第21話 モテない男

◆◆◆ 第21話 モテない男 ◆◆◆



「おい、何かいい事あったのか?」


「また男言葉になってるっ」


「むぅ……レニー、何か良い事あったの?」


「ああ、毎日良い事だらけさ」


「ふうん」



 ニッコニコ笑顔で品物を売るレニー。


俺もこっそりとポーションを魔法で出しながら一緒にお店の手伝いをしていた。


最近、レニーの顔が生き生きしている。

笑顔も多いし、仕事が楽しそうに見えてる。


今まではポーションを買えるだけ買って、在庫が無くなるまでしか販売が出来なかったが、俺が一緒に働く事により、無限に出せれるようになった。


しかも商業ギルドから買ったポーションは俺ら薬師から買った購入金額の2~3割増しで業者へ販売している。

俺はその元の値段でレニーに売っているから、レニーは安く買って販売が出来るようになった。

今までの2~3割増しで収入が増える上に、販売本数は今までの10倍を軽く超える本数になっていた。


まあ、笑いも出るんだろう。



しかし、レニーは俺が男言葉を使う事を一々注意する事になっていた。

今は俺だから注意しないと言葉が男になるし、動作などの所作は完全に男だった。

逆に私と言うような状態だと、もう一人の女の俺が目覚めるので、変な注意が必要になるんだが。


身体が女だからか、精神が女に引っ張られている気がする。

あのハウンゼンとの一戦?で時々出て来るようになった女の俺は、俺にも静止出来ないし、それが不思議だと思えない精神状態になる。


幾ら注意していても無駄なんだろうか。



「あ、水筒の水が無くなった」


今日は特に暑いから飲水は大事だ。

角材の棒に布を張って屋根は作っているのだが、直射日光を防げるだけで、暑さは分からない。

そう言う俺は日光が高くなるに釣れてローブを羽織っていた。


簡易的な自動温度調節が付いている高級ローブなので、頭までフードを被ればそれほどの暑さを感じなかった。


「ほら、貸しなさい。水入れてあげるから」


周りに人がいないのを見計らって水筒を奪い取り、蓋を上げて冷たい水を指先からじょぼじょぼと入れてあげる。


攻撃力は全く無いが、通常魔法は全て使えるのだ!。

威力が無いだけでオールラウンダーの力を見るが良い!


「えい!」


ついでにレニーの頭から冷たい水をじょぼじょぼ掛けてあげる。


「うひっ!」


「頭が熱くなり過ぎるとバカになるわよ」


「う、うん。ありがとハル。何でも出来るんだね」



「ふははは!使徒だからな!使徒!」


「また出てるっ」


「使徒でございますのよ?」


「何か変…………」



むぅ、本気にしてないな?

まさか俺も使徒とは思わなかったが、何かしろと言われたわけでも無いし、スローライフでも楽しむさ。


ダンジョンも暑さの為か、早々と帰宅する冒険者が多かった。

思いつきで冒険者のダンジョン帰りに、桶に氷水を入れ冷え冷え4級ポーションを売り出すと飛ぶように売れる!


暑さでダレた身体に効き、尚且つ安いと言う事もあって滋養強壮、慢性疲労回復でスマッシュヒットとなった。



まだ陽も暮れていないが、そろそろ俺らも帰ろうと言う事となり、片づけを始めた。



「ねえ、ちょっと海に行きたい」


何度も海辺のダンジョンには来ていたが、海に入った事が無かった。

片づけも終わったし時間も少し早いので、ちょっとだけ海に入ってみたいと思ったのだ。


「じゃあ俺も付いていくよ」



レニーと一緒に道を脇に逸れ、暴風林にでもなっているのか、松林の先に白い砂浜と青い海が見えた!


ダンジョンから続く岩場が左側へと繋がっており、右は左から続く円弧を描きずっと先に半島が見え、そこに小さい船が寄港している様子も見えてはいたのだが、それが霞む程の誰もいない砂浜に心を奪われていた!



「うわぁ~」


一歩、二歩足が出た。


その足は止まる事を知らずに次々に先に足が出ていく。


その足は遂に全力となり、海風が全身を通り抜けていく!


『変身!』


指輪をクルクル回し、普段着とローブをマジックイメージチェンジングリングに入れ、こんな時にと思って入れていた黒いGストリングスの水着っぽい奴と黒いビスチェに一瞬で変身し、そのまま波打ち際を全力で駆け抜け波に足を取られてそのまま海へとダイブする!

続けていつもくでーっとしていたギンもダイブ!



「ぷはっ!ああッ!さいこ――!!」


長い髪を後ろへとかき上げ、見たことも無い透明度の海を独り占め!

そこそこ泳ぎは得意だったが、細い身体は水を弾くように身体を流れていく!

ビスチェのカップに水が入り、思いっきり邪魔だと気が付く!


「ええい!邪魔!」


前面にある革紐をジグザクに取り一気に剥ぐ!


「てい!」


( ゚д゚)ポカーンっとつっ立っているレニーにビスチェを投げ捨てる!


