第33話 オムライス

◆◆◆ 第33話 オムライス ◆◆◆



 俺は次の朝、ビリーから教えてもらった店へと向かった。


この都市に来たのは商業ギルドへの聞き取りだったはずだが、一切何も言われない。

マジで大丈夫か?



一応戦闘服VerⅠを着て行く。


だが、町は秋の訪れが早く、俺の恰好は露出の度合いを越えていた。

深紅のローブには冷暖房も付いている為、暖かい風が送られて快適なんだがな。


ジロジロと乗り合い馬車に揺られて町の中心に向かう。


先ずは冒険者ギルドだ!


向かいの商業ギルドを無視し、あけはなたれた冒険者ギルドに入った。


ギロっと睨まれる中を平気で通り過ぎ、奥の飲み屋に向かう。


これから討伐などの仕事に向かう野郎共が多い中、俺一人が酒屋の椅子に座った。


「お兄さん、レモ中を」


「あいよ」


あるんかよ!


速効で出てきたレモン酎ハイを片手に追加注文したタレと塩の拳程度の焼き鳥を適当に注文する。


「お待たせ」


「レモ中をもう一杯、レモンダブルで」


「畏まり!」



中々やりおる


此処は居酒屋か?



塩をギンちゃんに食わせ、俺はメインでタレの肉を食っていた。

塩の串を握るとギンちゃんが悲しそうな顔をするので、此処はグッと我慢だ。


それが分かっているのか、ギンは俺の横で尻尾をフリフリ、朝から機嫌が良い。



朝からビリーと一戦交えて来たからか、ジャスティスのメンバーは既にいなかった。


不思議そうな視線の中、俺は二回目の朝御飯を平らげるとギルドを出た。

今度はビリーに教えてもらった秘密の問屋だ。


ギルドの大きな道を通り過ぎ、商店街がある西地区へとやってきた。


武器、防具、雑貨から変な薬まで一通り揃う巨大マーケット。

その中を通り北の少し寂れた店舗と思いきや、かなりデカい店にやってきた。


「ココが例の店か」


問屋だからか店は大きく、名前も出ていない。

注文した品物を引き取りに来た商人や、直接コネを持っている冒険者が数人出入口で話しこんでいる。



「邪魔するぜ」


「邪魔するなら帰んな」


「それは何処も共通なのか?いや、そう言う意味じゃなくて、領主のビリーに教えてもらったんだけど」


「ああ、貴方が噂の恋人ですか。町ではいつっ結婚かと噂になってますよ」


「しないしないって!泊ってるだけだからっ!」



「あの租チンの変態の所によく泊るな」


「いや、チンはブルジュハリファ並みだぞ、超超ジュラルミンのような硬度で岩をも砕く優れものさ。昨日Ver.2にランクアップしたそうだ」


「やってんじゃねえか」


「うっ…………それは置いといて、例の物を買いに来たんだが」


「お客さん。一言さんはお断りだよ」


「なーに、今まで二つの店で買ったこんな武器を持っててもか?」


俺は脇に刺しているナイフ二本と右太ももに装着しているペストル。そして左足に装着した爆導策を見せた。



「ぬおっ!傑作とも言われる爆導策に珍品中の珍品で、マニアなら金貨を積み上げる程のペストルまで!


お客さん…………マニアだね」


「ふふっ人生楽しまなくちゃ損だろ」


「こっちに来な。見せてやるぜ、ここの全てを」



俺は店員に案内され、倉庫のような店内に入って行った。



各種剣から槍、斧、弓、モーニングスターまで!

ウィキに載ってある中世の武器の数々から攻城兵器、更にはどこで作ったのか、日本刀らしき物まで並べてあった。


そして防具の数々から日用雑貨のタオルや布生地、何だかわからない薬やカツラまで、そこはありとあらゆる物が集められている問屋だった。


一連の物が並べられている最奥に鉄の扉があり、そこの鍵を開けて入って行くと、そこから地下に降りていく。



「さあ選べ、蟻も殺せない物から大陸を消滅させる物まで何でもある。選ぶのはお前次第だ!」


梱包前なのか、小さい物は一つ一つケースに入れられ展示してあるが、大きなモノはどう見ても……


「これって戦車か?」


「いや、センシャじゃねえ。これは74式って言うんだ。何の数字か分からねえがな」


これを作ったのは絶対元日本人だろ。って言うか、どうやったら戦車が作れるんだ?!


