side ー サファイア 2

《sideサファイア》


 「ヤァ! 次」


 稽古場で騎士を倒して気合いを入れる。


 兄様が花婿候補を辞める宣言をして、女性の勉強を始めた。それは喜ばしい。色々な妄想をして昨日は眠れなかった。


「サファイア様、今日は気合いはいりすぎじゃない?」

「そ〜ねぇ〜。ちょっとしんどいわねぇ〜」

「二人とも! 次!」

「いやだよ」

「む〜り〜」

「もう! 気合いが足りないよ!」


 私は従者をしてくれている二人の元へ声をかけに行く。騎士なのに化粧をして、派手な見た目をしたイシュア。のんびりとした口調で、おっぱいの大きなウルリ。 


 二人とも同い年なのにイシュアは身長が高くて大人びて見える。ウルリはおっぱいが大きくなり出して女の子らしい。

  

「いやいや、サファイア様が気合いはいりすぎじゃね? 何かあったん?」

「えっ?!」


 兄様のことは一応内緒ということになっている。

 兄様の従者であるアルファは知っているけど、アルファにも口止めをして、兄様にも誰彼構わず言ってはいけないと母様が言いつけていた。


「うっ、ううん。なんでもないよ! でも、兄様を守れるようになりたいって思って」

「あ〜、マクシム様か〜、マジでエロいよね」

「コラ! イシュちゃん。兄様をそんな目で見ないで!」

「え〜! 無理だって、この屋敷に住んでて唯一の男子だよ。しかも、無防備で、あの容姿って反則じゃない? こっちの理性が飛びそうで必死だっての」

「そう〜ねぇ〜。ま〜だ〜私たちが子供だから我慢してるけど〜、大人になったら〜襲っちゃいたいわ〜」


 二人とも私の兄様への欲望を隠そうともしないよ。

 絶対に兄様の変化を教えるわけには行かないよ。


「そうだ。サファイア様が頼めば、ワンチャン模擬戦をしてくれんじゃね?」

「そう〜ねぇ〜。ベガ師匠ぐらいしか、マクシム様の〜相手をしていないから、サファイアちゃんなら〜」

「そうかな? 頼めばしてくれるかな?」

「行ける行ける。女は度胸だぜ」

「GOGO〜!」

「うん。聞いてみるよ」


 私は二人に促されて兄様のお部屋へと向かった。


「兄様、訓練をするので、一緒に来られますか?」

「サファイア、部屋に入るときはノックをしないとダメだよ」

「ごめんなさい!」


 怒られた! やっぱり今までと同じで冷たい目で見られて断られるのかな?


「うん。いいよ。訓練だったね」

「もっ、もちろん、兄様が良ければですが」

「構わないよ」

「あっ、ありがとうございます!」


 やっぱり兄様は優しくなった。

 今までなら、絶対に一緒に稽古なんてしてくれなかった。


 稽古場にやってくると、イシュちゃんとウルちゃんが驚いた顔をしているのが見える。

 私は自慢するように勝ち誇った顔をしてやった。


「稽古中にすまない。使わせてもらうぞ」


 兄様が現れて、騎士たちが中央を空けていく。

 いつものことだ。兄様が練習をするときは、黙って見学するようになる。


 相手をするのはベラ騎士団長ぐらいで、今日は私が呼んできたので私が相手をする。


「ベラ騎士団長。邪魔をする」

「マクシム様のお好きなようにお使いください。ブラックウッド侯爵様より、マクシム様の好きなようにさせてほしいと、命令を受けております」


 ベラ師匠は、私に厳しいけど兄様に対しては凄く優しい。

 

 む〜、私だけを見て欲しいのに、兄様が声をかけるから、みんなが嬉しそうな顔してる。


「兄様! 行きますよ!」

「ああ、サファイア。どこからでもかかってきなさい」


 互いに木刀を持って稽古場の中央へ移動する。


 兄様は、自分で弱いと思っているけど、そんなことはない。私はベラ師匠から剣術で一本も取れたことがない。

 それなのに、兄様は巧みな剣捌きでベラ師匠と互角の乱取りができてしまう。


 私は戦闘の天才と言われているけど、剣だけを見れば兄様の方が凄い。

 

 どれだけ本気で切り付けても、兄様の防御を崩せない。


「凄い! 凄い! 兄様!」


 ベラ師匠以外の人と戦っても、ここまで続くことなく勝ってしまう。


 それなのにどれだけやっても勝てる気がしない。


 私の方は息が切れているのに、兄様は息一つ乱していない。


「サファイア、そこまで」


 むう〜、兄様が本気で抵抗したら、どんな女性も勝てないと思う。

 

 カッコ良くて、強くて、優しい兄様最高!!!


「はは! 凄いよ、兄様。最近は、誰も私の剣を受け止められないんだよ」

「サファイア。勘違いをしてはいけないよ」

「勘違い?」

「そうだ。皆、努力をしていることは同じだ。だが、ただ強いだけを誇ってはいけない。騎士である以上、心を強く育てることこそ大切なんだ」

「心を育てる?」


 兄様の教えは初めてだ。


 私に何かをしなさいというのは初めて、女性を知りたいと勉強を始めたばかりの兄様。

 だからこそ、人の気持ちをわかろうとしていることが伝わってくる。


「人を大切に思うようにしなさい。仲間を大切にしなさい。慈しみと思いやりを持って相手を敬いなさい」

「人を大切に思う。仲間を大切にする。慈しみと思いやりを持って相手を敬う。わかりました! 兄様の教えを守ります」


 私が反復して口にすると、兄様が頭を撫でてくれた。


 絶対に忘れない! 私、兄様の教えを守ります。


 あっ、兄様が笑っている。


 ヤバいヤバイヤバイ!!!! カッコイイ!

 

「ああ、サファイアは良い子だね」


 兄様がギュッと私を抱きしめてくれた。


 でへっ、ヤバい最高。


「あ〜あ、メッチャだらしない顔してるし」

「マクシム様が〜、稽古場を立ち去っても〜、しばらくはダメそうだねぇ〜」

「うわっ! こいつヨダレ出して、鼻血出してるぞ!」

「まぁ、男性から抱きしめられるとか〜、ヤバいよねぇ〜」

「マクシム様、メッチャいいこと言ってたのに台無しだな」

「台無しだねぇ〜」


 私は二人が何か言っているのも聞こえないぐらい、絶頂の彼方へ意識を飛ばしていた。

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