第40話 何かイライラする!

◆◆◆ 第40話 何かイライラする! ◆◆◆



 その後、新しく用意された寝室でソフィーは疲れの為にぐっすりと休んだ。


御飯もスープだけだがそれなりに一杯食べたので大丈夫だろう。



そして俺は魔導士としての幾つもの魔法を思い出し、二人の夫人の呪いを解いた。


やはり、体力は落ちていた為に暫くは安静にするように伝え、食事を摂らして俺は出て行った。




「さあ、昨日の答えはどうなった?

少し早いが二人の夫人と女の子の呪いは解除した。体力がないから元気に動き回れるようになるには、まだ日が掛かるがな」



 最後に訪れた公爵の寝室。

そこには神妙な顔で身体を起こして俺を待っている姿があった。



「あれから暫く考えた。やはりワシは死ぬしかない。頼む、王都に言っている三人の息子は!息子達は助けてくれ!ワシの命で良ければ幾らでもやろう!金も今この城にある分は全て差し出そう。使徒と言えども生活する金はいるだろう。この公爵家を金づるにして生きていくと良い。その代わり息子達だけは…………」


ベッドの上で頭を垂れる弱弱しい姿だった。


「意外だな。俺を毒殺すると思ってたぜ。まあ、一度やられたが毒は俺には効かないんだがな」



「少し……騎士からは情報を受け取った。突然ハルロードに現れ、幾つもの魔物を……スタンピードを阻止して住民を守った。

商業ギルドの刺客を跳ねのけ、海賊共を大魔法で沈める。

侯爵の息子の嫌がらせ……毒はその事か。ひっそりと町を抜け出した所を公爵家の騎士団に出会ったと。

エリス……魔法が使える騎士は重宝していたのだが、持って行け。可愛がってくれ。

今まで悪い事をしたと思っていた。

この国……いや、結局自分の為に好きにしていたんだろう。

ワシから殺された息子よ。今度はその手でワシを殺してくれ。いい加減に疲れたよ。

息子が生き残ってくれるなら、思い残す事は無いわ。

息子に殺されるのなら本望だ」



その姿は疲れた老人の姿だった。

昨日までの威厳に溢れる公爵としての姿では無かった。



「潔い事だ。昔の人で武人は死ぬ事と見つけたりと言った人がいたらしいが、死に場所を、時期を間違えないのは良い事だ。


覚悟しろ」


「少し待ってくれ」


公爵はゆっくりだが、ベッドから下りて窓枠に掴まりながら震える足を抑え、漸く立ち上がった。


武人では無いが、ベッドで死ぬ事を許さないんだろう。


「いつでも良いぞ」


目を瞑った、その目からは一筋の涙が零れ落ちていた。



「いくぞ」


俺は魔力を展開し、魔力玉を続けて公爵にぶつけた!


「う゛ッ! さらばだ、息子よ!カトリーヌ!ジュリエット!」


最後の言葉か、息子と二人の妻の名前を言った。

直後、公爵はベッドに腰を落とした!



「う…………おっ……ど、どうしてだ」


白い魔力玉が消えていくとそこには失っていた生気が戻っていた。


そう、俺は殺すと思っていた意思を変え、呪いを解除していた。



「気が変わった。それに誰も居ない所で俺がお前を殺したら、俺が悪人になるだろ。もう少し生かしてやる」


「スマン…………スマン……すまなかった」



俺はひっそりとその場を後にした。


部屋の外には執事のアルフレッドが待っていた。


「ありがとうございます。ありがとうございます……」


アルフレッドは深くお辞儀をしていた。





 良い事をしたはずなのに、何かむしゃくしゃイライラする!



ギン! そうだギンはどこだ!



 いつも朝になったらいそいそとどこかへ出かけているし、夕方まで戻ってこない!


俺に内緒で何か良い事をしているに違いない!



「ギンちゃーん、ギ~ン~、何処に行ったの~出ておいで~痛くしないから~」


もはや、する気満々である。



迷路の様な城を隈なく探し、城の裏庭に来た所で見つけた!


そこは公爵家の騎士団詰め所だった!


