第25話 戦線布告
◆◆◆ 第25話 戦線布告 ◆◆◆
俺は今、隠密のスキルを持っていない事を恨んでいた。
大きな家……いや、これは城か。
何気なく門番の兵士に挨拶をし、門兵が出入りするドアから中へと入る。
まだ誰も気が付いていない。
匂いはショボショボと魔法の水で身体を流した。
ギンにも匂いを確認させたが、『ペッ』っと唾を吐かれてしまった。
まあ、犬だから。
人間よりは敏感と言う事で、大丈夫なはずだ。
よそ様の女子達はみんなこのような気持ちでいるのかと思いながら曲がり角から頭を出し、誰も居ない事を確認しながら先へとダッシュ!
壁伝いに背中を付けて徐々に目的の部屋へと辿り着く。
来た。
この苦労もココまでだ。
俺はドアを開けて中へと入った…………
「やあ!遅い御帰宅だったようですね!」
俺がいつも朝食を食べているテーブルで、優雅にモーニングティーを飲んでいるエリアス・クラウザー伯爵が挨拶をしてきた!
「なっ!何故この部屋に!」
「何故?元々ここは私の家だが。居ても不思議ではないだろう?」
「むっ……それはそうだけど…………」
「むむむっ!そこに見えるはチューマーク!」
「え?!はぅっ!こッこれは!……むっ虫刺されで!!」
オロオロとしながら俺は首筋を両手で隠した!
目くるめく糖蜜の様な歓喜を思い出しながら俺は自然に首を隠す!
だが、伯爵はその上を行っていた。
「首にあるとは言っていないが……それにその妖艶な顔から見えるは喜びの顔!そして男の匂いがしているではないか!」
ドーン!っと指を指されて俺は床に崩れ落ちた。
「そ、そんな……洗い流したのに…………」
「ふふふ、言ってみるもんだな。私は鼻炎持ちでね、匂いなどよく分からん!」
髭を指で整えながら勝ち誇った顔をする伯爵。
「は、謀ったな……」
「人聞きが悪いなぁ、試したのだよ。朝帰りをする使徒様が何をしていたか興味があったのでね。ささっ、お風呂に入って私目が念入りに洗って進ぜよう」
俺は朝帰りを見つかり、無い状況証拠を慌てて隠し、全てがバレてお姫様抱っこをされてお風呂への道を連れて行かれる!
「あっアレ~!あ、ああ!奥様が!奥様がいるって!」
丁度ドアから顔を出してきたカサンドラ婦人と目が合った!
「何っ?」
俺を抱きあげたまま固まる伯爵!
『あなた~』っといういつもの言葉を期待していたが、出て来た言葉は……
「ハルちゃん!あのねっ!私っ出来ちゃったみたいなのっ!」
「はッ?!」
であった。
「伯爵の上から失礼しますが、出来ちゃったと言うのは、イボが出来たとか、出来なかったパズルが出来たとか、頼んでいた服が出来たとかですか?」
何かイヤな予感がするッ!
「喜んでっ!夫との新しい子供が出来たのよっ!うふふっ!うふふっ!」
夫人は自分自身を抱きしめ、いやんいやんと身体をくねらせていた。
俺は横から上の伯爵へと目線を動かすと、いやーまいったなぁ、やることやっら出来ちゃったんだもんなぁ、みたいな少し照れた顔をしていた。
「ほらっうちの主人って絶倫だから、娼館なんか行かせたくないでしょ。でもハルちゃんなら側室でも構わないかな~って思って。うふふっ!うふふっ!」
ダメだ、頭が天国にイッちゃってる!
「そりゃあ私よりも遥かに美人でナイスボディーだから、比べられるのは嫌よ。でもね、うふふ、夫が言ってくれたのよ、『いつどんな時でもお前が一番だよ』って!うふふっヤダぁ、何言わせるの!」
俺は再び上を見た。
ひゅーと下手な口笛を吹き、顔を真っ赤にして横を向いてしらばっくれていた。
ガッデム!
内輪で決めやがったな!
