第36話 ギンの正体

◆◆◆ 第36話 ギンの正体 ◆◆◆



「よし行こう!」


その女の風貌を見て即決だった。


「は? え? あっありがとうございます!」


それに対して女は簡単に行くと言った俺が信じられない様子で、キョトンとした可愛い顔を見せている。



「だが、条件がある。女、お前はこれから俺専属のメイドだ。騎士団を辞め、俺唯一人を主とし、俺唯一人の為に命も身体も捧げろ。それが条件だああああ!」


ドーン!と女を指さし、それを見た皆がたじろいでいた。



「しッ!使徒様!それは余りにも!」


リーダーの男が言って来るが、女がそれを手で制した。


「そう言う訳でリーダー、私はこの場で騎士団を辞めます。領主様ならびに団長に良くして頂き、ありがとうございますとお伝えください。私はたった今から使徒様専属になります。

使徒様、私はエリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」


そこまで言うエリスにリーダーの男も言う言葉を失っていた。



「では、そう言う事で」


バッサリと何も言えない固まっていたリーダーの話を切った。

そして俺の方を振り向き、片膝を付いて言う。


「使徒様、では御搭乗を」


「はいよ~」


俺の斜め前を歩くエリス。

隠された謎のお肉がボヨンボヨンと波打つをの横目で見ながら大型の馬車へと乗り込む。


馬車は御者の控え席3、中央3、後部3席の9人掛けの馬車だった。

しかも御者控え席との間にはパーテーション付きで、中はリムジンの様相を見せる豪華な物だった。


「この先、公爵領まではノンストップで走ります。領地に入ってから村に入り一泊するのでそれまで辛抱されて下さい」


俺専用に最後部の席を開けていたんだろう。俺とエリスが座り、中央の席からは満席状態で走り出した。

車内で、堅苦しい話し方は嫌いなので、砕けた感じで良いと伝えた。

それに対してエリスは最後までダメですと言ったものの、俺が折れなかった為に最後はそれをのんだ。



「あのーこの狼は…………」


気になっていたのか、俺の席の前の床でベターっと寝そべっているギンちゃんを見てエリスは言ってきた。


「この地に来た時、母親が暴徒にやられてね。この子を俺が引き取ったんだ。家族みたいなもんさ。ギンって言うんだ、よろしく」


「ふふ、ギンちゃんって言うのね。宜しくね」


上半身を起こしたギンちゃんは、手を伸ばしたエリスの手をくんかくんかと嗅ぎ、ペロッと一舐めした。


「ひゃっ 大人しいですね。シルバーウルフですか?」


「そう言われているけどね」


撫でられるのが気持ちいいのか、ギンも目を閉じて名で得られるがままになっていた。


「むうっ!こッこれは!」


頭を撫でていたエリスは手を止め驚いていた!


その手でギンの頭をグイっと引き寄せ、『アウッ』と言うギンを無視し、頭の毛を掻き分けていた!


「これは角!?ひょっとして角狼ホーンドウルフ?!」


「見せて!」


『アウンッ』と言うギンちゃんの頭を引き寄せ、額の毛を掻き分けてみた!

少しコリコリしていて、若干角の様なモノが出てきていた。


「ギンッ!これは角か?」


「ウォフ?」


頭を90度横に向けて知らないと言うギン。


「どっちなんだい!角なの?何なの?」


ギンちゃんの頬っぺたをびろーんびろーんと引っ張ってみるが、『アウアウ』言うだけで何も分からない。


「0級ポーション!」


突然手に出てきたポーションにビックリする一同!

それを無視してギンちゃんの頭にポーションをぶっかけた!


「あッ!もったいない!」

「キャウンッ!」


更にギンちゃんをヘッドロックして、もう一本出したポーションを直に飲ませていく!


「その光ッ!まさかエリく――」


「ああ、0級ポーション、別名エリクサーともいうよね。分かってはいると思うが、この事は他言無用だよ。エリスは大丈夫だろうが、そこで見ている騎士、分かってるだろうな」


俺の恫喝にうんうん頷く騎士達。


ギンはエリクサーをぶっかけられ、飲まされたのだが、頭の微かな出っ張りは消えなかった。


「うん、怪我じゃないみたいだね。じゃあやっぱり角か?ビビビッって雷でも出るのか?」


頬っぺたをびろーんびろーんとしてもギンは頭を傾けて困った顔をするだけだった。


「角狼だったらマズイのか?」


「いえ、その逆かと。この国、レディントン国の昔の王が、魔物に襲われている所を角狼ホーンドウルフに助けられたと言う事から国の旗のモチーフにもなっています。滅多にいない希少種ですので、保護の対象にされるかも……」


保護だとぉ?


「お前、保護されたいのか?」


顔をブンブン振っている。


「よし、ずっと俺と一緒が良いのか?」


「わふっ!」


「よーし!お前は俺のズットモだ!」


またヘッドロックしてジタバタするギンに無理やりエリクサーを飲ませた。

ついでにブラカップからコカトリスのもも肉をズイッと出した!