そこには腹ばいになって色んな騎士から撫でられているギンの姿があった。


ハアハア(*´Д`)言いながら気持ちよさそうに野生を忘れて家畜化している単なるワンコ状態だった。


「ギ~ン~」


俺の声を聴き、シュタッとお座りの体勢になった!


私は戦闘服Ver.Ⅱに変身し、爆導策の鉄パイプを手にしてパン パン と左手に叩きつけながらお座りしているギンの周りを歩いていく。


その異様な光景に周りの騎士達も輪を作って見守っていた。


「貴方、いい気なもんね。私だけ忙しくて、貴方はマッサージされ放題?ご飯は?ああ、此処で貰っていたのね」


御節介な騎士が餌の皿を指さしていた。


「まさか私を忘れてたとは言わないわよね」


ギンはまずいとでも思ったのか、耳をペタンと倒して緊張していた。


「忙しかったんだから」


「全然姿を見ないから一人で訓練でもしてたのかと思ったわ」


「ここで撫でられているとは思わなかった」


「少し太ったんじゃない?」



ギンは普段なら掻くはずもない汗がタラ―っと流れていた。



「チェスト!! あうっ!ふおおおおお!手があああ!手にちっこい角がああああ」


手刀を落とすと、避けても居ない頭にヒットするが、ちっこい角が手に刺さって血がピューっと出てきた!


痛みを堪えて地面に転がる俺!


「おおー尻丸出しだぜ」

「エリスを脱退させたのはコイツか」

「代わりに入団してくれねえかな」

「バカッこの御方は使徒様だぞ!」


色んな声が聞こえる中、俺は1級ポーションをぶっかけ、残りを呑み一瞬で回復する!


「ふふふ、いつかはしないといけないと思ったが、遂にこの日がやってきたな。

ギン!勝負だ!」


「キューン」


俺は詰め所外の訓練所に出てきた。



「主を忘れ、快楽に染まった狼を見るとは思わなかった。

いざ!尋常に勝負!」


向かい合ったままで俺はクローラーを全開にして一気に近寄る!

めんどくさそうにしていたギンも鋭いダッシュで横に走り出していた!


「爆導策!」


一気にダッシュして爆弾を避けるギン!


ギンも回りながら口から火炎を吐いてきた!


クローラーを更に加速して火炎を避ける!


「それは一度見てるからなあ! これはどうだ!」


タン タン タン!


ペストルを出して連射する!


久しぶりのチャクラムだ!

忘れてるだろ!


お互い円を掻きながら攻撃を仕掛けているが、外れたチャクラムが次々に背後から戻って来る!

全てを伏せて躱すギン!


「チッ!」


俺も結界を張って戻ってきたチャクラムを全て弾いた!


「おおっ!あぶね!」


詰め所の外壁に突き刺さって行くチャクラム!


「リトルアイスニードル!」


氷の矢を発射するが、火炎にて全てを溶かされた!


「じゃあこれはどうだリトルサンドボール!」


パチンコ玉が大量に転がって行く!

練習場を覆い尽くすパンチンコ玉!


それに乗ったギンは、体制を崩して転棟した!


「掛かったな!リトルサンダーマウンテン!」


四方八方に雷を振らせた!


「アベベベベベベベ」

「ウアウアウアウア」


濡れていた地面に雷が落ち、二人一緒に感電していく!


そうか、自分の攻撃は自分に効くのか…………

完全な不死身じゃない訳ね…………



パチンコ玉で転がり、二人近くで天を仰いた。


「ギン、お前も中々やるな」

「アフワフクーン」


「分かんねえよ」



久しぶりに運動をして気持ちが良かった。

たまにはしてもいいなぁ



身体と身体でぶつかり合い、分かち合えるこの素晴らしさ。

ああ仲間って良いよな。


俺は仲間の大事さを実感し、ギンちゃんの手を握ろうとした。



「ギンちゃーん!おやつの時間よ~」


「ウォフッ!」


パッと立ち上がり、声のしたエリスの元へとスキップしながら向かうギンであった。



「エリス~!甘やかしているのはお前か~」


夜のパフパフの刑が決まった瞬間だった…………


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