「貴方~ハルちゃんは若いから何でもオッケーよ~私は赤ちゃんの靴下を編もうかと思ってるから、楽しんでらっしゃい~」
「うむ、お前を抱けないのは残念だが、側室を持った気持ちで頑張って来るぞ」
「頑張ってね~うふふっ!うふふっ!あははっあははははははははははははははははははははははははっ!」
夫人は高笑いをしながらクルクル回転し、どこかへと行ってしまった。
「では、いざッ参らん!」
「へ?ちょっと!ちょっと!ピナっ!アンっ!」
二人は伯爵が飲んでいた紅茶を下げると、揃った声で
「「お楽しみ下さい」」
と部屋から下がって行く!
「そう言う意味じゃないからっ!」
遠ざかるメイドを止めるが、サッサと俺を抱いたままお風呂場へと向かって行く。
「私のこの想いはマグマのように沸々と煮えたぎり、ピナツボ火山のように燃え滾って直ぐにでも爆発しそうだよ」
「何でピナツボの事を知ってんのよ~」
「今、天から降って来た!ええい、俺のモノになれい!」
「ちょっと!ああ~堪忍してえええええええ」
それから私が解放されたのは昼過ぎだった。
もう一度お風呂に入るハメになり、メイドに当たり散らしながら奉仕を求め、少しは気分も収まった。
「もうっ!プンプンだぞ!」
1級ポーションを飲み、ジャンクフードが食べたくなって町へと出た。
ギンちゃんに匂いを嗅がせるとOKを出したので、メイドの洗いテクニックは満更でもないらしい。
町の露天で売っている何だか分からない鳥肉のもも焼きを二つ買い、胡坐を掻きながらギンと一緒に食べる。
「姉さん、威勢がいいねえ。パンツ丸見えだよ」
「お金を取るわよ、放っておきなさいっ」
「こわっ」
全部のスケジュールがぼろぼろになって、腹癒せにモモ焼きをもう一本食べてやった。
ガランとした冒険者ギルドでポーションを売り、飲む気分じゃなかったので、ギルドを出て何処に行くか暫く悩んでいた。
すると、向かいの商業ギルドからとぼとぼと出て来るレニーの姿があった!
「レニー!」
「ぁっ」
わつぃの大声で気が付いたレニーは、少し微笑むように笑顔になったが、直ぐにその笑顔は曇っていった。
馬車の往来を見ながら道を渡り、レニーの所まで行った。
「どうしたの?元気ないなぁ。私が居なかったから寂しかった?」
冗談で言ってみたのだが、レニーの顔は曇ったままだった。
「うん、寂しかったのは本当だよ。でも……前の状態に戻っただけだから……」
その表情には寂しかっただけではなく、何か重大な事が起こっているような顔だった。
「何があったの!私に行って見なさい!」
すると、レニーは渋々私に言いだした。
それはレニーの商売の事だった。
客の一部から偽ポーションを売っているとの情報があり、精査の為に一時ギルド証を停止させるとの事であり、偽物を売った売ってないに関わらず、商業ギルドを介さないポーションの売買で、重加算税として売り上げの7割を収めろとの事だった。
「はあ?何それは!」
「俺も知らない事を言われて困ってたんだ。もちろん偽物なんか売っていないし、ギルドを介さない物の売り買いは違法ではないはずなんだ。でもギルマスがそう言っているって…………」
「それは確かなのね」
「うん……嘘は言ってないよ」
「……そこで待っていなさい。私が片づけてくる」
指に嵌めているマジックイメージチェンジングリングを操作し、伯爵から貰った戦闘服Ⅱにチェンジした!
「ハ、ハル!」
私は深紅のローブを翻し、商業ギルドへと入っていった。
ダンッ!
