第8話 異変 

◆◆◆ 第8話 異変 ◆◆◆



 いつものように冒険者ギルドでポーションを収め、野郎共に個人売買で売りまくる。

買いたい物はある程度買った為、最近では飲み食い代しか掛からず、お金が溜まって行く。


「おいマッド!今日軽く外に連れていけ」


俺はお得意様のマッドに言った。

使わないポーションを毎日1本は買ってくれる奴だ。その代わりに仕事終わりに4級ポーションで治してあげるのだから半値しか儲けはないんだが。


「え?王女様も行くんすか?俺は良いっすけど」


「フル、デカ、パワー。良いだろ」


俺はマッドのパーティー仲間である他の三人に聞いてみた。ちなみに名前は俺が勝手に付けた。


「まあ良いっすけど」

「おおおお俺も!」

「ぜひぜひ!」


こうして俺はマッドのいる、ジャスティスと言うパーティーに臨時で入った。

一応このハルロード領ではトップクラスのパーティーだと言う事は聞いて分かっていた。

この臨時の代金は現物支給という事で了解を得た。2級までなら出してあげても良いと思っていた。


辻馬車で町を出て西門から外へと出る。

500mも進むと大森林が、俺の冒険活劇が待っている!

興奮して武者震いが出るぜ!



「姉さん、小便我慢してるんすか?我慢は身体に悪いっすよ」


「違うし!ギルドでやって来たし!外に出る時の基本だろ!」


余計な心配するなッ!


ガスガスガス!


土の上にピンヒールを踏み込み穴を開けていく。


「それじゃあ先に進むっすよ」


「オッケー、回復は任せとけ!」



飛び出て来た角ウサギを軽く剣でぶった切る。

ザコゴブリンを一瞬で首チョンし、討伐部位の耳を削ぎ取る。


森に入ると出て来るコボルト集団を訳も無く纏めて切り倒す。


一応真剣にはやっているんだろうが、無駄口を言いながら軽く相手をしているようだった。

俺もそこら辺に落ちている枝を手に取り「前進!」「敵発見!」「囲まれるぞ!索敵!弾幕薄いぞ!」などと言って見るが、仲間が動き出した後で言っていた為、全く無駄であった。



「流石は女王様。指示が的確でさぁ」


「世事は良い。言ってみたかっただけだ」


「そろそろ大型のモノが出てきますぜ。注意して行きやすぜ」


「う、うん」



慎重に進みだすパーティー。

だが、そんな言葉とは裏腹に、巨大な魔物は出て来る事は無く、湧いて出て来るゴブリンしか出て来る事は無かった。



「おっかしいな~デカくて美味しい奴らは何処にいったんだ?」

「此処はいつもの狩り場だからな。誰かが先に狩ったんじゃ」

「台車に乗せられる量は限られている。そんなに多くの量は狩れないはずだ」


「イヤな予感がする、帰るぞ!」


弩級のマゾの癖に頼りになる奴だ。一緒に付いて来ていたギンちゃんを抱っこし、パワーが普通の人と変わらくなった足で警戒をしながら帰る一味に付いていった。

帰ってから顔面騎乗でもしてやるか。



キンッ!


「誰だ!」


先頭をゆくフルプレートのタンク役であるフルちゃんが剣で何かを弾いた!

あんなスリットからよく見えるもんだ。


一気に警戒がマックスになり、俺に背を向けた四人が索敵を行う!

だが、もう少しで森を抜けるのだが、敵の姿は見えなかった。

俺もフードを被り、攻撃に備えた。


キンッ! キンッキンッキンッ!


一斉に連続して矢が撃ち込まれてくる。それを剣やシールドで弾くジャスティス!


ザザザッと草むらが靡き、全身真っ黒の服を着た小柄な奴が上段に構えた剣を振りかぶって出て来た!


「チェスト!!」


剣を弾き飛ばす勢いでマッドが横凪ぎに剣を振る!

軽く剣を合わせた男はしゃがみ込み、足を狙って斬り掛かるが、逆袈裟懸けで斬り下ろして来るマッドの剣を裂けるように後退する!



『雷神より我へ、その力を此処に示せ!雷電!』


ブツブツと何かを唱える声が聞こえた!

その瞬間、俺の抱きかかえたパワーが走りだす!


「魔法使いが居る!気を付けろ!」


直後、元居た所にズダーン!と雷が落ちる!

他の三人も寸前の所を抜け出しているが、その隙に再度同じような男達が斬り掛かって来た!

パワーも余り離れる事無く仲間の側で襲い掛かる敵を一蹴する!


「対人戦に慣れてやがる!スミス!」

「応! ぬおおおおおおお!」


大声を出したフルがシールドを叩き着け一人を跳ね飛ばしながら剣を振り回す!

怯んだ隙にデカが腕に装着していた投擲ナイフを投げつけた!


「ウグッ」


喉に刺さった黒いナイフを投げ捨て血を流しながら後退する!


「後二人ぃ!」


マッドが俺たちの背後に駆け寄りパワーの背中を足場に上空へと飛んだ!

その瞬間!視線を離した男にパワーが長剣を突き刺し、怯んだ隙にマッドが首を斬り撥ねた!


2対1となったフルとデカが男の腕を斬り、逃げる敵を追う!