「燃料はあるのか?」


「軽油なら腐る程あるぜ、隣の公爵家は油田を持ってるからな」



「油田まであるんかよ!」



いや待て。

74式は殆どがマニュアル操作だったはず、レオパルドⅡらしき物も見えるが、一人で戦車は無理だ。どうせ金額も高いだろうし…………


「小型で携帯出来るモノか、身に付けるモノが良いな」


「それならこっちだ」


右手に行くと小さい物が並べられてあった。


「これは?」


俺は丸い輪っかで何の変哲も無いモノだった。


「ああ、それは御禁制の奴隷の首輪さ。主を裏切ったらボンッ!となる奴だ。悪いがそれは売れないな」


「じゃあこれは?」


俺は二脚の脚が付いたペストルの様なモノを見た。


「ああ、それは対74式のペストルさ。74式の走行を貫通出来るんだ。まあ、反動で腕が折れるんだがな」


役に立たないじゃん。


「じゃあこれ!」


俺は小さい半透明の盾を指さす。


「これはさっきの対74式ペストルの玉を完全に防ぐことの出来る盾だ」


「おおースゲーじゃん!」


「まあ、喰らった反動で腕が折れるんだがな」


「同じじゃねえか!」



これだ、コレコレ!

役に立たない物が沢山ある中の宝探しのようなワクワク感!

何処かにあるはずだ!最高のモノが!



「ん?なんだこの皮のグローブは?」


金属で出来ているガントレットでは無く、少しゴツイが全体的には皮で、要所要所を鉄のプレートで覆っている。


「ああ、それね。鉄拳噴射装置って言うんですが、拳が飛んで行く際に火炎が腕を焼き、戻ってきた反動で自分まで攻撃される最悪の武器ですぜ」


ロケットパンチか…………まてよ、俺の結界で炎は防止できるし、戻ってきた際も結界で叩き落とせば何とかなる…………か?


「一度付けて見ても?」


「どうぞどうぞ」


そのグローブを手に取ってみると、こんなに軽くても大丈夫かと言う位に軽かった。

内側はメッシュになっており、手首についているファンで汗ばみ予防ができ、甲側は拳の部分などは軽いミスリルのプレートが装着され、フライングサラマンダーと言う火属性の魔物の皮で耐火仕様とUVカット機能が付いている。

フライングサラマンダーの帰巣本能から射出した拳は、元の魔力を出した本人に戻ってくる。


と言う事が日本語でメモられていた。


「幾らだ?」


「どうせ誰も買ってくれない。銀貨5枚ってとこか」


「買った!」



詳しく説明を聞くと、魔力の込め方に応じて射出速度が変わるらしい。長年愛用すれば自由自在に動かす事も出来るとか出来ないとか。


そんな物はどうでも良い!

俺はロケットパンチが撃ちたいだけだ!



代金をサクッと払った俺は、上機嫌でグローブをつけたままで店を後にした。


打ちたい気持ちでウズウズしていたが、後一つ寄る所があった。



商業施設街を抜け、東の飲食店街へと進む。


今度はパーティーピーポーだ


そこは飲食街の目抜き通りにある派手なネオンで飾られた店だった。


手前中央に大きな円形カウンターがあり、若い人らが午後だと言うのに飲んでいて、ガラス張りの壁一枚奥にはクラブかディスコかと思わせるミラーボールなどが置かれた踊る為の場所で、数人が大音量の音楽で踊っていた。



