第34話 爆弾魔

◆◆◆ 第34話 爆弾魔 ◆◆◆



 俺の行動の結果、悪いバーテンは捕まった。

だがその一方で、若い騎士達が遊ぶ場所が一つ無くなってしまった。


日本人と思しき店長は本当に王都へと行ったばかり、何処で何をしているのか、帰って来る様子は見られなかった。


そうそう!

鉄拳噴射装置ロケットパンチは無事に試運転を行った。


領地の北側へと向かうと、他国との戦場の跡地になっており、大小の岩石がゴロゴロしている物騒な場所で魔力マックスで試運転を行った。


10mはあろうかという岩石に風穴を開け、Uターンしてその勢いのまま俺にぶつかって来た!


結界を見に纏い、火炎を防止し、結界の盾で叩き落とすしかないが、案外丈夫なのでいざという時の武器として使ってあげよう。



カッコイイし、持ち運びも楽なのでこれは当たりだった。


それと、冒険者ギルドでジャスティスのメンバーとも再開できた。

色々今までやって来て、Aランクになっているようで、北側に蔓延る魔物やアンデッドを討伐する毎日らしい。



「よって、今夜はギルド酒場で焼肉会を開催する!」


「「「「「うおおおおおお―!」」」」」



何が依ってだか何だか分からないが、野郎共は飲んで騒ぎたいだけだ。

しかも、今はまだ朝だった。


基本的に冒険者なんて者の多くは毎日働かないのだ。

多くの報酬を得られれば暫く休んだり、羽を伸ばしたりする人が多い。

毎日楽しく過ごせれば良いなんている輩が多い為、何か面白そうだと思った野郎共がこうして朝から焼肉パーティーに集まっていた。

もちろん、金の無い奴らはここぞとばかりに金目の物を掲示板から剥して、現地へと向かっている。


俺は伊達に楽をして楽しく過ごそうと言う方なので、暫くパーティーをしていなかった反動が爆発した!


他の皆には全く関係の無い焼肉会が朝から始まった!


「肉もってこい!エールもだ!」

「昨日討伐したオーク肉が俺のマジックバックに!」

「バカ野郎!俺の狩ったミノタ肉の方が良いに決まってんだろ!」

「余った香草を肉に乗せてとっ」

「野菜ばっかり乗せるんじゃねえ!」

「お前は野菜も食え!」

「前から気に入ってました。是非この会からこの俺とお近づきを……」


「「「「抜け駆けするんじゃねえ!」」」」


朝から大賑わいのギルド酒場であった。


俺も大勢で賑やかに食べる方が嬉しいので、何処の誰だか分からないが、飲んでは食べ、肩を組んでは騒ぎ、ほろ酔い気分で過ごしていた。



 朝の忙しい時間はあっと言う間に通り過ぎ、全員が良い気分になっていた時、大きいクマさんの様な中年の男がやってきた。

冒険者にしてはワイシャツを着ているし、何処の誰だろうと思っていたら、突然大声を出してみんなの注目を集めた。



「お前らよく聞け!たった今、北側の戦争跡地に発見されたダンジョンに入坑の許可が出た!そんなに酔っぱらって大丈夫か!!」


その声に回りの騒ぎがピタッと止まった。


「良いか!ダンジョンは5階層まで確認!1・2階はDランク、3・4階はCランク、5階はBランク推奨!ボスは不明で確認していない!ひょっとしたら更に下があるかもしれない!騎士団しか入ってないからな、お宝が眠ってる確率が高いぜ!」



「こうしちゃいられねえ!」


一人の男が席を立ち慌てだす!

それが切っ掛けになり全員が動き出した!


「早いもん勝ちだぜ!」

「残り物にはお宝があるってな!」

「俺にエールの小樽をくれ!」

「俺も小樽だ!」

「今更水なんか飲めるかよ!俺もエールを小樽で!」


元々、皆朝から討伐に行こうと思っていた野郎共だ。

準備、装備は整っていた。

金の無い奴らは既に掲示板から依頼書を剥ぎ取って既にいない。

酒場で騒いでいる30人弱のダンジョン開通記念に総取りに近いモノがあった!

