第32話 〇とは違うのだよ、〇とは

◆◆◆ 第32話 〇とは違うのだよ、〇とは ◆◆◆



 広く景色の良いリビング


隣の部屋に入ると、これまた広い執務室のようなソファーとテーブルに分厚い板で出来た机と手作りと思わせる椅子。

そこから外のバルコニーに出ると、濛々と燃え盛る離れの小屋があり、遠くから騎士団と思しき者達が消火活動に勤しんでいる。


リビングに戻り、妙な汗が出たので軽くシャワーでも浴びようと寝室の隣にある浴室に入りマジックイメージチェンジングリングに服を入れて中へと入った。



「やあ、待ってたよ」


「何でお前がいるんだ?」


肩にタオルを掛けて銭湯の半分程の広さのあるお風呂に入ると、そこには頭を自分で洗っているビリーの姿があった。


「何故と言われても、ココは私とハルの城だからな」


「既に私の城になってるし」


「まあ細かい事は気にするな。ほら、頭を洗ってやるぞ」


「まあいいけど」



私は暖かい湯気が充満する浴室の中にある、椅子に座らされた。

それは美容室にあるような椅子で、背後に倒れながら足元を上にあがらせ、フルフラットな状態にまで倒れていく。


一応タオルで股間は隠しているが、胸は男の名残りで出したままだ。

私の顔の横に来たビリーは、美容師かと思うような手捌きで髪を濯ぎ、シャンプーで泡立て、リンスの様な物まで使ってきた。

自分でするより他人からやってもらった方が何で気持ちいいんだろう。



「はい、次は腕を洗いまーす!」


「いいけど」


「次ぎは身体でーす!」


「そんなに寝に理にしなくてもいいけど」


「長い足も洗いまーす!」


「あ、きもちい」


「はい、うつ伏せになってくださーい!」


「これは楽よね」


「綺麗な背中を洗いまーす!」


「そんなサワサワしなくてもいいから」


「腰からヒップに掛けて洗いまーす!」


「そこくすぐったいからっ!」


「やっちゃいまーす!」




やられてしまった。


Ver.2のブルジュハリファで、見事にやられた。


トロトロのテカテカでヘトヘトになった私を見る顔はまるで『スカイツリーとは違うのだよ、スカイツリーとは!』と言っているどこかの大尉のようであった。



もう一度身体を洗い、脱衣所へ出る。


「何故そこでも私があげたパンツを穿く!」


「大切な女性から貰ったパンツだよ。穿くに決まっているじゃないか。私は毎日穿くよ!これしか持っていないし!」


「分かった!分かったから!せめて洗って穿け!」


出来るだけ透けていない生地を選び渡してやった。


透けていると、それだけで魅了チャームの魔法が掛かりそうだからな。

気を付けないとっ!


