サファイア! 今その発言をするのは、誤解を生んでしまうぞ!
「なるほどです。我道を進む。だからこその悪男。聖男の反対という訳ですね。誰からかまわず愛を与えるのではなく。選ぶのは自分だと! ふふふ、面白くなってきましたね」
ジール伯爵? 血走った目じゃなくなったけど、物凄く悪い顔をしているぞ。
「そうなのです。えっへん。その選ばれた中に私もいるのです」
えっ? 何言っているの? 確かに、サファイアは大切な妹だけど、女性としては見てないよ。
「そうだったのですね。そして、我娘のシンシアも。あの子は病弱で今後を心配しておりましたが、ありがとうございます。あの子は見た目が良いので、必ずマクシム様のお眼鏡に叶うように育て上げて見せます!」
え〜なんか凄く誤解をされている気がする。
「ふふ、よかったのです! シンシアが助かって私も嬉しいのです」
サファイアが心から喜んでいるから、これはこれでよかったのか?
「サファイア、そろそろ帰ろうか」
「はいなのです!」
「マクシム様、マクシム様が欲しいと思った女性をどうか私にも教えてください」
「えっ?」
「必ずや、その女性をお救いして差し上げます」
救う? まぁ、困った子がいれば助けようとは思っているが。
ふと、庭を見ればせっせと庭の手入れをしている少女が目に飛び込んできた。美しい顔ではないが、元気があって眩しく見える。
だが、庭師の少女は一生を庭師として生きるのだろう。
「あの子が気になりますか?」
「えっ? あぁ、庭師で元気が良いと思うな。ただ、シンシアのメイドにして教育を受けたらあの子にも別の道があるのかなってぐらいだ」
私にとっては関係ない。
ただ、ふとそう思っただけだ。
「かしこまりました。本日は、我娘、シンシアのために様々なご配慮ありがとうございました」
何をかしこまられたのかわからないが、まだ体調が万全ではない。シンシアに変わってジール伯爵が見送ってくれて、執事やメイドなど屋敷の者たち全員に見送られて馬車は走り出した。
シンシアが二階の窓から手を振っていたので、手を振り返して上げる。
「マクシム様は不思議な方ですね」
「アルファ?」
「少し前までは、皆に冷たく、あっ」
「いいよ。それも事実だ」
「はい。皆に無関心だったと思います。ですが、今のマクシム様は暖かくお優しい」
「そうだな。私としては、これが本来あるべき姿なのだと思う。高すぎる理想のために周りを巻き込んで破滅してしまうよりも、自分の手の届く範囲の者たちを守れればね」
「素晴らしい志にございます」
自分の力が、認められたような気がして、嬉しい気持ちになった。
もしも、私の力で人が救えるのであれば、もっと力を使いたい。
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