慌ててカウンターでエールを小樽で買いギルドから出て行くパーティー!

即席のパーティーを組もうと話し合いを始める者ども。

何も買わずにダッシュを決める野郎共。

あっと言う間に酒場は俺とジャスティス以外は居なくなっていた。



「あんた誰?」


俺はクマさんみたいな大男に聞いてみた。


「俺はこのギルドのマスターだ。あんたは侯爵の家に居候しているハルだな」


「よく知ってんな」


「伊達にギルドマスターはやってねえよ。なあ、悪い事は言わねえ、侯爵に深入りするなよ」


「…………訳を聞いても?」


「アソコは息子が危ねえ。後継者争いって奴だ」


「息子っていたんだ。見た事無いけど……まあ良いわ。御忠告ありがとう、侯爵の嫁になんか興味はないから注意しとくわ」



「さあ、お嬢。我らもお宝探しにッ」


「おうよ!ここまで聞いていかないでいられるか! っとその前にこの肉のブロックを下さい!」



呆れている仲間を待たせて俺は肉を買い込んでいた。




 シン・ダンジョンは、町の北側にある戦場跡地に出来ていた。


大規模な戦闘があったのか、その平野には幾つものクレーターが存在していた。



「これはメテオ……の魔法なんでしょうな。見た事はないですが、凄い威力ですな」


リーダー格のマッドが?然とした表情で跡地を見ていた。

これは多分あれだ。

俺が転移に失敗し、現れた瞬間にメテオで殺された場所…………


この土地のどこかに俺の転移仕立ての遺体があるんだろうな。


話を聞けば1年以上も前の話で、時間の進み方があの世とは違う事に気が付いた。


まあ、時系列が同じな訳がないわな。

海賊船やハルロードにいたドラゴンの件もあった。

って事は侯爵家の跡目争いや王家の争いごとにも巻き込まれるんだろうか。


どうにかしないと。


「姉さん!こっちですぜ!」


ダンジョンは平野部の端にあった。

メテオが削り取った低い山肌に、昔使っていた炭鉱のようなトンネルに魔素が溜まり、そこがダンジョン化した物だった。



そこに立て看板が建てられていた。


「シン・ダンジョン入口」と…………



そして、早くも出店が建ち並んでいた。


「は、早いっすね。流石は侯爵のご領地……」



出遅れた俺らは周りの出店から盛大な勧誘を受けながらダンジョンへと入った。


此処では一々ギルド証を確認する事はしないらしい。

誰もいない穴へとスッと入る。


魔素が溜まっているのか、ダンジョン壁はボヤっと光を放っているが、かなり暗い。


「リトルライト」


唐揚げ位の大きさの灯りが空に浮かんだ。それも数十個も。


「流石っすね」


「任せろ、小さいながらもルーメンは高く、消費魔力は控えめだ。と言っても魔力総数に下限なんて見えやしないんだがな。ぶはははははっ!」


「「「「あはははは!」」」」


一通りバカ笑いをし、ここぞという時に練習していたヒールを使う!



特位点回復スポットヒール!リトルサンダー!」



乳白色の拳大のヒール玉が三つ、頭の上をゆっくりと回りだす。そしてそれの周りを更に高速回転する小さいサンダーボール。



「姉さん。それ何っすか?」


「フルには必要ないかもしれないが、これは不意打ちされた時の自動ヒール回復装置よ。何かあったら直ぐに俺に向かって頭上のヒール玉が当たって来るの。全自動よ。良いでしょ」


「良いっちゃ良いっすけど、敵がこれに触れたら相手を回復させることにならないっすか?」


「チッチッチ。考えが甘いなぁ。激甘だよ~。俺がそんな事も考えてないと?ちょっとフルがこのヒール玉を奪おうとしてみて」


「取っちゃいますよ!三つくらいあっと言う間っすよ!」


フルはデカい身長を活かして俺の上をゆっくりと回るヒール玉に手を伸ばした!


