第九話 奉仕活動 1

 私が過去に戻ってきて一年が経とうしていた。

 その間にしたことは家族と過ごす時間を大切にして、魔法と戦闘訓練を鍛えることに重きを置いた。


 未来のヴィが残してくれた魔法同調のおかげで、私は新たな魔法を使えるようになった。

 

 雷の魔法だ。


 人によっては、魔法には属性があり、ブラックウッド家は強化系の魔法を得意としていた。肉体や武器の強化を行うことができるため戦闘では優いに立てる。


 しかし、貴族たちは自然を操る五大元素を得意としているものが多い。


 火、水、土、風、光


 それぞれに特徴があり、ブラックウッド家は唯一風を使うことができる。

 雷は風の応用であり、ヴィが与えてくれた力によって、魔法の応用が使えるようになったというわけだ。


 そこに男性特有なのか、私には元々得意な魔法が存在する。


 これは過去の記憶を持っているから知っていることだが、私には回復魔法の素養があり、傷ついた騎士たちを治してあげることができるのだ。

 長年の治療によって、私はその力を強めることに成功しており、人間のどういう部分を直せば、治療ができるのか大体把握していた。


 そのため雷の魔法についての修練を積み。

 回復魔法の練習を重ね。

 肉体的な成長を促すように、運動と食事を摂るように心がけた。


 何よりも気にしたのは食事だ


「こんなにも美味いのか! シェフよ。いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう」

「そっ、そんなマクシム様にお褒めいただける日が来るなんて、一生の幸せにございます!! 一生、マクシム様のスープは私が作ります」


 牢屋に捕まり、碌な食事も食べることができなかった私は食事を食べることだけで感謝した。

 そして、それを美味しく調理してくれるシェフにも感謝した。

 シェフを雇ってくれた母上にも感謝した。


「母上、素晴らしいシェフを雇っていただきありがとうございます」

「えっ、ええ。マルエフはいつも良くしてくれているわね」


 私が感謝を伝えた日から、シェフの気合いがすごい事になって、豪華なだけでなく味の探求を始めて腕を上げている。


 だけど、私としては最後の食事だと与えられた、白いパンとコーンのスープが一番美味しいと知っている。

 最後の時に何を食べたいと聞かれたなら、もう一度あの食事をしたい。


 空腹と最後に食べられる物だと思うと感動で涙が出たことも覚えている。


 そんな日々に変化が訪れたのは、急にサファイアが部屋と飛び込んできた。


「兄様、私はどうすればいいのでしょうか?」


 そう言って相変わらずノックをするのも忘れて入ってきたサファイア。


「どうしたんだ?」

「友達のシンシアが死んでしまうの」

「えっ?」


 私は過去の記憶を辿ろうとするが、サファイアの交友関係について全く知らない。過去の自分はサファイアの興味がなくて知らない。

 女王陛下の側近として幹部になる者たちの記憶はあるのだが、その者たちも少女時代は何をしていてのか知らないのだ。


「シンシアさんはサファイアの友達なんだね」

「そう。だけど、手紙がきて病気が治らないから、もう会えないって」


 泣き崩れる妹に何かしてあげたい。

 そう思うほどに私の心は一年前よりも優しくなれているだろうか?


「……そうか、ねぇサファイア」

「はい?」


 悲しそうに私の顔を見上げる顔を見るとどうにかしてあげたくなる。


「シンシアさんの家には男性がいるの?」

「いなかったと思います。シンシアは、伯爵家ですが男子に恵まれることなく女性が二人いただけです。シンシアは妹になるのでお姉様がいたはずですが」

「そうか。もしも、だけどシンシアさんは死ぬ前に男性に会いたいと思ったりはしないかな?」

「えっ?」

「死ぬ前のお願いとして、私がシンシアさんに会いに行ってあげれば少しは元気になってくれるんじゃないかと思って」

「兄様! お優しいです」


 サファイアはすぐにシンシアさん宛に手紙を送り、私が会いに行ってもいいかと連絡をした。

 すると、返事は早く。死ぬ前に一目男性に会いたいとシンシアさんも喜んでくれたようだ。



 サファイアとともに伯爵家に訪れると盛大な歓迎を受けた。

 伯爵自ら出迎えてくれて、シンシアの部屋まで案内してくれる。

 姉の方は、学園に入学して寮生活をしているので、今はいないそうだ。


「シンシア!」


 部屋に入るなり、サファイアがシンシアに抱きつく。

 病人にして良い行為ではないが、シンシアの気持ちが爆発しているのだろう。


「サファイア様、来てくれてありがとうございます」


 運動して健康的なサファイアとは違って、シンシアは痩せ細って、病弱であり顔色も優れない。お見舞いが来るということで紅を塗って赤くしている。


「初めましてシンシア。サファイアの兄でマクシムと申します」

「はい! 存じております。死の床に伏せる私のために会いに来てくれたこと心より感謝します。男性を見ないで死なずに済みました。そして、なんと美しい方なのか、天使様が迎えに来てくれたようで嬉しいです」


 私に天使様と言ってくれるが、儚く痩せ細りながらも美しい容姿をしたシンシアは今まで出会った中で一番綺麗な女の子だと思う。

 もしかしたら、未来では死んでしまって出会うことがなかったかもしれないな。


「少しだけ君の体に触れてもいいかな?」

「えっ? こんな痩せ細った体でも良ければ」

「兄様! そういう趣味があるのですか?! 私ももっと痩せないとダメ?」

「不謹慎なことを言っているじゃない」


 私はサファイアの勘違いを叱ってから、シンシアの全身を私の魔力で包み込んで、お腹に手を置いた。

 触ってみれば、心臓と肺がある部分に黒いモヤのような物を見つけることができた。


 回復魔法を使う際に、三つの理由を考えなければならない。


 部位を欠損するなどの怪我は修復するように治すだけでなんとかなるのだけど。

 病を含んでいる際に、修復をしてしまうと病の促進になってしまうことがあった。流行病や体の中に生まれた病魔が原因になると後から知ったんだ。


 最後に、魔法などで受けた呪い系の病は、呪いを祓わなければ解決することはできない。


 これらを解析して根本的な治療が必要になる。


 私が今回見つけたのは心臓と肺の病だ。

 心臓に関しては、本来の心臓よりも小さく脈打つのが弱い。

 肺は運動機能自体が弱まったところに病が巣を作っている。


「シンシア。もしも、私が病気を治してあげたらどうする?」

「えっ?」

「兄様! 流石に不謹慎です!」


 部屋の中には三人だけなので、サファイアに私の発言を叱られてしまう。


「……マクシム様に一生を捧げます」

「シンシアも何言っているの!」

「そこまではいいけど。私が困ったときに助けてくれるかい?」

「もちろんです!」

「なら、治そう」


 私は心臓の血流が悪いところを良くして、働きを良くしていく。

 さらに肺に巣くった病魔を魔力で薙ぎ払い。

 肺に直接魔力を流し込んで、体調を整えた。


「えっ?」

「シンシア! 大丈夫?」

「サファイア様、苦しくないです」

「えっ?」

「ずっと胸が痛くて、息が苦しくて、もうダメなんだって思っていたのに全然苦しくありません!」

「もう、君を蝕んでいた病魔は取り除いた。ただ、魔力を強めないと免疫力が低下するから、一年間は屋敷から出ることなく適切な食事と、魔力強化に努めなさい」

「あっ、ありがとうございます! マクシム様」


 涙を浮かべるシンシアに抱きつかれた。


 サファイアに続いて抱きつきまが増えてしまった。

 

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