第15話 唯一の攻撃方法

◆◆◆ 第15話 唯一の攻撃方法 ◆◆◆



 軽く寝たと思ったら目が覚めてしまった。


こんな事は今まで無かったはずだが、不思議と頭はスッキリしており十分寝たような感じになっていた。


このまま寝たフリをしても良いのだったが、何故か、そうしたらいけないような気がしてベッドから起き上がる。

アルコールランプに火を灯し、水差しでゴブレットに水を灌ぐ。


軽く一口飲みサイドボードに置いた。


「フー、何だコレ?」


何もないのに心臓が早打ちしていた。

夕方の妙なラブシーンの影響じゃない。

今は俺だ。


木で出来た窓を開け外を見る。

だが外は漆黒の闇で染まり、今は人外の世界がまかり通る時間帯だった。


耳を澄ましても何も聞こえず、闇に眼を凝らしても一切見えなかった。


「気のせいか」


窓を閉めベッドに座る。


物音で起きたのか、ギンちゃんがベッドで座っていた。

耳をピコピコさせている。

ギンには何か聞こえているんだろうか?


ッン ッン


ランプの明りがゴブレットに差し込み、水の表面が波紋を出していた。


「波紋?地震?」


一定の間隔で薄い波紋が広がるのを見ていた。


「ウ――――」


突然ギンが歯をむき出しにして唸りだす!


もう一度窓を開けるがまだ何も聞こえていなかった。


何か来る。

デカい?いや、波紋を見ると一定間隔だった波が崩れて起こっていた。

数が多い?

魔物?


マズイ!!


俺は戦闘服に一瞬でチェンジし、真新しい深紅のローブを羽織り部屋から出た!



「全員起きろ!何物かが襲って来る!全員戦闘配置!誰かギルドへ連絡して冒険者を叩き起こせ!直ぐにやって来るぞ!」


俺の大声で起き出したメイドや執事、そして子爵までもが走りだす!


「それは本当か!」


「地鳴りがしている!西の大森林が怪しい!城壁にひを灯せ!」


「分かった!」



邸宅の二階、三階はココで働く職員の部屋になっているが、そこを通り抜け三階のドアからバルコニーへと出た。


職員の一人が三階から大きな鐘をガーンガーンと鳴らしだす中、町の中からポツリポツリと明りが灯りだした。


「緊急事態の鐘です!」


説明しながら必死の形相で鐘を叩いていた。

もしも、これが思い過ごしだったら?

そう言うのは全くなかった。

これは確信だ!


西の方に視線を向けると何かもやの様なモノが微かに見えていた。


「鐘はもういい!非戦闘員は全員町から逃がせ!隠し通路とかがあるんだろ!」


「は、はい!」


代わりに俺が鐘を突こうとするが、戦闘服でもやっと普通の人より少しある位の力で余り音が鳴らない!


「クソッ!こんな時に!」


それでも鐘を鳴らしていると、町の中に明りが更に増えていた!


そして遠くから地鳴りのような音が聞こえ始めている!


俺はココまでだと思い、走って下まで降りていく!


「凄い数の魔物だ!逃げれる者は全員持ち場を離れて離脱!町の住人も一緒だ!」


俺を狙った攻撃なのか、それとも偶然の魔物反乱スタンピードなのかは分からない!

今出来る事を全てする!


俺は馬小屋まで走った!


デカい牡馬の前に来た。

俺が居るとオスの期限が良くなると言われた事があった。それを信じて馬の前でお願いしてみる。



「頼む!俺をギルドまで運んでくれ!」


多分初めてこの地に来た時にいたあのデカい馬だった。そしてこいつは意味を理解したのか、馬は跪くと俺を乗せてくれた!


駆け足で城門を抜け町の中へと入って行く!

住民は集団で逃げ出していた!

人の波を掻き分け掻き分け、操作もしないのにギルドまでたどり着いた!


「現状はどうなってる!」


一人の冒険者が入口で人並みを誘導していた!


「住民は東門から脱出させてます!上級者は西門へ!」


「お前のランクは?!」


「Bランクです!」


「バックを持ってこい!ポーションを持って殿で住民を守れ!」


直ぐにバックを持って来た男は肩さげのバックを持っていた。

そこへ手から薄っすら半透明に輝く0級ポーションを入るだけ入れた」


「姉さん!これは!」


「出し惜しみするな!何としても守れ!」


「は、ハイ!!」



ギルドの中に入ると職員が色んな人と相談連絡を取っていた。


「ギルドマスター!」


奥にいた大柄な男を呼ぶ!


「クリムゾン!」


「ココを補給基地にするんだ!ポーションをありったけ持って散らばれ!」俺はカウンターに0級ポーションを乗せれるだけ乗せた!


