第14話 好事魔多し
◆◆◆ 第14話 好事魔多し ◆◆◆
「で、ではギルドに行きます」
「お、おう」
あの時以来、少し子爵との関係がギクシャクしていた。
たまには覗いたり、触って来たり、突いてみたりしてくると思っていたが、全く何もしてこない。
これは焦らし作戦か?
いや!何でこれを望んでる!
私は男だ!
ッ!俺はだ!
路地で買ったレモンを二個握りしめたまま、いつものギルドへと入って行く。
カウンターでポーションを売り、奥の野郎共が待っている酒場へと向かう。
「姉さん!レモンなど持って酸っぱいモノが飲みたいだなんて!さては俺以外の男と一発やったん――」
「チェストおおおおッ!!」
変な事を言ってきたパワーの顔面にレモンがめり込んだ。
「変な事言うな。俺は誰のモノでもない」
一番奥の壁際の椅子、いつもの指定席へと向かう。
「ですよね~姉さんが男にまた――」
ドスッ! 「うぎゃああ!」
パワーの太ももにミスリルナイフが刺さっていた。
足を押えるパワーの側に行き、ナイフを抜き、ピッと振り払い刃に付いた血を振り払う。そして顔面に胸を押し当てながら1級ポーションを飲ませた。
速効で治って行く傷口。
伊達に1級ではないのだよパワー君。
「今宵のナイフは血を求めておるのぉ」
「女王様、まだ朝ですが」
ドチュッ! 「うげええ!」
隣のマッドの肩にナイフが立った!
椅子の後ろに回り顔面パイ挟みを行いながらナイフを抜き、1級ポーションを飲ませる。
「まだ血が足りないとこの剣だ叫ぶ」
「それってナイフじゃ」
「とお!」
プスッ! 「ほわあああ!」
並びにいたデカの腕を貫いた!
胸のカップの中に手を入れさせ、ナイフをドピュッと抜いて1級ポーションを飲ませる。
もみもみ もみもみ
「こらッ!誰が揉めと言った!」
「そんな殺生な!」
「今度はモーニングスターでド頭カチ割るど!」
「鉄の棒も持てなかったりして」
「でやぁ!」
ツプッ! 「ほあッ!」
隣のフルの眉間にナイフが刺さった!
「ちょッ不味った!まだ間に合う!」
シュパッとナイフを抜き、0級ポーションをぶっかけ、まろび出ていた片パイを顔面に押し付け、1級ポーションを飲ませる!
「ふがっ! ふががっ! イキ! イキ! 息がぁ! 息ができ…………うッ」
頭がガクッと落ちた!!
「間に合う!まだ間に合う!
咄嗟に唱えた事もない言葉が勝手に出た!
息を吹き返したフルは幸せそうな顔でニヤケ顔だった。
「「「「姉さん、今のポーションと魔法って」」」」
そこら中に集まっていた野郎共から一斉に視線を浴びる。
「てめえら黙っとらんかい!ケツから手突っ込んで顎ガタガタ言わすぞ!」
「「「「姉さんお願いします!!」」」」
そろってケツを出してきた!
「汚いケツを出すな!!」
今日も冒険者ギルドは平和だった。
「ええい!やけ食いだ!」
出払ったギルドで焼肉を頼み蒸留酒にレモンを絞ってレモ酎にする。
隣の椅子に座ったギンちゃんが尻尾をフリフリ焼けるのを待っていた。
「お前最近少しデカくなったな」
口角をニイッと上げ、いつまでも子供じゃないんですぜと言う顔をした。
「ならおっぱいに挟まれて寝るの禁止な」
「キューン」
それはあかんてッ!まだ子供ですぜと鳴いて来る。
「ったくッ!どいつもこいつもおっぱい!おっぱい!お前も飲むか?」
ドドンッ!とギンに出して見せるが、ぷいっと肉の方に視線が行き無視された。
「お前は花より団子か。それはそれで良いな」
二人で肉をもひもひ食っていく。
武器屋や防具屋、雑貨屋に魔道具屋にも足を運んだが、怪しく良い物は出ていなかった(怪しい物って)。
プラプラしながら子爵邸に帰ると、ニコニコ顔の子爵が待っていた。
「良い物が届いたぞ!」
「え?あっ!」
奥にある子爵の執務室へと連れて行かれた。
部屋に入ると真顔で正面から両肩を押えられた。
情熱的な感じに胸がドキドキバクバクする!
