第12話 ギルドマスター

◆◆◆ 第12話 ギルドマスター ◆◆◆



 空も心もどんよりしている。


ココは異世界、中世ヨーロッパのような、そうでもないような所。


朝から此処、子爵邸宅にはひっきりなしに馬車や馬が止まり、何かを手渡していた。

そして少し良い馬車からは綺麗な身なりをした男、又は男女が降りて来る。



 今日はこの町の領主であるハウンゼン・シュタイナー子爵の誕生日らしい。

36歳になるそうだ。もっと歳上かと思った。


そして今日はお祝いとして近隣から招かれた貴族や有力者が集まりダンスパーティーを行うらしい。


勝手にやってくれと思うんだが、俺にも参加するように言ってきた。



『ハル、これは領主命令だ。パーティーに参加するように。我が領地にいる美人薬師として紹介する予定だ』



結構前から決まっていたのだろう。

既にドレスは用意されていた。

奥さんの為に狩っていたモノではなく、俺のサイズで仕立てられた深紅のドレスだった。


背中は尻の割れ目上から見事に開いており、細い肩紐で前に来た布やレースを支えている。

胸は鋭いV字になっており、薔薇のレース生地がノーブラの先っぽを辛うじて隠している。

腰上まで切り込んだ両側のスリットは、ノーパンと言うのが丸わかりであり、光を当てられると透けていた。

ふんどしの様な前下がりと後ろ下がりがヒラヒラしていてどうも落ち着かない。

いっそのこと全裸で裸踊りかドジョウ掬いをした方が済々するってもんだ。



「これはどちらの奥方様でしょうか?失礼ながら貴女程の美人を忘れる訳が無いのですが」


「薬師のハルと言います。今は子爵様に保護されている身ですのよ。うッ」


「おおッ!貴女が薬師のハル殿ですか?!アスネル大陸広しと言えどもあなたの様な美しさは他には居ないでしょう」


「またご冗談のお上手なお方で。ぅえっ」


「どうかなされましたか?」


「いえ、少々気分が……」


「これはマズイですな。あちらで休まれてはどうでしょう。私が手を引いて差し上げますので」


「どうもすみません、このような晴れ舞台はなじみが無いモノですから。うぇ」


この30のおっさんは俺の手をベタベタと触り端の椅子へと連れて行く。

周りの男どもの執拗な視線を受けながら、イヤらしい顔をしていた。



椅子に座って執事から飲み物を渡されホッとする。

まさか自分の女言葉に酔ったなんて言える訳ないし。

男の精神が残っている以上、女言葉を使うと気持ち悪くなる。たまに俺の知らない所で出ているらしいが、そんな訳がないと思う。


「随分まいっているみたいだな」


オレンジジュースの中に蒸留酒を入れたカクテルを飲んでいると子爵がやって来て肩に手を乗せて来た。


「見世物じゃないっすか。キツイっすよ」


「たまにはその美貌とみっちみちの身体を見せびらかすのも悪くないだろ」


そう言って肩のヒモをずり降ろそうとしている。


「下げんなって、乳が出るだろ。見られるのは慣れたし、気持ちも悪く無いが、いかせん、女言葉が慣れないと言うか……」



俺の事は既に全て話してあった。異世界から転移し、神の加護を受けている事。魔法で回復を唱えられ、ポーションを錬金術や薬作りの様な手順を踏まずに速効で出せる事など。

元々男と何度言っても、今は女だと言って聞かない事も相変わらずだった。


「その内慣れるさ。今日は退屈だろうから俺の友達……いや、貴族としての寄親を紹介するよ」


気配を消していたのか、シュタイナー子爵の後ろから少し背の低い、と言ってもハイヒールを履いた俺より少し高い口髭を生やしたナイスミドルのイカしたおっさんが出て来た。



「ご紹介されたハウンゼン子爵の寄親であるエリアス・クラウザー伯爵です。以後お見知りおきを」


クラウザーと言った伯爵は、右手を前に出してきた。

挨拶かと思い、その手の上に俺の手を置く。

すると伯爵は、片膝を着き、丁寧に俺の手を口元に合わせ、ベロベロベロベロと舐めだした!


「うひぁっ!」


「何とも甘くて濃厚な味わい。万歳して脇も舐めたい所だがここではやめておこう」


「ちょっ!子爵!この男は!」


即座に一歩下がって子爵の腹に肘をぶつける!


「ああ、俺の寄親でありながらも幼少の頃より仲良く遊んだダチさ。戦場では相手が居なくなる事から荒野のエリアスと呼ばれてたんだ。レディントン国のツートップさ。さあエリアス今だ!」


子爵は俺を後ろから羽交い絞めにした!


「うほほほっ!これや!これや!もう堪らん!ふがふがふがッ」


俺のスッケスケの乳の間に顔を置き、両手でバインバインと顔を挟んで喜んでいる!


「あッ!ちょッ!先っぽを指で挟むな!」


「うほほほ~ケツもむっちむちブリンブリンやでッ!これはなんぼでもややこを埋めれるわ!ぶははははッ!」


スリットから手を入れて生ケツをぐにんぐにんと揉みまくる伯爵!


