第22話 野盗の最後

◆◆◆ 第22話 野盗の最後 ◆◆◆



 ニタニタと笑いながら気持ちいい気分を台無しにしてくるチンピラ崩れ。


「くそっ!何をしようとしているのか分かってるのか!」


 私の下から抜け出したレニーは、私とチンピラの間に入りこれ以上来ない様に立ちふさがっていた。



「ヒュー王子様の登場だぜ」

「俺ら負けそう」

「もし買ったらどうする?」

「そりゃー商品の女を貰うしかねえべ?」


下品な言葉を使ってきたチンピラに腹を立てたのか、レニーが大声で言い出した。


「お前らのやっている事は盗賊と同じだ!騎士団に話したらどうなるか分かってるのか!」


何しろパンツ一枚だ。

細い身体だが、一人で何でもやってきたからだろう、筋肉は付き、それなりに力がある用にも見えた。


だが、冒険者とは基本からして違っていた。


ハルロードでもそうだったが、基本的に長く続けている冒険者達は身体が大きい。低くても170cmはあり、そう言う冒険者は速さに特化した人だった。


レニーは身長だけ見れば高い。

170後半はあるんだと思うが、そこは商人。

幾らチンピラだろうが、戦闘を生業としている冒険者とは身体の作りが違うのだ。



「ここら辺には人を食らう大型の魚もいるって話だぜ!」



ドンッ!


軽く男が手を伸ばしただけでレニーは軽く飛ばされ、波打ち際へと尻もちを付いた。



「へへへ、姉ちゃん。そんな優男じゃなくて俺ん所に来いよ」

「儲けさせてやるぜ」

「俺らのパーティーに入れば良いんじゃね?」

「そうだな、俺が毎日可愛がってやるぜ…………ん?」



男は私に手を伸ばしてきた。

だが、そこには既に結界が張られてあり、それ以上進む事は出来なかった。



「汚い手で私を触るな。私はアプロ様の使徒だ」


「おい!お前何をした!」



私が結界を張ったのが分からなかったのか、パントマイムのように手をペタペタさせながら一斉に横へと移動し始めた。



「無駄よ、そこへ円形の結界バリアを張ってるわ。閉塞空間だから逃げられないわ」


「てめえ!何してるのか分かってんのか?」


「私が結界を張ったからね、分かってるに決まってるわ。貴方達バカ?」


それに頭に来たのか、持っていた剣を抜いてガンガンと剣で叩き始めた。


「バカは死ななきゃダメって言うけど、私の手を煩わせた罰よ。死になさい」


「ちょ!待て!!」



私は指先に火を灯した。

それは小さな小さな蝋燭ろうそくよりも少し小さい薪に火を灯せるだけの僅かな火だった。



「へ?なんだそれ」

「ぎゃはははっ!虫しか殺せねえぜ」

「それでどうやって殺すってんだ?」

「ビックリして死にそうだぜ。早くここから出せ!」


男どもは結界の硬さから特大のファイヤーボールを想像でもしていた。

夕方の迫る夕日が、少しでも明るければ、その種火同然の火は見えなかっただろう。



「まだ力が足りず、これだけの大きさしか出せないが、魔力総量は人間界で誰にも引けは取らない!」


「それでか?駆け出しの魔法使いでももっとおおき……い…………」


指先から種火の様な火がフワッと宙へと浮かんで行く。3m程上空へ飛んだ種火はそこで停止し、そして分裂していく!


2個から4個、8個、64個、128個、516個…………それば倍々で増えていき、夕日よりも明るく空を埋め尽くす程の数千万もの小さく広い真っ赤な絨毯のような炎となっていた!


「ばっ化け物かっ!」


「3歩歩くと忘れる蛮族か。私は使徒だ。俺と違って慈悲なる心は持ち合わせておらん!」


指先をクイッと前に出すと、空を埋め尽くしていた炎が回転しだす。

まるで蛍の光が乱舞するようにゆらゆらと回転する炎。


そして指先が前から下へと変わる!

一気に上空まで上がった炎は密集し、そのまま滝の様に結界の中へと突き抜け落ちていく!



「ぎゃあああああ!」

「やめッ!やめろおお!」

「助けて!助けて!」

「焼ける焼け死ぬうう!」


手足をバタつかせ、地面を転がり、それぞれが火を消そうとしていた。



「何をしている!」


上品な皮の鎧を着て、帯剣している男達が声を張り上げ砂浜に走って来る!