バサアッ!
深紅のローブを剥ぎ取られた!
「あんッ」
その真剣な表情にヨロヨロと後ろへと下がってしまう。
「あっ!」
後ろにあった仮眠用のベッドに当たり、そのまま後ろへと倒れてしまう。
ぽうんっと弾むベッド。
長い髪がファサッっと広がりタイトなスカートがずり上がってしまう。
「だめっ!汗かいたからッ!」
裾を手で隠し、見えないように隠す。
すっかり女の気持ちになっていた私は、そーっとハウンゼンの顔を見た。
(・。・)
「何をしてるんだ?こっちだよ。コレコレ!」
目が点になっていたハウンゼンは私の手を取り引き上げてくれた。
そして執務机に置かれていた一つの箱を開けた。
そこには深紅のローブが入っていた。
「え?だって今持ってるし!」
「アレは俺の前の妻に送ろうとしていた物だよ。これはハル、君に俺から送る物だ。受け取ってくれ」
「ハウンゼン……」
私は新品のローブを受け取った。
袖を通し、最上級の笑顔を振りまきながらクルッと回転して見せた。
「似合ってるよ。信じられない位に綺麗だ」
背後にあった姿見に自分を映して見ると、そこには思っていたよりも信じられない美人が幸せそうな顔で映っていた。
そして背中には黄色で書かれた……
「ハト?」
「ドラゴンだ!」
あっちゃー!
「西の大森林の先にあるロクナ山脈にいると言われているドラゴンだ。ドラゴンのように強く、孤高の存在でいられるようにと俺の軍旗にしたんだ」
俺の軍旗か。
壁を見ると確かに赤に黄色で描かれたハト……いや、ドラゴンが飾られていた。
それにもう一つ。
「緑のじゅうたんに赤丸は何?」
「大森林に太陽だ!」
うわちゃー!
「それはハルロードの領旗で、ドラゴンは俺の旗。つまりハウンゼンの御旗と言う事だ」
「え?って事は…………」
「ドラゴンの旗は俺、直轄!つまり俺のモノだ!誰にも旗は使わせておらん!」
ふううううううう!
顔が爆発しそうで真っ赤になって倒れてしまった。
目が覚めるとそこはいつもの私の部屋だった。
「お気づきですか?子爵様が運ばれて来たのですよ」
ベッドの横に居たのはピナだった。
「そお、悪い事をしたわ」
「いいえ、幸せそうな顔をしておられましたよ」
薄手の毛布を剥ぐと、少し期待したように裸では無かった。
昼間外に出た黒いタイトミニと胸元のざっくり開いたシャツそのままだった。
「新しいローブはドレッサーに掛けています。それでは夜も遅いですのでスープをお持ちします」
隣にはいつもの様にギンちゃんがスピ―スピ―を寝ていた。
「これが幸せ?これを望んでいたの?」
自問自答するが、これが正解なのかは分からなかった。
未だにドキドキする胸を不思議に思い、スープとパンをゆっくりと食べピナは下がって行った。
明かり窓の外は新月なのか、闇夜で暗いままだったが、心は何故か晴れていた。
「通れ!いつもより遅いぞ!」
「へえ、すみません。馬が突然死んだもんですから」
その頃、町の東門には閉まる寸前に1台の荷馬車が来ていた。
いつもは明るい時に来る定期的にくる見知った商人の馬車だったので、簡単な荷物検査を終えて町の中へと通した。
門番も早く帰りたいのだ。
いつも来る見知った顔と言う事で安心して通す。荷物は雑貨と食べ物などだ。馬一頭が死んだとなると儲けも全て吹っ飛ぶだろう。
だが、それは門番には関係無い。
早く切り上げて夜通し番をする夜勤へと申し送りをするだけだった。
だが、新月夜に高高度で飛ぶドラゴンには誰も気が付く事は無かった…………………………
好事魔多し
幸せは突然やって来るが、壊れるのも早いのだった。
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