「ちょっとッ!止めッ!あっ ダメッ!見てる!みんな見てるって!」


二人の連携プレーに好き勝手し放題に触られまくるが、神様は見捨てていなかった。



「貴方!そこで何をしているの!?」


「カサンドラ!お前は反対側でッ!」


「話なんかずっとしてる?話題の薬師がいるのよ、貴方が来る事は分かってたわよ。さあ、それだけ力が余ってるのなら次の子供の話でもしましょうか」


「いてててて、ちょっと!少しどんな人が見てみたかっただけだって!」


伯爵は耳を摘ままれ連れて行かれてしまった。


「ハウンゼン、貴方も後で話があるからね」


「うひッ!」



もみもみ


「ついでに触るなッ!」


ヒールで足を踏んだんだが、待ったく堪えておらず、柔肌を堪能した子爵は話だした。



「いやあ現実に戻ったよ。ハルのおっぱいのお陰だ。助かったよ」


「って言うか、後で話があるって……」


「カサンドラか、まあ、俺達の幼馴染なんだが、行動はバレてる。パーティーの終わった後で俺の部屋に特攻してくるはずだ。それまでにズラかるさ!」


子爵は他の所へ歩きながら後ろにいる俺に手を振っていた。



「どうだ?飲むか?」


子爵がいなくなると直ぐに一人の大男が声を掛けて来た。

子爵がゴリラ体形ならこちらはクマだ!

顔の下半分を髭に覆われ、身体はデカく胸板も厚い。

正装がドレスコードとなっているはずだが、ワイシャツの首に巻いたネクタイは外し、袖も捲り上げて丸太のような腕を見せていた。


「あら?初めましてかしら?正装を気にしないお方って……逞しいのね」


「余所行きの言葉はしなくても良い。いつも話す言葉でいいぞ」


「…………誰だよてめえは」


「へへっ、やっぱりこっちが地だよな。妙に女言葉を聞くと虫唾が走るわ、クリムゾン。冒険者ギルドのマスターだ」


「へ?ギルドマスター?」


「ああ、上に隠し窓があってな、そこから様子が見られるんだ」


「流石は野郎共の巣窟。スケベ男のたまり場だぜ」


「まあ、そう言うな。手下のように野郎共を扱ってるくせに。ちょいとあっちに行こうか」


俺らはテーブルを回っていたギャルソンからゴブレットを取り、窓際の横に立って乾杯した。



「ギルドには稼がせてもらってるぜ」


「ああ、それはギルドも同じだ。もっと納品してもいいんだぜ、あのマジックバックには幾らでも入るんだろ、そこそこ無尽蔵によ」


「……てめえ、何処まで知ってんだ?」


平然としているギルドマスターを見上げた。

俺を試しているのか?



「何回か騒ぎを犯した時、バックじゃなくて手からポーションを出しただろ。あの時偶々見ていたんだが、おりゃぁ魔法だろ」


「分かってんなら聞くなよ」


「一応確かめとかないとな。この事を知っている奴はいるのか?」


「子爵とジャスティスの四人だけだ」


「ジャステ……ああ、古参の奴らか。まあ、他には話さないだろうが、お前、気を付けろよ。魔法でポーションを作れるたぁ聞いた事がねえ。しかも初めの頃に一本だけだが4級を保存しといたんだが、鑑定じゃ4級+までしか出て来ねえがよ。普通2週間ほどで効果が低下していくポーションが1ヵ月立っても変わってねえ。この事がバレたらお前、拉致誰るか殺されるぞ」


「何でだ?」


「馬鹿言うな。考えてもみろ、2週間でダメになるポーションがずっと生き続けてるんだぞ、今まで売れなくて破棄していた奴らはお前のポーションを買うと、破棄する分が無くなるんだ。それに買う奴らは冒険者ばかりじゃねえ、商人から貴族、騎士団もいる。買っても使わなければ補充していた奴らは使うまで買う必要が無くなるんだぞ」


「あ、そうか」


「お前、商業ギルドへは行った事があるのか?」


「この町に来て直ぐに。4と3を20本づつ売ったかな?」


「お前、商業ギルドから目を付けられてるぞ」


「じゃあ以前ジャスティスと一緒に狙われた事は……」


「間違いないだろうが、まず商業ギルドの手先か、裏の奴らに依頼したかだろう。こちらとしても調べてはみたが何の手がかりも無かった。気を付けろ、まだあいつらはやって来るぞ。いいか、顔を動かさずに少しだけ視線で見るんだ、出入り口で話している集団の中に一人だけ老人がいるだろ」


「白い髭を生やした?」


顔を動かさずに視線だけで出入り口付近を見ると5人ぐらいの集団の中に一人だけ歳よりがいた。顎髭を生やした背の小さい老人だ


「それが商業ギルドのマスターだ」


「へー今から行ってブッ飛ばそうか?」


「止めとけ、証拠も無い、力も無い、国外逃亡も出来ない、今度は表立って討伐依頼を出して来るだけだ」



「国外にも商業ギルドはあるってか?」


「ああ、冒険者ギルドのある所には商業ギルドもある。いいか?深入りせずに証拠を集めろ。狙われたら反撃して殺しても構わん。もっと力を付けて生き延びる力を付けるんだ」


「……何故俺を助けてくれるんだ?」


「決まってるだろ……」


俺の身体か?まさか一発……


「ギルドがもうかりゃ、俺の給料も増えるのさ」


「あ、そう言う事ね。分かった、一応気を付けとく、これからもギルドに納品はするから、もし他の場所へ行っても情報とか助けを頼むな」


「任せろ、冒険者ギルドで守ってやる。だがしかしなぁ……」


「ん?なんだ?」


「そんなスッケスケで恥ずかしくないのか?」


「うるせえ、もう慣れたわ」



はあ、オエのスローライフ。

いつになったら完成するんだろうか…………

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