第35話 だって心は男だもん

◆◆◆ 第35話 だって心は男だもん ◆◆◆



 浅い階層の割にはお宝をガッポガッポと設けた俺らと冒険者らは、ホクホク顔でカクルス領へと戻ってきた。


ダンジョンを出た所から町まではビリー率いる騎士団の見守り付きだったが。



「そなたの身体が心配なのだ。私の赤子をおおおお!」


使い道が無かった鉄拳噴射装置ロケットパンチを、最弱レベルで発射し、みぞおちにヒットさせて黙らせる。


大事にしてくれるのはありがたいが、結婚も妊娠もしないのだ!

そうなのだ!


初心忘れるべからず

俺は振ろう所得でウハウハ楽ちん生活を目指すのだ!


大体、俺の時は今でも男と肌を合わせるのは御免被りたい。

私の時とは違うのだよ、ビリー君。


レニー?

ああ、今はハーレーと名乗っている商人の時は、可愛そうと可愛いと、その少しムラっと来ちゃって自分から乗っかったが、アレはホンの気まぐれだからっ!


そんなヤリヤリみたいな事は言わないでっ!


30人くらいになってから


「うん、まあまあスタンダード」


なんて声を掛けて欲しい。


決してヤリマンでは無い!

流されてるだけだからっ。



そう言えば、商業ギルドからやられた事を詳しく話す事は話した。

枕元でだが。

商業ギルドに絶大な資金を入れているビリーの言う事だから、それで終わったんだろうが、無意識にビリーを喜ばす事を考えていた。


体に心が引っ張られている事が残念でもあり、少し嬉しくもあった。

その内、俺の心は女になってしまうのだろうか?


その嫌悪感が完全に無くなれば、ソレはソレで良いとは思う事が、心が変化している証拠だと思われる。


未だに俺の時はチューやオチンに触れる事は避けたい。だが、女の私は意気揚々と自分から進んでアレをしたり、コレをしたりと唇や肌に残る感覚が残っていた。


そして男の視線も次第に敏感に…………



 此処での生活も慣れてきた頃、漸くビリーの子供に出会う事が出来た。


それは視線から分かった事だった。


俺としては胸を見られるのは一切気にならない。

それは男としての精神状態から来るものであり、男としては胸を見られても一切気にならない事から、女の身体になっていても見られる事には気にならなかった。


だが、他の男にとっては自分で言うのもアレだが、絶世の美人であり、これ以上の均整の取れた身体の女は居ないと言われる身体を見ない男などいなかった。


初めは大きな城の中で気が付いた。


誰もいないはずなのに視線を感じるのだ。


周りを見ても誰もいない。でも視線と誰かがいる感覚があった。


それは食事や入浴後、そして次第にビリーとの行為の最中にも感じだした。

何もない時など毎日抱かれていた為、初めは分からなかったが、慣れてきた今では分かる。



此処には隠し通路か何かがあり、そこから俺を覗いているんだと。



その事をビリーに言うと、


「確かに隠し通路はある。部屋を覗ける窓や隙間も幾つか存在している。だが、嫡男である長男は昔出来たたった一人の息子だ。少し人見知りはあるが、覗きなどする訳が無かろう」


ここで少し変だと思った。


俺の死に戻りでは初めは王子だった。

次に後継者争いの次男だと言っていたはず。


一人っ子の長男は無かったはずだ。


全てがこの国とは限らないだろうが、ギルドマスターも息子は危ない、後継者争いと言っていたはず。


他に子供がいないのに後継者争い?


どう言う事だ?



それがはっきり分かったのはそれから数日が経った頃だった。


朝食を一人部屋で食べていた時、パンに変な苦みを覚えた。


舌が痺れる程の強い苦み。

瞬間的に分かった。


これは毒だ!


いつか心の中に刻まれた事を言っていた事があった。


使徒であるこの俺は簡単には死なないと。

神の御使いである使徒が簡単に殺されるならば、それは神の怠慢である。

神の右腕として動くのであれば不死身か、それに近い身体であるべきだ。


ただし、ペストルで自分が傷ついたように自傷行為は別なのか?