ドアを激しく閉め、私は少しいた商人達からの視線を浴びながら一番手前のカウンターに向かった。
「クリムゾンよ。一番偉い人を出しなさい」
「は?アポイントメントはあるのですか?」
中年の職員は薄ら笑いを浮かべ、私に言ってきた。
「ならばこう言うわ。私は使徒よ、直ぐに責任者を出しなさい」
「使徒様?そんなギルド会員はいませんが。来る場所をお間違えでは?冒険者ギルドなら向かいの小汚い建物ですよ」
口角を上げ、明らかにバカにした顔で笑っていた。
そしてカウンターにいた商人などの客達も私を見てグフフフと笑い、カウンター奥からも笑い声が聞こえる。
「最後の忠告よ。一般客!ここは直ぐに戦場になるわ。巻き込まれたく無ければ直ぐに脱出しなさい。それと全てを分かっている職員!お前らは逃がさない!」
だが、私の言う事が嘘か冗談だと思っているのだろう。冷たい視線を浴びせたまま、誰一人として動く者はいなかった。
「お客様、良いお薬がありますよ。金貨5枚程ですが、お買い求めされてはどうですか?元々の性格では効かない事もありますがね」
職員が言った傍から全員が笑い出す。
「ミニファイヤー」
私は肘を曲げ、上に伸ばした人差し指の先にパワーアップした親指程度の火の魔法を顕在化させた。
「お客様、魔法が使えるのは凄い事ですが、その大きさではちょっと役にたたな……それにここにはお客様には分からない難しい書類が沢山ありますので、遊びなら騎士団を呼びますが」
直ぐに奥からギルド職員が出口に向かって走り出す!
だが、逃がさない!
「うっ!ドアの向こうに見えない壁が!」
外が見えるのに出られずに狼狽える職員!
その職員に私は指先を向けた。
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!
マシンガンの様に指先から連続で出て来る火が線になり、ドアの前で突っ立っていた男を火達磨にしていく!
「うあああああ!」
男は床を転がり射線から逃れるように這いずりながらカウンターの中へと戻って行く!
それでも私の火炎は高速のまま、進路を変えて執拗に男だけを燃やし続ける!
1~2分もすると男は動かなくなり、黒焦げのまま床に横たえていた。
「人殺し!!!」
誰かが叫ぶと同時に商人達が一斉にドアへと向かって逃げ出した!
ギルド職員はドアが無理ならと、窓を開けて一斉に外へと逃げようと動き出す!
「逃がさないって言ったわよね」
ギルドの建物に沿うように地上、床全てに
右往左往している人間らに鉄槌を下す!
「ミニファイヤーストーム」
イキる訳でもない。平然と声に出すと、見える天井全てに親指程度の火が浮かんだ。
その火がゆっくりと回転しだす!
柱にぶつかり飛び散りながら燃え移る!
無くなった火炎の隙間を埋めるように新たな火炎が生まれ、その火炎の密度を保ち続けながら、一階の見える範囲全てを燃やし続けていく!
「貴様らも同罪だ。死をもって償え!」
狼狽え彷徨う商人らに火炎放射器のように火を浴びせ続け、全身火だるまになってからドアから叩き出した!
「あはははは!私は使徒クリムゾン!使徒に歯向かうのなら先は死あるのみ!お触れを出しなさい。出せれるかは知らないけどね!」
半死、全身ケロイド状になりながらも地面を這いずりながら逃げようとしていた。
良くて寝た切り、悪けりゃ感染症で苦しみながら死ぬだけ。
私に逆らった人間がどうなるか教えてやるわ。
結界を身に纏い、再びギルドへと入って行く。
中は黒焦げ状態で、物なのか者なのかも分からない状態になっていた。
「ミニウォーター」
親指程度の水球を無数に出し、一気に鎮火させていく!
生き残っていた階段を上り豪華なドアへ向けて見にファイヤーを放つ!
だが、魔法防御がされているのか、ドアに連続して火炎が当たってはいるが、表面で弾かれ燃え移る事がなかった。
「セコイ事をッ! 爆導策!」
一気に鉄パイプに魔力を込め、ドアへと向かって振った!
ドッコ――ン!!
爆散するように粉々になって散らばって行く感情なドア!
その瞬間中へと火炎の連続弾をお見舞いする!