「助かる!みんなこれを持って前線補給に迎え!戦わなくても良い!直ぐに戻って来るんだ!」


カウンター裏の床にもデスクにも、お蹴れるだけのポーションを出していく!


「全部使え!ポーションを惜しむな!命を惜しめ!」


各々がバックにポーションを詰めて走り出す!


「古参などの上級ランクは皆西門へ行った!お前さんは子爵の下へ逃げろ!」


「出来るか!」



俺はギルドマスターの声を聞かずに外へと飛び出た!


まだ何か出来るはずだ!何か!?


外は逃げ出す住民で一杯だった!

そして目の前の商業ギルドは明りも付けずに暗く静まり返っていた。


ギルドは基本的に24時間開いていると聞いたが、締まってるじゃねえか!

犯人はこいつらか!?


その時!

西門の近くで派手な音が聞こえた!



ドゴオオオオオオオオオオオオ!


咄嗟に視線を向けると、上空から真っ赤な火炎が一閃している所だった!


その火明りに照らされた空を飛ぶ飛行体!


「ドラゴンか!!」


初めて見るドラゴンがこんな時だとは!



西門はギルドからそれほど離れてはいなかったが近い訳じゃない!

だが、そのドラゴンブレスと呼ばれるモノは、離れた俺にまで輻射熱が伝わっていた!


側に居た馬に飛び乗り西門まで走る!

倒れている人々に範囲回復エリアヒール極上回復リバイブヒールを掛けながら突き進む!


ドゴオオオオオオオオオオオオオ!


突然目の前が真っ赤に染まった!


「くッ!結界バリア!」



練習はしていたのだが、上手く行った!

見えない壁に阻まれてドラゴンブレスが四散する!


結界バリアに守られながら移動する事数分、悲惨な状態の西門に辿り着いた。


結界バリア!」


見事に焼け落ちた木造の門に結界バリアを張る!

ワラワラと出てきていた魔物を門でストップさせる事に成功した!


「お前ら攻城兵器はないのか!バリスタとかあんだろ!もってこい!!」


俺に集まって来る魔物をバッサバッサと斬っていく冒険者!

俺は結界バリアに守られながら馬に乗って移動しながらヒールを掛け、ポーションをぶっかけ持たせていく。



「姉さん!持って来やした!」


詰め所横の倉庫にあったのか、直ぐに持って来た大型弓のバリスタ!


「ドラゴンだ!ドラゴンを狙え!!」


空を旋回するドラゴンに一斉射が始まった!


ドヒュヒュヒュヒュヒュ!


殆どが外れていたが、数本当たったようだ。


「矢の在庫は?!」


「まだたくさんあります!」


「死ぬまで撃て!」


ガオオオオオオオオオン!


怒ったドラゴンがバリスタの集中するこの地を狙ってブレスを吐いた!


結界バリア!」


デカく広く結界を張る!


思っていた通り、ブレスは結界で防げる!

被害は全く無かった!


「一斉射!撃てええええ!」


攻撃から反転!一気に上空まで上がり始めていたドラゴンの腹に一斉射が突き刺さって行く!


錐揉み状態になりながら落ちていくドラゴン!



「あのヤロー絶対ぶち殺す!!」



俺は馬を走らせ、落下地点に急いだ!

守り一辺の俺には考えがあった!


落下していたドラゴンはまだ生きており、冒険者と戦っている!


「一旦引け!」


流石は数回練習したクラン:クリムゾン!俺の掛け声通りに皆後ろへと下がった!

今だ!!



多重結界一点突破マルチプルバリアワンショット!」


前に出した指先から小さいバリアを幾重にも発生させていく!

ペストルには及ばない速さだが、こいつは他者には殆ど見えない!

動きの遅い相手なら!!


バララララララララララララララララララララララ!


次々に生まれていく極小のバリアがドラゴンの身体を突き抜け、指で動きを操作し、首を撥ねる!!


ドサッと落ちるドラゴンの首!


「「「「ウオオオオオオオオオオ」」」」


先ほどとは違い、今度は味方の地鳴りの様な声が上がっていた!



「西門に行くぞ!味方を守るんだ!!」



一人一人にポーションを持てれるだけ手渡し、最後に俺も馬の手綱を引いて西門に走る!




その瞬間だった!


突如として現れたもう一匹のドラゴンが、魔弾と言う漆黒のエネルギー弾を吐き、俺の目の前に落ちた!


「ぐッ!」


結界バリアを張る余裕も無く、俺は後ろに馬ごと飛ばされる!



そしてそこで俺の記憶は無くなってしまった。

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