トップレス状態だが、男なら上半身裸でも変では無いと言う考えでその場でターンし、海へと飛び込んだ!



ああ、気持ちいいッ!

体に一切のムダ毛が無い事もあって身体中を海水がサワサワと流れていく。

男だった時と比べても何故か浮力が強く、楽に泳ぐ事が出来る!


水と一体化したような気持ち良さで暫く一人で泳ぎ、海に浮かんでいた。



ふと海岸を見ると、レニーがまだ一人でぽつりと立って見ていた。


俺は海から波打ち際へと上がり、レニーの側へと行った。


「えい!」


「なッ!」


一気に麻のシャツを上へと剥ぎ、オロオロするレニーのズボンの紐を解き、一気にずりさげる!


「あッ!」


その拍子に転んだレニー!

裾を握り、思いっきり引っ張り、靴も脱がしてトランクスのようなパンツ一枚にさせる!


「早く!早く!」


手を握り起き上がったレニーを海まで引っ張る!

前かがみになったままのレニーと一緒にそのまま海へとダイブした!


「うわっ!」



「あははははっ!気持ちいでしょ!」


「あ…………やったな!」



追いかけて来るレニーに水を掛け、思いっきり泳いで逃げる!


泳ぎと言ったら学校のプールしか泳いだ事の無かった俺に、一緒に海で遊んでくれる事が嬉しかった!

俺も楽しけりゃ、レニーも笑顔で追いかけて楽しそうだった。


この世界では海で遊ぶ事がないのか、何処までも続く白浜と透明な海が俺を呼んでいるみたいだった。



「ダメじゃないか。女の子が胸を出したら」


波打ち際で座ったまま小さい波を受けながら砂を掘って遊んでいると、レニーが俺に向かって言ってきた。


「いいじゃん、誰もいないし。」


「おっ俺がいるだろ!」


「何度も見てるじゃん、今更、今更。恥ずかしぃ身体じゃ無いしね」


左右に体を揺らすと、たゆん と揺れる胸をレニーは凝視していた。


「ほら見てる」


「みっ!見るって!そんな綺麗な身体!」


プイっと余所を向いてしまった。


可愛い奴。

見たきゃ見ればいいのに。



 俺は前世で30歳手前までモテない独身生活をしていた。

その30年近くで、女の生の裸を見る機会なんて一切無かった。

見させてくれるのなら見れば良い。

単純にそんな気持ちだった。



「ハルみたいな綺麗な女の子は襲われるんだぞ!男って怖いんだぞ!」


「そうね。分かってるわ。男はあんな事やこんな事を常に考えてるものね。イヤらしい視線で見られてるのも分かるわ。レニーが欲情してる事だって知ってる」


咄嗟に股間を手で隠すレニー


「だったら何故!」


「純粋に楽しいからよ。良い事教えてあげようか?私は違う世界からの生まれ変りなのよ。その世界ではやっぱり春って言う名前だったの、そしてその人は男だったわ」


「…………」


レニーは黙って私の言う事を聞いていた。


「その春と言う男はとてもモテなかった。誰がどう見てもブサイクな男。男からは声を掛けられ話はしても、女からは一切声を掛けられる事無く、一生結婚もせずに過ごすとばかり思ってたわ。だけど、事故にあってその私は結局女として生まれ変わったの。それが私。だから男の気持ちも分かるし、今まで出来なかった事をレニーとしていて楽しいの」


「でも!もしそうだとしても今は凄い美人じゃないか!」


「そうね、まだこの身体に生まれ変わって数ヶ月しか経ってないわ。だから心の中はまだ男、でも身体は女なの。直ぐには慣れない物よ」


「あっ」


私は同じように波打ち際で足を投げ出し座っていたレニーを押し倒し、腹の上に跨った。


「女を抱いてみる?」


完全に私となった心が俺の心と乖離していく。


「ハルは…………経験があるの?」


「前にいた子爵領でね。本意では無かったけども、それは経過点に過ぎないわ。良い?チャンスは二度と来ないかもしれないわ。待っていて来るチャンスなど適当に歩いていて宝物に当たるくらいの確率よ」


「俺だって男なんだぞ!」


レニーは下から私の胸に熱くて大きな手を当てて揉んで来た。


「私はいいわよ」

(いや、やらないし!)


「やるんだぞ!やるんだからな!」


「だったらどうぞ」

(しないったら、しないし!)


「くそっ!」



大きく熱い手が私の腰を握って来た。

そして下着の紐を外そうとしていた時だった。


同じ場所から入って来たのか、4人組の剣などを持った冒険者らしき集団がやって来た。



「ヒュ~良い雰囲気の所を邪魔するぜ」

「こんな所でおっぱじめるとはな」

「最近話題になってるぜ。チラリポロリの多いヤリマンがいるって」

「それに儲かってんだろ。ほら、俺ら儲けが少ないからさ。少し助けると思って貸してくれないか?」



如何にも持てないチンピラ崩れが

ニタニタ笑いながら傍まで来ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る