第9話 ペストル

◆◆◆ 第9話 ペストル ◆◆◆



 このハルの襲われた事はギルドへ報告された。

誰を狙っていたかも分からず、調査隊が出向いた所にあったのは、切られた男だけであった。

身分となる物も持っておらず、手がかりは魔法使いを含む5人の男と言うだけであった。


 魔法使いは数が少なく、全体の30%程度しか魔法を使えない。

その中で攻撃や守りなどの実用的な威力を出せれるのは全体の20%余り、賢者や魔導士、攻撃魔法の上級になれるのは全体の5%程度。100人に5人程度であった。

その僅かな数の魔法使いの行方や名前なども分からなかった。


「多分裏の組織なんだろう。あの服を着て行って良かったな」


当然、滞在している子爵の所にもこの話は伝わっており、その子爵は普段着のワンピースに着替えさせたハルの身体をペタペタもにゅもにゅと触って確かめていた。


「ちょっ むっ そんなっ かくにんんッ! 必要ないんじゃあッ!」


「いいや、魔法もポーションも効かない極悪非道の呪いが込められた魔法かもしれんからな!肉の隅々から皺やヒダの一本一本まで!」


ふわりとしたワンピースの中に頭を突っ込み、ほぼ目を、顔を肌に付けた子爵がワンピースの中で舐めるようにガン見していた。


「ほら手を離しなさい。肝心な先っぽが見えぬであろう」


「此処は自分で確認しましたからッ!」


男だったら一切気にしなかった所だが、此処だけは見せたらダメだと言う気がする。ポッチや着替えを除かれるのはまだ良いとして(いいのか?)、この距離では危険だと本能が俺に警笛を鳴らしていた。


「では後ろじゃ!」


「うおッ!」

ベッドに押された俺はワンピースを捲り上げられ、背をマクロで見られていく。


「なんとスベスベな素肌じゃ!うぶ毛すら生えとらんとは!」


ダラダラと暖かい液体が背中から腰へと流れていく。


「ちょッ!何か零してないですか!?暖かい液体がヌルヌルと来てる感がすッするぅッ!」


ローションみたいなモノが塗り広げられ、敏感な腰に手が当てられ、腰を上に持ち上げられる。


「ぬおおおッ!この皺は何という事だ!」


「しッしわあ?!」


「くしゃい所のはずが濃厚なローズの香りがするとは!さてはハルよ、お主誘っておるな!けしからん!このおいしん棒でッ!――――」


子爵が固まった。


後ろを向くとそこには子爵の二人の子供がドアの隙間から覗いていた。


「ごほんっ! ああ、打ち身やケガは無いようだね。これもあの服があったお陰、新しいのも発注済みだから楽しみにしたまえ」


「はい、閣下。ありがとうございました」


見ていない振りをしながらドアを開けた。

此処は子爵の職務室。仮眠する時の為に簡易ベッドがあるのだ。

危ない危ない、流される所だった。


「あら?お嬢様に殿下。いらっしゃったのですか?」


「痛い事された?」

「痛い痛いされたの?」


長子が長女10歳のエマ、嫡男である長男が5歳のフリードリヒだ。


「心配ないぞ、お父様が見てくれたからね」


「ボクもお医者さんするぅ!」

「私は看護師さん!」


「あっちあっち!」



 子供部屋にそのまま拉致られてお医者さんゴッコをするのであった。

背中からお尻に掛けてヌルヌルのベタベタな液体が付いていて、少しヒヤリとするが、涎じゃないだろう。歓喜の涙だと思いたかった……


まあ、そこでも色々と触られ、俺が歓喜の声を押えながら、口に指を咥えて我慢する事になるのだが。


ああ、子供って可愛くて残酷。



 色々とあちこちが湿っていたので、昼間っからお風呂へと入った。

元々裸みたいな恰好だったので、あっと言う間にスッポンポンになり、肩にタオルを掲げて中へと入る。


「お手伝い致します」


いつも空気のようにメイドのピナだ。

慣れとは恐ろしいモノで、今やメイドがいても平気で屁をコケる。


「ふい~最高~」


「痒い所はございませんか?」


「ん~尻の穴」


適当に言って見ると、本当に皺の一本一本まで指で洗いだした。


「んもっ!もういいってっ」


「いいぇ、まだ洗い出したばかりでございます」


「そこッび、敏感だからッんッ!」


「だからこそお綺麗に洗わないと」


「だッ!だからッもッもうじゅうぶッんっではッ!」


「だって前かがみになって、もっと洗って欲しいんですよね。洗ってるだけですけど、可愛いんだからハルさまって」


「だから力がッ!あッちからがああぁぁぁぁ」




ふースッキリした。何か毎回こんな事をしてるなぁ。

髪も綺麗に洗われ、身も心もスッキリした俺は昼前と言うのに町へと繰り出した。


あんな事があって子爵への報告もあり、朝ギルドへ行かなかったから、みんなポーション無しで行ったんだろうな。


「よ!少し遅くなっちまったが今日も売りに来たぜ」


「冒険者は出てしまいましたよ」


「まあ、良いって事よ、今日は4級30本に3級30本、そして2級を20本持って来たぜ」


「に!2級も!!」


そんなに驚くことか?