「戻れ!!深追いするな!」



『雷神より我へ、暗黒の天より漆黒のダミアンの雷を振らし、その存在を知らしめろ。爆雷!』


「散開!!」


剣戟で余り聞こえなかった声に反応が送れ、僅かにパワーが俺を抱えて裂けた時、真横に暴力的な雷が落ち、その場が真っ白に爆発する!!


「ぐあああ!」

「うがああ!」

俺とパワー、そして近くに居たマッドが直撃を避けるが、爆発の余波を受けて跳ね飛ばされた!


近寄っていたデカとフルも直撃を避けたが裂けた木々がブチ当たり飛ばされていく。

もちろん俺も飛ばされた先で背中を木に打ち付け意識を失ってしまった。



◆◆◆



「手ごわい……こんなの聞いてないぞ」


男は血の滴る腕を振り、ポーションを飲み干すが、肉が少し盛り上がるだけで腕はも御tに戻らない。



「一人がやられ、二人が重傷と怪我。金額に合わない依頼だ」


「すまん、連携にやられた」


そう言う男は腰に付けていたバックからポーションを少し喉にぶっかけ、残りを飲み干す。

すると傷が消えるように無くなって行く。


「気を失っているだけだ、サッサと依頼を遂行するぞ」


黒いローブを着ていた魔法使いらしき男が言うと、喉をやられていた男が剣を持ち飛ばされた赤いローブの人へと歩いて行く。



コンっ



「んッ!こ、これは結界!」


男が後ろへと跳ね下がる!


すると一気に空気が一変した。



「何だ!この圧力プレッシャーは!」

「凄まじい魔力の嵐だ!誰かいるぞ!」

「誰だ!!」


すると赤いローブの女が仰向けに倒れていたそのままの状態で上に浮かび出す。

視線の位置まで浮かび上がると、そのままの状態で前へと起き上がりだした。



ギンッ!!


目を開くと更なる圧力が男どもに襲い掛かる!



「チッ!て、撤退する!」


魔法使いが逃げると言うが、そこにも結界が張られているのか、何処に行ってもその周り5m程から逃げられないでいた。



『我はタレぞ。知らぬが神と言うが、触らなければ起きる事も無かっただろうに』


銀髪の髪の毛がふわりと持ち上がりながら話しだす。その声は確かに甲高いハルの声、そのものだった。



「誰だ!?」


『名乗る名前を教えてもこの世に残る事も出来ぬだろう。輪廻の深淵アビス深紅しんくの業火に焼かれるがいい。さあ選べ!赤、青、緑、茶、黄、紫、光、漆黒、白、赤黒!生き延びれば更なる飛躍が待っておろう!失敗すれば深淵アビスで一からやり直すがよい!』


両手を軽く先へと出す。

その指先からは色とりどりのオーラの様なモノが立ち込めていた。



「ひぃ!」


一人の男が腰を抜かす!

その圧倒的で人間離れした魔力の渦にズボンを濡らし結界を背に当てながらも必死に後ずさりしようとしていた。



『さて、ひぃとな。ああ、ひ、火の事か。久しぶりの現世。言葉が分からぬであろう、精進しなさい』



その瞬間!男達の結界の中に太陽が現れた!!



「「「ぐぎゃああぁぁ」」」


真っ赤な燃え上がる火が一瞬で男達を燃やし尽くしていく。

その燃えカスの塵までを超高音で燃やし尽くしていた。



『世話が焼けるのお、こいつも。お前も早よぉ大きく成る事だ』



それだけ言い残すとゆっくりと再び仰向けに倒れだした。


そして平穏が訪れ鳥や虫の鳴き声も聞こえないシーンとした空気に戻った。



暫くすると一人の男が目を覚ます。

マッドだった。


身体を動かずに周りを警戒すると、大丈夫と思ったのかゆっくりと身体を起こした。

耳を集中させ、近くに誰も居ないと思ったのか起きて皆を起こしに掛かる。


「おい!大丈夫か!起きろ!」

「怪我はないか!」

「目を覚ませ!」

「姉さん!怪我は無いっすか!」


次々に起きていく面々。

最後にハルが目を開ける。一緒に飛ばされていたギンが顔をペロペロと舐めていた。


「あれ?死んで無かった。敵は?」


「何処かに言ったみたいっす。俺が起きた時は誰も」


「ふーん。あ痛ててて。大回復ビックヒール。お前達も掛けてやるよ範囲回復エリアヒール!」


「え?」

「あれ?」

「おお!」

「うそーん!」


「姉さん魔法使えたんっすか!」


白い球が広がり、範囲内に居た野郎共の傷や体力を回復させる!



「黙っとけよ。誰も知らないんだから。あーあ。残ねん、帰って肉でも食うか!」


「お供しますぜ!」

「気分が削がれたんで俺も御一緒に!」

「肉食います!」

「うーん、好き!」


ギンちゃんを抱えたハルは、1級ポーションを出すとギンに飲ませ出す。


「それ!何か色が違うんですけど!」

「いつも持ってるマジックバックが無い!」

「マジックバックが無いのに何で!」

「それって滅多に目にする事が無い超高級品!」


「うっせーな。これも黙っとけよ。黙っていたら顔面騎乗してやるからな」


「「「「了解です!!」」」」



「待ったく、変態ばかりだぜ!」


(それは姉さんだけっす)


小声がハルに届く事も無く、一同は助かったと思い、町へと歩き出すのであった。

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