その瞬間!ヒール玉の少し上を回転していたサンダーボールが一瞬でフルの身体に連続で当たりだした!


「アベベベベベベベベベベベベベベ!」


ブスブスと焦げながら黒い煙を吐くフル!


「やべっ!効き過ぎた!極上回復リバイブヒール!0級ポーション!ポーション!ポーション!ポーション!」


死にそうな身体を強制的に復活させ、カパンと開けたフェイスガードからエリクサーを投げ入れていく!

見えている部分が一瞬のうちに元通りに戻って行く!モソモソと股間ガードを開けて黒焦げになったタケノコを見せて来たので、エリクサーをぶっかけ先端にビンを被せて直接飲ませる!

焦げがパラパラと落ちていき、一皮剥けたタケノコのように新品の綺麗なチンコが出てきた!


「新品童貞チンコの出来上がりっと!」


「のああっ!俺の毒々モンスターが!」


遊び慣れたオチンが童貞オチンに変わり頭を抱えるフルであった。



「でも、お嬢の魔法はリトルですよね。あんなに効くんですか?」


デカがフルに浴びせた電撃を不思議に思ってか聞いてきた。


「ノーマルの基準が違うんじゃね?普通のノーマル威力が10なら、俺のノーマルが100だったとして、弱くなっても10以上はあるだろ。そんな感じだ多分。知らんけど。」



元々が神の御使いである使徒なのだ。

人間と同じって事は無いだろ。ノーマル比で10倍って事は無いだろ。その差はもっとある気がする。段階的に上がって行けばその差はもっと……Sランクをも遥かに凌駕する威力になっても不思議ではない。


まあ、直ぐにパワーアップする訳じゃないから大丈夫なんだが。


それよりも久しぶりのダンジョンの為に俺はドキドキワクワクしていた。

今回は冷静に結界を使って奥へと入って行く。


ジャスティスのメンバーがサクサクと倒していくので、俺は後ろで高みの見物なのだが……

だが!俺はお荷物になる気は一切無い!


幾ら後衛の魔法使い扱いであっても隙は逃さない!

4階層に入った時、我慢の限界が来た!



「そこだああああ! 爆導策!!」



ワラワラと何かが集まっているど真ん中へフルパワーの爆導策を投げ入れた!

当然、俺の前には結界を張るのは忘れていない。


「退避いいいい!」


ズガアアアアアアアン


と木霊する爆発音!

何やら飛び散る血肉!


だがしかし、濃密な魔素でコーティングされたダンジョンの壁は一切傷付く事がなく、ただ血煙となった何かがあるだけだった。


「ほお、ダンジョンの壁は壊れないっと」


「壊れないじゃないでしょ!やるならやると教えて下さいよ!」


四人から猛烈な抗議が出た。

まあ、討伐部位や魔石ごと粉砕してしまってはお金にならないからダメなんだろう。



少し自重した俺は、すんなりと確認出来ている5階層までやってきた。


そろそろ他のパーティーもアルコールが抜けた者達が5階層へと集まっていた。

それでもエール樽を持って飲みながらやる殺すのは流石だと思うが、望みのお宝を持っている連中もチラホラ出ていた。


そろそろ俺らもと思っていた頃、お宝を見つけるよりも早くボス部屋だと思われる場所へと辿り着いた。


「何ちゅー扉だ」


そこはダンジョンの高さギリギリまである4m程の鋼鉄の扉だった。


そしてその扉は少し開いていた。


「むっ、誰かが先に入ったか!」


マッドが静かにドアを開けていく。

そこはボス戦が繰り広げられるような巨大な大広間、では無く、天井まである壁が視界を奪い、たった一つしかない入り口に入って来いと言わんばかりの部屋だった。


用心しながら先へと進み、その入り口から少し中へと入ってみた。


「むっ!分かれ道…………ここは迷路かっ!」


分かれ道か、アンジョンの中の迷路メイズ、いや、迷宮ラビリンスって感じか。

迷宮と言えば一つ目小僧のサイクロプスだと思われるが、そんな嫌な感じは一切無い。

寧ろ、神が居そうな程の神々しいまでの雰囲気を感じていた。



「取り敢えず壊れろ! 爆導策!!」


「「「「うひゃあ!」」」」


皆揃って俺の方に伏せしてきた!