兎も角、俺は毒だと思ったパンを0級ポーション、別名エリクサーで飲み干した。


粉々に崩れて消えている容器を壁越しに見せつける。


その視線は暫くすると消えていった。



聞けば子供の頃から数学や武術は得意で、一部に言わせると、親そっくりだと言う。

今でも町を散策し、その顔を売る行為を行っている優れた嫡男と言う評価を受けていた。


俺は冒険者ギルドへと向かい、ギルドマスターに面会を求めた。


朝のラッシュを過ぎて閑散としていた為か、あっさりと二階へと案内され、クマさんのようなギルマスに再開した。



「今朝、毒を盛られた。後継者争いと言っていたが、侯爵の息子とはどういう人物なんだ?」


「毒を盛られた…………よく生きているな。ああ、使徒と言っていたか。簡単には死なないと言う事か?」


「そうだと思う」


「あの息子は、自意識が強い。次の侯爵は自分だとずっと思っていたに違いない。だが、新しい侯爵夫人が出来たらどうする? 子供が生まれるかもしれないだろ。侯爵もまだ若い。次代へと交代するにはまだ時間が掛かる。じゃあもし次男が生まれれば世代交代は分からなくなるだろう。戦争でも無ければ寿命で死ぬまでは側にエリクサーを出せれる婦人が側にいるんだ。嫡男は長男でないといけないと言う法律はないんだ。邪魔な婦人は殺すしかないだろ」


「それが後継者争いって事か。ひょっとして西の公爵には別の国から嫁が嫁いできて、王都の王の子供は次男が兄弟を殺しまくっているとか?」


「その通りだ。良く知ってるな」



マジかよ。

全部この国の事じゃん!


海賊は片づけたけど、火山にいるドラゴンは倒していないぞ。ハルロードのは邪竜と言っていたからな。

メテオ使いは今の所会ってないし、当面は大丈夫だろう。

って事はこれから西の公爵と王都へは行かない方が良い事になるな。


何か理由を付けてエリアスのいるノルド領へと戻るか。



俺はギルマスと別れて町を散策しながら屋台で飯を食い、食料を買いあさった。



動くのなら早い方が良い。

俺は嫡男の暗殺で簡単には死なないだろう。

だが、侯爵がそれを知ったら壊れるかもしれない。

思いっきり変態で少しカッコ良く、愛情を持って変態的行為を求めて来る憎めないビリーが、今では嫌いではなかった。

それを受け入れている身体もあった。


だから俺はひっそりと町を出る事にした。



都市を取り囲む城壁の門は入る人を詳しく調べるが、出る際はほぼ素通りだ。

まだ夕方になる前に、俺は入ってきた門を抜け、街道へと出て行く。


右手の指には何を思ってか、突然渡された新しい指輪が嵌められていた。


マジックイメージチェンジングリングの上位版である24面の宝石が嵌められてあり、そこには武器を中心に出し入れできるようになっていた。

力の無い俺だが、幾つかの武器は持っていた。

そこに武器を収め、出る時に貰っていた服などを全てマジックブラカップに入れていた。


そしてギルドへ手紙を渡し、配達するように頼んでいる。


明日の昼までには手紙が届くだろう。その時には俺はノルド領へと続く道に向かっている予定だった。


幸い、俺にはギンちゃんと言う相棒がいる。

少し寒くなっていた時期だったが、ギンちゃんと眠れば寒くは無いだろう。



直ぐに暗くなった街道を一人とワンコで歩いていく。


一人で歩く道は暗いが、面倒に巻き込まれるよりかは良い。

ビリーには随分世話になった。

俺が居なければカクルス領は上手くいくはずだ。

俺がいないと駄目な理由はないんだ。


今や腰の高さよりも高くなったギンの背中を撫でながら、俺は少し寂しい思いを紛らわせていた。



ほぼ真っ暗な闇になり、頭上にリトルライトを展開。

そろそろ野営をしようと足を止めた時だった。



一台の馬車が近づく音がした


早い!


緊急か?!それとも町を出たのがバレた?