おいおい、俺の知ってる異世界と違うぜ。

よく見れば、ミラーボールは鱗の様なモノが張り付けてあり、箱型のスピーカーには魔石を入れ替える店員もいる。

床や壁には大理石と思う石材が使われてあり、何処となく異世界の雰囲気が残っていた。


余り俯角考えてもファンタジーの世界なので、こんなもんだと思い、カウンターの席に座り注文する事にした。


「テキーラサンライズと何か摘まむモノを」


「りょ!」


軽そうな男がシェイクする容器にリキュールを計って入れ出した。


ちなみにこの世界では成人は15歳からであり、17歳と記載されている俺は既に成人してある。

まあ、未成年でも飲んでいる奴はいるだろうが法律は守ろう。


ジュースみたいなカクテルとデカい梅干し位あるピスタチオの様な殻付き豆が出てきた。


ふんぬーっと殻を剥き、負けるものかーっとデカい豆を齧る!


「あははっ威勢の良いお姉さんだな」


さっきカクテルを作っていたバーテンが声を掛けて来た。青、赤、緑、黄色に色分けした髪で黒字に白の文字が入ったTシャツを着ていて、それなりにイケメンだった。


「俺か?」


「おうっ、言葉も男言葉かよ。珍しいね、何処から来たの?」


「ハルロードだよ」


「ああ、あのスタンピードでやられた。で、ココに来たんだ」


「まあそんなとこ」


「ねえ、君みたいな超美人ってみた事ないんだけど、何処住んでんの?」



おい……ナンパか?

さり気なく家を聞くテクニックか?

いや、そんなあからさまに家を聞くか?

いくら俺が美人だとしても、今は勤務時間だろうが。最近の若い人はお構いなしか?


「乗り合い馬車で少し行った大きい家だよ」


「へーお金持ちなんだ。冒険者?それとも商人の娘?」


「まあ、商売みたいな事はしているし、冒険者ギルドにも登録はしているぞ」


「やっぱりそうか!俺本物の美人に初めて会っちゃったよ!嬉しいな! ねえねえ、俺夕方には仕事が終わるんだけど、何処かで美味い飯でも食べない?」



やっぱりナンパか。

俺なんか女性と話をするだけでドキドキしながらよく、『本気にしてんじゃねえぞ。暇つぶしにもならねえな』なんて言われたっけ。



「ここの料理は美味しいって聞いたんだけど。君が作ってるの?」


と、飯うまと聞いた事を聞いてみる。


「そうだよ、何なら食べてみる?」


「じゃあお勧めで」


「任せろっ」



フライパンに油を引いて何かを作り出した。


「これでも飲みながら待ってて」


リキュールと炭酸を半分で割った物を出してきた。


「これはね――」

「知ってる」


ダン!


ショットグラスに手で蓋をしてテーブルに叩きつける。泡が溢れて来る前に一気に口に入れて飲み干した。


「ちみちみと飲むモノじゃないと思うんだけど。私を舐めてるの?」


「へーショットガン知ってんだ。気に入ったよ」


まさかこっちにショットガンがあるとはな。

一人バーを飲み歩いて、いざという時に女性をリードしようと伊達にカクテルを飲んだんんじゃないぞ。


そう言っている間に焚いた米にハムや刻んだ玉ねぎと一緒に炒め出した。

そこへ真っ赤なケチャップを投下!

フライパンを煽りながらもう一つのフライパンに油を引き、卵を投入!


こ、これはまさか……


フワトロの卵の下にチキンライスが……



「これで卵を軽く破いてみてよ」


フォークを渡され、そのモノにブッ刺そうと思ったらカウンター越しに手を握られた。


「こうだって、ぶきっちょだなぁ」


こいつ……使徒の俺の腕を止めやがった!

で、デキル!


そいつは俺の手を持ったまま、ふわふわの卵を横一閃!

軽く傷を付けた卵はトロトロの感じがそのままにチキンライスの前後に覆い被さる!


「まさか、そんな、嘘だろ、オムライスが此処に…………」


「へーコレ知ってんだ。この店オリジナルって聞いてたんだけどな。まあ、これでも飲んで食べてみてよ。ロングアイランド・アイスティーって言うんだけど」


むっ、アイスティー?


まずはこのオムライスから!


「はむはむはむ……んんッ!」


「どお?」


ニヤニヤしながら俺の反応を見ているイケメン店員。


クソッ!