その直後に大爆発が起こり、濛々として煙が消えると、そこには何も変わっていない壁が出てきた。


「うん、こいつも壊れないか」


「だから先に言ってください! もう、俺が斥候で先に進みますからっ、何もしないで下さいよ!」


「おっけーおっけー!」



デカが斥候として先を進み、後ろのマッドが地図を作り出す。

だが、この迷宮は普通の迷路の様では無い事が直ぐに分かった。


幾つもの柱や壁が連なり、割と見通しが良いのだ。

迷路メイズと言うよりも、障害物が乱雑に置かれてあるだけの大部屋みたいな感じだった。



「おっ宝箱発見」


誰も罠のスキル持ちはいない為、剣でツンツンしながら蓋を開けると、そこには銀色に輝くインゴットが入っていた。


「むっ、銀のインゴットか? まあまあだな」


マジックバックに入れる。そして全員で辺りを探し出した。

次々に見つかる宝箱。


だが、扉は開いていたぞ。


誰も此処に来ていない事は無いはずだ。

何故宝箱を取らない?


そう思っていた時だった。



コロコロコロ


真っ黒い玉が転がって来た。


「気を付けろ!」


それにはご丁寧に導火線が付いてあり、根本までシュッと燃えると、大爆発と共に火炎が四方八方に飛んで行く!


チュド――ン!


その火炎が広がる中、遠くにデニムと黒いシャツを着た長い髪の女が一瞬見えた!



コロコロコロ コロコロ コロコロ コロコロ


「クソっ!」


チュド――ン!

チュド――ン!

チュド――ン!

チュド――ン!


現れては爆弾を投げる誰か!

一瞬で壁に隠れ、何処からともなく爆弾が転がってくる!


「そこだ!」


爆導策を投げるが、誰もいなかった。

代わりに地面に置かれた爆弾が!


「そんなああ」

チュド――ン!



結界で防いでいるからいいものの、危ないと思ったジャスティスのメンバーは既に後方へと離脱していた。


「このボンバーマン爆弾魔め!」


この広間は、俺とボンバーマン爆弾魔の直接対決だった。


よく見ていると、どことなく迷路が昔のゲーセンにあったアーケードゲームのそれである。

幽霊は出てこないが……いや、俺達が幽霊で奴が主人公か?!


しかし、奴が此処に慣れているとは言え、移動が速すぎないか!


右側に見えたと思ったらすぐに左側から爆弾が投げ入れられる。

これは一人では無く二・三人が連携していると思っても良かった。


見た所茶髪にグリーンの目の少しアメリカ人のような感じに見える。

だが、そんなに同じ人を用意できるのか?


では、転移魔法か!


俺は結界で身体を守りながらクローラーで走る!

一瞬見えた奴の近くに爆導策を投げ、反対方向にリトルサンダーボールを展開する!


突然、ドッカンドッカンと展開した方から爆発音が連続する!


ビンゴ!!


追加のリトルサンダーボールを展開し、誰もいない場所に爆導策を投げる!


「キャッ! もう!誰なのよ!撤退!撤退するから!」


その声と共に爆弾が消えた。

急に静かになる迷宮ラビリンス

やはり転移魔法か何かを持っていたんだろうな。


「姉さん、終わりましたか」


ゾロゾロと出て来るジャスティス。


「ああ、アレは第三の小説の主人公だな。もう出て来る事は無いと思うぞ」


「俺らの出番は無いっすかね?」


「祈っとけ。ひょっとしたらあるかもしれないぞ。知らんけど」


「姉さんからもお願いしといてくださいよ~」


「俺は作者の傀儡だからな。髪の先からアソコまで…………」


「言い方!言い方!」




そんなこんなで最奥にあった宝箱には、熱々のおでんが入っており、持って来た肉を焼いて食べていた所にギルドの皆が集まり、そこで二次会が始まってしまったのだった…………

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る