「キャッ!怖い!」


私は後ろで立ちすくんでいたレニーの胸に飛び込んだ!


「こっちが怖いよ…………」


ボソッと言った一言は聞かなかった事にしてあげるわ。





 結局チンピラの四人は残念ながら生きていた。

幾ら数の暴力だろうが、肉を焼き消すまでのパワーは無かったようだ。


は、近寄って来た騎士達に訳を説明した。

砂浜で遊んでいると、四人組の強盗が現れて乱暴と金品を要求されたと。

身を守る為に仕方なく魔法を使って退治したと。


騎士達は俺の放ったプチファイヤーの空を見てやって来たようだった。

ダンジョンは領主であるエリアス・クラウザー伯爵の物であり、管理を冒険者ギルドへ委託していた。


7時から11時……いや18時までの間と、行き帰りの護衛を務めているようだ。

コンビニかよ、とも思ったが遅くまでの営業はしないんだろう。


俺が伯爵の城に滞在している事を話す前に、珍しい銀髪の髪と顔を見て思い出してくれたようだったので後は楽だった。


全身水膨れ状態であり、防具もあちこちが焦げたまま、後ろ手にロープで縛られ町まで連行されていくチンピラども。



少しづつ暗くなっていく砂浜に分かれを言い、俺達はギルド職員と騎士達、そしてチンピラどもと町に帰って行った。




「ハル、面白い事に遭遇したようだな」


「流石は早いですね、伯爵」



町でレニーと別れ、伯爵の城に戻ってお風呂に入りピナから念入りにあちらこちらを洗われて、綺麗さっぱりスッキリし、軽い部屋着に着替えた所で部屋に伯爵が待っていた。


「そうだろ、私個人の騎士達だからな。そうそう、あの四人組は盗賊崩れの流れ者だった」


「へーやっぱり」


応接室に注いでくれた冷たい紅茶を軽く飲み、海岸での事を思いだしていた。



「遅く戻る冒険者や、商人を襲っていたらしい。そこロで火炎の魔法を使ったらしいが、火傷は負ってないか?」


「そんな下手な真似を私がする訳ないわよ」


「いやッ!意外と見えない所にあったりするモノだ!さあさあ腕を上げて見なさいっ」


手を引いて椅子から立ち上がらされ、腕を万歳してみる。

ノースリーブの脇が全開になっており、伯爵って脇フェチなのかしらふふふと思っていると、ワンピースの裾から上まで一気に捲られ脱がされてしまう!


「あっ!何を!」


情熱的で真っ赤なファイアーボールの様なGストだけになった私を軽々と抱きかかえ、お姫様抱っこされたまま、隣の寝室へと運ばれてしまう!


ファサッ ふわん と、ベッドに転がされ、しなりを作りながらワザとらしくうつ伏せに這いずり逃げる素振りを見せた。


「隅々まで確認せんとなあ!手や口やこの金剛棒でなっ!」


芸能人の刃や着替えの様にズボンから一気に剥ぎ取ると、シャツまでくっ付いていたのか赤いパンイチになった伯爵がベッドに上がって来る!


「ごゆるりと」


ピナがスススと下がって行く!


「同じ赤のパンツではないか!これは記念日になりそうだ!隅々までっ!皺の一つ一つ!春の知らない黒子まで探索せんとなあ!」


「ああっ堪忍してぇ」


もう、私も乗っていた。



「あの……伯爵さま」


出て行ったはずのピナが戻っていた。


「何だ、お前も手打ちにされたい……いや、お前は後5年後に美味しく頂こうかと……」


「いえ、奥様が……」



「い゛ッ!」


伯爵はお尻を上にあげている私のパンツを下ろそうとしている時だった。微かに下がったパンツを握りしめ、フガフガとお尻に頬ずりしたまま固まっていた。



「あ~な~た~」


デンッ!と出て来る奥様のカサンドラ。


「おッ!おまっ!」


「そんあに子供が欲しいなら考えましょう。さあ、明るい家族計画へ!」


「痛っ痛い!助けてハル!」


伯爵は奥様に耳を引っ張られて行ってしまった。




「ハルさま、如何致しましょう」


「疲れちゃったからこのまま寝るわ、ギンちゃん!」


側で事の成り行きを見ていたギンを呼ぶと、直ぐにベッドに上がって寝る体勢を取ってきた。


すぴすぴと鼻を鳴らし、一通り胸の香りを嗅ぐと一緒に夢への旅に旅立っていく…………

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