端から端まで50cmはある大きなパーティー用の肉だが、味付け無しで焼いてもらった一品をギンちゃんに上げた。

丁度、休憩をするタイミングだったので、ギンちゃんは勢いよく骨まで齧りだして行く。


「お前……まさか……肉が食えるから俺を選んだんじゃないよな…………」


ピクっと動きを止めて俺の膝にお手をするギン。


「あやしい…………」


次は腹を上に出して服従のポーズを取る。

ハアハア言いながらどことなく俺に媚びを売っている気がする……………


「まあいい、食って良いぞ」


すると尻尾をブンブン振りながら再びデカい肉を食べだした。

俺もブラマジックバックから大好きなミノタウロスの串肉を出して食べていく。


「あのーその服はどうなっているのですか?」


隣で不思議がるエリスにも一本串を刺しだし、車内がタレの匂いで充満する中教えていく。


「ある日、変態女好きな子爵様が居ました。それに輪を掛けて変態女好きな伯爵様もいました。二人は好きな女に自分たちの好きな服を作り着せました。その中で一着は安全の為だとかと言い、胸を支えるカップの中にマジックバックを入れました。

よって私のマジックバックはこんな所になってしまいました~もう一本食べる?」


「ちょっとエッチで可愛いですね。ええお肉は頂きます」



妙に順応が早い。

これは儲けもんか?


俺達はこうして腹を満たし、妙に乗り心地の良い馬車に揺られながらカクルス領を迂回し、一路西の公爵領であるオーエン領へと入って行くのであった。




腹を満たして眠くなり、エリスの太ももを枕代わりに仮眠していると減速している馬車に気が付き起きた。


「どうした?」


「起こしてすみません。もう直ぐ中継の村に着きます」


外を見ると、ゆっくりと進む馬車は、精々1000人程が住んでいるような村に入って行った。

村を囲う柵が無い事をみると、ここは安全なんだろう。


篝火かがりびが灯されている家の前に馬車は止まった。


「ここで一旦休憩をします。どうぞ中へ」


馬車を降り、妙な乗り心地だと思っていた馬車の車輪を見る。

普通直結してある車輪のハブだが、これは板バネを使ってサスペンションを構築されてあった。


「この馬車の制作は?」


「ランダー侯爵のお抱え魔導士が作ったと聞いています」


へーなーるほど。

やっぱり転移者だな。


あそこで見た戦車を出さないだけマシか。

あ、公爵の領地にもあの系列の店がないか聞いとくべきだったな。


「一応、此処で軽く休みますが、数時間後、朝には出発しますので。この家は村長の家ですが、雑貨屋も兼ねてます。何か欲しい物なら買えますよ」



俺が周りをキョロキョロしているとエリスが教えてくれた。

勘が鋭いな。良い感じだ。


俺は家の中へと入り、期待せずに雑貨を売っている方へと向かった。


そこには前世での田舎の雑貨屋をイメージしていた物をひっくり返された!

品数が異常に多いのだ!


「なッなんでこんなに多い!?」


「此処は王都へ向かう中継地となっているのです。数々のパーティーや商業ギルドの運搬屋、冒険者ギルドや薬師ギルド、魔導士ギルド、その他の集まりなどが中継地として利用しています。宿は少ないですが、物資は豊富にあるのです」


「なーるほど。どれ、俺も何か良い物がないか探そう」


食べ物から武器、防具、雑貨に薬。心なしか値段も安い気がする。


こういう時は俺の勘が火を噴くぜ!


埃を被っていそうな隅に陳列してある箱を見つけた。

それは黒い箱だが、表には髑髏の絵が描かれてあった。


危ない物か?それとも……


「それは未確認の毒ですよ。たまに薬師ギルドの人達が検証の為に狩って行くんですが、キチヤドクフライカエルの毒です。最近余り買ってくれないので在庫処分でお安くしますよ。一瞬で死にますし、浄化作用があるのか、遺体が綺麗になるんですよね。ゾンビの腐った肉が元通りになるくらい。どうです?金貨5枚で」


「うん、一応薬師として興味はあるな。買おう」


俺はブラカップからお金を出し、更にビリーに貰っていた深紅の皮で作られた全面トゲトゲの鋲が打ってあるハードなマジックバックを取り出し、その中へと入れ、更にブラカップバックに入れる。

危険な物は奥へと仕舞っておこう。

これはバイオハザードバックとしての専用バックにした。



その他は余り良い物が無く、直ぐに客室へと行って豪華では無いが質素で清潔なベッドで暫く眠る事になった。



そして朝日と共に馬車は出発する。

今日にはビリーの所に俺の手紙が届く事になるだろう。

悲しいがそれが一番だと思う。

慣れてきた土地だが、俺が居ない事で争いを回避できるのなら、居ない方が良い。


登って来る朝日を見ながら馬車は走る。所々が石畳なっている事が、王都が近い証拠だろう。

町や村を経由して公爵家にたどり着いたのは、それから4日後の夕方だった。




◇◇◇第三章:商業都市カクルス領 了 ◇◇◇

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