「中に居るのは分かってるのよ!」
豪華な調度品ごと全てを燃やし尽くす!
火炎が渦を巻き、地獄の様な風景になりつつある中、一人の太った男が悲鳴を上げて転がって来た!
「ひいいいいい!」
その瞬間、私は右手にペストルを構えた。
タンッ!タタタンッ!
軽い音と発射音がして小さいチャクラムを飛ばした!
その行く先はデブの手足であり、見事に肘膝の関節の上から切り落とす!
「うぎゃああああ!」
「2級ポーション出ろ!」
私は切り落とした手足にポーションを振り掛ける。
傷は一瞬で塞がり、流れていた血は直ぐに止まった。だが、等級の低いポーションでは失った手足は生えて来る事は無かった。
「こんな事をしてどうなるか分かっているのか!」
まだ文句を言う元気があったか。
「私は使徒。人間界の法で捌く権利など無い。当然、私にはお前の生死与奪権がある。楽に死ねると思うなよ」
「違う!私は上から命令されただけだ!」
「お?急に弁解を始めたか?どっちにせよそれを受け止め指示を出したのはお前であろう。同罪だ」
「金!金をやろう!中にあるマジックバックに白金貨が入ってる!それでどうだ!」
「どうせ地獄へ向かう命。金など要らぬであろう、私が有用に使ってやる」
「それでは話が違う!」
「約束したつもりは無い、貴様が勝手に言っただけだ。そもそも私に罠を張る奴を許す訳が無い。ハルロードの事を聞いてはいないのか?」
「知っていたらこんな事はせぬわ!」
「豚がッ!もはや、知っておろうが知っていなかろうが関係ない。そろそろお披露目だ。爆導策!」
弱い魔力で作った爆導策を身体の隅に出し、爆発の威力で身体を転がしていく。
数回の爆発でギルマスは階段を落ち始め、一階でも爆発の威力で外へと転がし出した!
4級ポーションで少し傷を癒し、元気になった所でミスリルナイフで真横に腹を掻っ捌く!
「うぎゃあああ!」
分厚い脂肪の中から腸がはみ出し苦しんでいる。
「まだだ!まだ死ぬな。爆導策!」
グズグズになった腹の中に鉄パイプを突っ込み、鎖に繋がった爆薬の鉄球の様な物を静かに出す。
「2級ポーション!」
私は真横に切った腹にポーションを振り掛けた!
出ていた腸がみるみる戻って行く!そして切った腹の皮が逆再生でもしているように元通りに治っていった。
何もその場に残す事無く。
「さあどうだい?腹の中に爆薬を込められた気分は?」
「クソが!お前は使徒なんかじゃない!悪魔だ!」
「あらあら、あんまり大声を出すと爆発するわよ。
一つ教えとくわ。使徒って神の代理なんだけども、そもそも神って人間に都合の良い様に助けるだけと思ってない?そんな訳ないでしょ。悪い人ならば殺すし、町全体が悪ければ一瞬で消し去る事をするのが神よ。神の代理である私に喧嘩を売って来た商業ギルドには消えてもらうわ、関係者諸共!」
私は青ざめているギルマスから少し離れ、更に大きな輪になって見ていた民衆に話し出す。
「私は使徒のクリムゾン。この男共々商業ギルドは使徒である私に喧嘩を売って来た。よってここで天罰を与える!」
一気に辺りが明るくなった!
いや、遥か上空から灯りに照らされているようだった!
その光がゆっくりと収束していく。それは小さく、とても小さく収束しだし、小指の先程の大きさになってギルマスの焦げた腹へと照射された!
「ミニレーザー!」
その瞬間!脈動するように何も無い光の線が、脈動するように膨れ上がり、男の腹に照射された!
「熱い!熱い熱いたすけ――」
ボウンン!
身動ぎをした男は、腹の中に詰めた爆導策に点火され、四方へと血肉を撒き散らしながら散らばっていく!
ピシャッ! ビシャビシャ!
間近にいたハルの顔に血しぶきを掛け、男は塵となって消えていた。
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