「たまにはと思ってな、今日は特別サービスだ」


昨日焼肉を四人に奮発したからな。手持ちが少ないってのもあるが……部屋にはもっとあるんだが、あの重さはクセになるよな。


俺は銀貨で245枚を売り上げギルドの酒場で昼前の軽い昼食を摂った。

ギンちゃんの好きなサーロインとカルビとレバー焼きを頼み、俺は先に頼んだレモンを蒸留酒に絞り入れ、奮発して1級ポーションで薄める。


「ぷは~昼間っから飲んでる奴!俺か!」


前世じゃ考えられないスローライフ。

女っ気は未だに一切無いが、何かそれでも楽しく過ごせている。

洗ったばかりの髪に肉の焼ける匂いが染み付くが、してきする奴なんか一切いない。むしろ良い香りと何故か言われる。

今日は外に出るつもりも無かったので、子爵の新作である白いワンピースのキャミソールをノーブラで着こみ、少し細目のコルセットをベルト代わりに付け、リラックスモードで軽く頭にアルコールを入れる。


いつものようにギンちゃんの顔を胸で挟み、町を散歩する。

腹は膨れているので、南の宿屋街を通り抜け東エリアへとフラフラ行く。


「よお、久しぶりじゃねえか。良いモノ入ってるぜ」


知らない内に武器屋のおっさんの扉を開いていた。


「あんたのナイフ……役に立ってるぜ。あの小ささに鋭い切れ味。頭の骨なんか軽く突き抜けたぜ」


「へへ、そりゃあ俺が吟味した代物さ。小さいのが好みだったな。見て行くかい?」


「もちろん、変なモノだったら承知しねーぞ」


「まあ見てみな」


おっさんはカウンターの下からナイフなどを次々に出してきた。

(そこに何があるんだ)


「アマダンタイトのナイフにダマスカス鋼のナイフ……」


「おい、変わってねえじゃねえか」


「待て待て、これからが本番さ。ドラゴンの鱗で作った半透明のナイフだ。やっと手に入ったぜ、大金貨で5枚ってとこか」


「良いモノ隠してんじゃねえか。まだあんだろ」


「ああ、ステッキの隠し刀に後は珍しいチャクラムの自動発射機なんて物があるが、見るか?」


「当たり前田のクラッカーだろ」


「ん?あ、ああこれだ。チャクラムは超小型だけどな、このペストルと言う機械で発射するんだと」


「聞いた事あるぜ。ペストルだろ。ズドンと出るんだよな」


「ああ、小型の魔石が必要だけどな。ずっと北にある国から渡って来たぜ。今ならチャクラムの代え刃を200本と魔石5個を付けて大金貨1枚でどうだ?」


「えらい安いじゃねえか、不良品は困るぜ」


「ちと癖があってな、斜め上に向けるとチャクラムが帰って来るんだと。真っすぐ前にむけなくちゃいけねえ危ない奴さ」


「良いねぇ。俺にそっくりだぜ。ドラゴンナイフとこのペストル。1級ポーション20本でどうだ?」


「何ぃ?に、20本だと?売ったあ!」




へへへ、これでえ強さ倍増。左にはミスリルナイフ。右にはドラゴンナイフ、右の太ももの付け根にはペストル。ハーネスやベルトはサービスだってよ。儲けたな。


「じゃあなクリムゾンの姉さん。また待ってるぜ」


「期待すんなよ。俺は忙しいんだぜ」



俺はうっきうきで店を出た。

たまには足を延ばして見るもんだな。


みんなも分かっていると思うが、新しいオモチャを手に入れたらどうする?

やっぱり弄って見たくなるのが男ってもんだろ。


俺はその足で東門まで行き、子爵の名前を出して城壁の上に上がらせてもらった。

有事の際は、定期的に見回りをするらしいが、今は誰も居ない。草原に一本道が見えているだけだ。少し風があるが、問題無いだろう。


俺はスカートの中に手を入れ、ペストルを握って前に構える。


「ターゲットスコープオン!発射準備オッケー!狙いは地平線の彼方!う~~~~撃てええ!」


タンッ!


オートマチック型のペストルから5cm近いチャクラムが撃ち出される!

反動で銃口が上にあがり斜めに撃ってしまった!


「お――全く見えない、ギンちゃん見えるか?」


「ワフッ?」


俺の足元で頭を傾げていた。

狼と言えども見えないのか……



キランッ



上空で何かしらが光った気がした。

イヤな気がして右半身に斜に構えた瞬間ッ!


シャッ  ドシュッ!


「あッ!」「キャウッ」


上空から戻って来たチャクラムは俺の左頬を掠め、ギンの尻尾の毛を数本切り取り石作りの床に突き刺さっていた!


たらーっと流れる血を見て俺はビックリし、ギンちゃんも俺の足に抱き着きビックリ(゚д゚)!した表情になっていた。


「ビックヒール!ビックヒール!0級ポーション出ろ!出ろ!」


瞬時にヒールで傷を癒し、ポーションを一気飲みし、ミルクを与えるようにすると、ギンちゃんもゴクゴク飲んでいた。


「これは危ない。イザと言う時じゃないと駄目だ」


この瞬間、俺の中で見せかけだけの武器になった。




東門の兵に風が気持ち良かったわとお礼を言い、城壁上から戦略的撤退をした。

よっぽど怖かったのか、ギンちゃんは安全地帯である胸の谷間で顔を挟まれて伸びていた。


ペストルを捨てるのはもったいないので、カッコ良さだけで太ももには付けておこう。

そう思うのであった。

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