俺はギンに手出しは無用だと言い、ライトを消して街道横の草むらに身を隠した。


だが、直前まで出していたライトのせいか、馬車は直ぐ近くで止まった。


「近くに居るはずだ探せ!」


六頭立ての大型馬車二台が止まっていた。

そこからワラワラと出て来る軽装備の騎士。明らかに訓練されている機敏な動きで、持っていた魔道具の明かりを灯し、俺を探している様子だった。


「こちらはベネディクト・ローレンス公爵の近衛騎士です!危害は加えないので出て来て欲しい。ハル殿!


もう一度言います!こちらはベネディクト・ローレンス公爵の近衛騎士。気概は加えない!話を聞いて欲しい!

頼みます!」



来たか公爵!


俺が出たのを察知するのが早い!

これは流石は公爵と言うべきか。


少し後方で探している騎士達を見て俺は街道へと戻った。


サンダーボールを頭上に浮かしたままで。



「俺を探しているのか?」


「ハル殿!!」


御者席から下りて走って来る騎士。それを追って取り囲む近衛騎士。


俺の実力を知ってか、知らないのか、俺まで取り囲んでいた。


「俺がハルだ。一応使徒と言う事になっているが、それでも俺とやり合うか?」


雷、火、土、氷の4色の魔法玉を頭上に出現させ、警戒モードに入った。

隣のギンも唸り声をあげていつでも出れれる体勢を取っている。


ゆっくりと4色の玉を回転させ出した時、リーダーと思われる騎士が膝を着いた。


「警戒させ申し訳ありません。私はこの班のリーダー。少し話を聞いてください…………」


その場にいた騎士達が全員膝を着いた。

それは良いが取り囲むのはどうだと思うが。



「話せ」


「ありがとうございます。実はオーエン領の領主であるベネディクト・ローレンス公爵には二人の奥様がおられます。第一夫人のカトリーヌ様、側室のジュリエット様。そして側室のお子様であられるソフィア様までが呪いに!

是非、腕の立つ薬師様との噂の高いハル様に見て頂ければと思い参上した次第であります。」


そう言うと男はもう一度頭を下げた。


「俺が行かないと言えばどうする?俺には全く関係のない話だが」


「もう一度お願いそするまでです。私には連れて行くと言う選択肢しかありません」


「だが、俺には行くと言う利点が無い、と言えば今度は俺の嫌いな力づくで拉致するか?」


俺は嫌な雰囲気を感じ、頭上に浮かんだ魔法玉が高速で開店しだす!


「くッ、金品ならば幾らでもと仰せつかっています!何卒!この国を守ると思って!」


「俺は好きでこの国に滞在している訳ではない。イヤな事があればいつでもどこでも行くつもりだ。金などどこでも儲けられるからな」


徐々に据わって行く精神こころ


これが使徒の精神なのか?人間に多くを寄り添わない、付かず離れずの精神で気まぐれな神と同じ様にしろと言うのか。


男は額から汗を掻き、腕がプルプルと震えだした。


これまでか。結局力で言いなりにするしかない騎士よ。

全員死ね。


男の腕が左腰に向かい、立ち上がろうとした瞬間!



「うごっ!」


後ろにいた騎士が一人、剣を握ろうとしていた男を蹴り飛ばした!


「私の命を差し出します!私の命と引き換えに公爵領へ!お願いします!」


細身で引き締まった身体を前に倒し、頭を地面に着けるまで倒していた!

その時、後ろで縛っていた肩までの金髪がハラリと前になびき、前に倒した事で引き締まった腰と逆に大きなお尻がはっきり分かった。


「女、起きて顔を見せろ」


「はっ!」


膝を付いたままサッと上半身を起こす。



ゆさぁ


パッチリと開いた目に似合う可愛い顔、その顔に似合わない重量感のある物がプレートの中で揺れ動くのが俺には見えた!



「よし行こう!」


男だった俺がこの女を手に入れろと言う!



「は? え? あっありがとうございます!」



こうして俺は可愛い新しいいけにえ……いや、専属メイドを手に入れた。

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