ビリーは私があげた奴の中から白いVバックのブラジリアンパンツを穿いた。

むふふんと、どうだこれと言いたげな表情だが、アレはケツ肉がはみ出して妙にエロいお尻に仕上がるから嫌だ。まだノーパンの方が私に合っている。

私はパンツにも拘るイカしている女なのだ。



「さあ、夕食にはまだ早いから少し軽食でも食べよう」


私はダイニングへと案内された。




「どうだ?この肉は?」


「え?肉々しくて美味しいわよ」


「え?憎たらしい?」


「え?愛らしいの間違いじゃない?」


「え?愛してる?」


「え?そんな事言ってないし」


「え?そんなに照れるな?」


「え?慣れてる?いいえ、私はそれほど経験ないわ」


「え?経験無い?あれで?」


「え?よくわかんない…………って言うか何だこのなが――――いテーブルは!話も分からないじゃない!」


「これが大貴族というものさ」


私達は10mはあろうかと言う長いテーブルのあっちとこっちで軽食の肉々しいサンドイッチを食べていた。

広いダイニングが嬉しいのか、ギンちゃんはお肉を咥えたまま走り回っている。


「だから貴族様式は嫌いなんだよ。食べるなら近くでワイワイ言いながら食べたいじゃない」


「よし!君がそう言うのならそうしよう!」




今度は長ーいテーブルを横にして座り、1m程の感覚で移乗に横に広いテーブルのあっちとこっちで食べるように変えた。


「何か変だけど、さっきよりは良いわ」


「そうだろう。私も君の顔が良く見えてテーブルが持ち上がりそうだよ」


「相変わらずの言葉ね」


「いやーそれほどでも」



いつも元気だと嫌味を言ったはずだが…………


ビリーは綺麗な真っ白いワイシャツを着ているが、下半身は白パンティー一枚である。テーブルで見えないから良いものの、これで城で働く住人は何も言わないのか?


慣れか!

慣れとは恐ろしいな。


私は軽食を食べ終わり、風呂上りに着せられた真っ赤で、両足が真横に腰まで切れ上がったスリットの入っているイブニングドレスを着て城内を再確認するように歩きまわっていた。


歩くと言っても魔道具なのか、パワーアップしたクローラーの付いたピンヒールなので、滑るように進んでいいるのだけど。



おおよそ城の概要は、広さが学校のグラウンド程度であり、三階建ての一部地下室がある大豪邸だった。


ロビーから謁見室、会議室、執務室、シガールーム、バー兼茶話室、大広間などが一階にはあり、二階、三階は従業員の個室や領主の個室、私の部屋がスイートルームのビリーの個室から続き部屋になっている。

その他にも何に使うか分からない部屋から、城外の離れまであり、変態貴族と言えども流石は侯爵と言うお城だ。



「これだけ広いとセグウ〇イも必要だわな」


正面玄関から表へと出て、城を一周ぐるりと回るが、あのエルフの住んでいる離れは別の城壁で守られており、中の様子を見る事が出来なかった。

ざんねん。



今から町へと出かけて回る時間も無いと思ったが、少しならと思い、普段着に着替えてから正面門へと行って見る。


入った時とは違う門だったようで、シルバーのフルプレートメイルを着た兵士が二人立っていた。


ガシャッ


プレートが鳴る音と共に左右に開いて道を開ける兵士達。


会った事も無いはずなのにこの動き。

戒律が厳しい事を伺わせる動作だった。


なにせ、こっちは露出が激しい戦闘服Ⅰを着ていた。


「ねえ、冒険者ギルドはどの辺にあるの?」


「はっ!この道を真っすぐ行きまして、大きな交差点で交差する所に御座います!」


「ふーん、結構距離があるわね」



なだらかな丘の上に建っている城なので、町の様子が殆ど見えるようになっていた。


「近くから乗り合い馬車が出ておりますが、領主様に言えば馬車を出してくれるのでは?」


「そうね。ねえ、町に面白い武器とかを売ってる所とか、変な雑貨を売っている所って知ってる?」



諦めきれない私は最後の望みを託して聞いてみた。


「おい、何か知ってるか?」


「いや、高い物や、安いので評判の店なら分かるが」


「すみません、私たちには分からないです」


「では、流行りの美味いお酒と料理が食べられる店は?」


「ああ、アソコしか無いだろ」

「そうだな、アソコだな」


「何て名前?」


「「パーティーピーポーって店です」」


ぱッ、パティーピーポーね。何だかわかりやすいわね。


「それってどういう意味か分かってんの?」


「「いや、知りませんが。遠い他国の飲み屋と言う意味らしいですが」」



ビンゴ!

転生か転移人を発見!



私は場所を聞き、明日からの予定を考えながらお城へと戻った。


夕食後にビリーと一緒に食事を摂り、進んでお風呂へも一緒に入った。

当然、続きドアから入って来るビリーに、寸止めを繰り返し、漏れるか漏れないかのギリギリを攻めた私に錬金術師の下請けの隠れた店を教えてくれた。



「ふふふ、普通の女とは違うのだよ、普通の女とは!」


この勝負、私の勝ちだった。


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