「美味いに決まってるじゃん」


そしてカクテルを一口流し込む。


やっぱりそうだ。口の悪いバーテンに教えてもらったロングアイランド・アイスティー。


「ここでレディーキラーのカクテルを出すとはな。アイスティーとは言っても一切紅茶の入っていないアルコール度数の高い物をバーテンが出す。店で酔わせて何をする気だ?やって弱みを握り、暴力で脅すか?どこにでもいるがお前最低だな、クズと言っても良い!

店の店長を出せ!」



「ちょッ!そんなつもりじゃねえって!気持ち良くなってもらおうと思って出しただけだって!」


「良い訳は後で聞く。店長を出せ!」


ロングアイランド・アイスティーを一気飲みして見せた。


「へぇ、飲めんじゃん。悪いが店長はいないぜ」


「いないってのはウソか?」


「本当にいないって。王都へ出張に出た所だよ」


「じゃあそこら辺と今までの酔わせてどうにかしようとしていた犯行を聞こうかな」


「俺と二人でかな?」



俺の言葉の意味を分かって無かったらしい。

モテる店員とアフターがあるのかもしれないが、は一切その気はない。代わりに…………



「まさか。あっちの人が知りたいらしいよ」


俺は窓を指さした。


「へ? うげっ!」


そこには窓に張り付いたビリーの姿があった。

通りに思いっきり豪華な馬車を待機させ、顔を窓ガラスに押し付け、下半身は俺のあげたパンツ一枚の変人ぷりだ。

ついでにギンちゃんもハアハア言いながら窓ガラスに真似して張り付いている。


俺の後をついて来ている事は分かっていた。

だって護衛付きの馬車で付いてくるんだもん、分からない方がおかしい。

そして俺と目が合ったビリーはハッと正気になり、護衛として連れていた騎士団を突入させる!



「店員全てを拘束!客は全て持ち物検査だ!違法な薬を持っている可能性がある!」


市街地戦装備の胸、肩、腹、股間に太ももだけを鉄プレートで保護した騎士達20名近くが一斉に突入してきた!



裏口でもあるのか、逃げ出そうとしていた他の店員を低い位置からスーパーダッシュを決め、太ももに噛みつき引き倒すギン!

カッコイイ!


やる時はヤル奴だと思ってたよ!


流石に暴徒やテロ相手ではないので、鉄製のガントレットでぶん殴る程度だが、あっという間に制圧していた。



「さて、アルコール度数が高いのを騙して飲ませ、町の若い人にいい事をしやがる奴だと言う事は裏が取れている。その悪行三昧、罪は重いぞ」


鎮圧された店内で、ビリーが腰から細いサーベルを出して剣先をバーテンへと向けた!


どこの金さんだよ

羨ましがってんじゃねえぞ



バーカウンターを取り囲む、厳ついフルプレートの騎士達。

その手には抜き身の剣が握られ、制圧した他の騎士達とは一線を画す強者のオーラが出ていた。


「りょ領主様っ! お、お前一体なにもんだよ」


がっくりと項垂れて俺を見て来るバーテンに対し、ビリーは言い放った。


「お前と言うな。私の妻になろうとしている女性だ」


「約束してないし」


「恥ずかしがって……愛い奴め」


「ビリー、お前の下半身の方が恥ずかしいわっ!」


俺がやったパンツを穿いていた。

それもピンクの小さいフルバックだ。横を紐で結るハイレグタイプなんだが……


「そうか?」


「ああ、サイドボールと土筆ん棒がはみ出てるぞ」


それを指摘するとニヤッと笑った。


「照れるなよ」


「照れてねえ!」


このつよつよ強心臓は何処からきたのやら。


だが俺を尾行していたので、バーテンに依る婦女暴行未遂で終わったのかもしれない。

コイツが強者だったらどこまで俺一人でやれたのか。

いや、ギンちゃんも忘れてないよ。

そんな大きくなった身体で足の上に載らなくても。

ッ!!ちょっとまだオムライス食べてないんだから!がっついて食わないでッ!!

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