第7話 クランと装備

◆◆◆ 第7話 クランと装備 ◆◆◆



 それから3週間が経ち、俺はこの町に慣れていた。

朝になると冒険者ギルドへ行き、カウンターでポーションを売る。

その後、直接販売を待っているやからにポーションを売りまくる。


 その後は町の中で飲み食いの店を駆けまわり、女性下着や服売り場に入る勇気も無く横目で通り過ぎ、新しいモノを探してワンコと散歩する日課だ。


 たまに夕方になると野郎共と焼肉やエールで飲み騒ぎ、次の日に二日酔いになり4級ポーションで治していた。


 女にモテる事は無いが、気兼ねの要らない男とバカ騒ぎをするのが楽しくてしょうがなかった。



 その頃にはポーションの姉さんとか、女王様とか、何処から聞いたのか一度だけ名乗ったクリムゾンとか言われるようになっていた。



モテないのは残念だが、女である武器を使うのはやはり有効だと思い、最近では化粧をするのを勉強しだしていた。



 昼過ぎの閑散としたギルド酒場で、買ってきた化粧品を一人練習する。

酒場で頼んだ蒸留酒に3級ポーションを入れ、買っていたレモンらしき物をナイフで切って絞り入れる。


自作のレモン酎ハイモドキを飲みながら買った小さい鏡を前に、口紅をプルプル震えながら塗って行く。


「やだあハルさん震えながら何してんですか!」


バン!


「フガッ! ふぁにすんだ何すんだ!」


背中を叩かれ、反動で鼻に口紅が入ってしまった。


「ぎゃはははははッ!ハルさん最高!何それ!」


にゅぽっと口紅を抜き文句を言う。


「ミランダが背中を押したからだろ!仕事をしろ!し・ご・と!」


ハンカチをバックから出し、指に絡ませて鼻を穿ほじる。


「超美人の割に仕草が男っぽいのよね~その仕草や言葉使いも」


「生まれつきだ、そう簡単には直せん」


「古参の冒険者から人気が出るわよね~儲けもあるけどお金使いは荒いし、際どい服装や下着が見えた所で気にしない所も」


「服は子爵の好みだ。俺は一切買ってない」


この時になると、俺が子爵の客人であり、寝泊まりしている事は冒険者中に知れ渡っていた。

誰かストーカーしたのか?

そして今日は何処から買ってきたのか、オールインワンのレオタードの様な超ハイレグの下着と服が一緒になった様な奴に、フリルのスカートを穿いていた。腰上まで切れ上がった服が腰骨を露わにしており、どういう風に食い込んでるのかと野郎共が俺を朝から視姦しやがった代物だ。服は服でノーブラポッチ丸出しは良いとして(いいのか?)、キツイサイズで胸が半分は放り出されている。


「子爵の後妻になったら?」


「そう言う趣味は無い」


女に股を開いてもいないのに、男に股を開く趣味はないのだ、ぶははは。


「ほれ焼けたぞ」


太ももの上で待っているワンコ、名付けてギンちゃんにミノタウロスのタン塩をフーフーして食べさせる。

にゃんにゃんにゃんやんとよく噛んで食べる。

余り吠えもせず、良く食べよく飲み、良く寝る。

少し大きくなった気もするが、気のせいだろう。


「このシルバーウルフも懐いてるし、羨ましいわ」


「だって助けたの俺だぜ。懐くわな」


「此処の冒険者達も慣れて……と言うか今や信者か家来よね。パーティーで集団を作ってクランを作る話も出てるわよ」


「へークランね~」


俺もタン塩を頬張り食べてレモン酎ハイで流し込む。


「へーって、クランの頭はハルさんよ」


「俺って何も出来ないぜ。外に出たら一瞬で死んじゃうわ!うん、これは自信があるな」


「だから鉄壁の守りを作って、負傷者をバンバン直しながら進む作戦を練ってるわよ」


「へーそれならいいんじゃないか?俺は一切戦闘に関わらないなら」


「おっ言いましたね女王様!」


いきなり男の声が聞こえた。


後ろを振り向くと、両肩から皮ベルトをたすき掛けしたマッド野郎が立っていた。


「何だマッドか、ずいぶん早い期間じゃねえか」


「俺マッドじゃないんすけど、まあ良いっすわ。今日は大物が取れたんで早く帰って来たんすわ。でもクラン設立良いっすねマジでやりますよ」


「言っとくが俺は体力が全くないからな。って言うかまたお前ポーション使ってねえな!傷だらけじゃねえか!」


「おっ頼んます!もったいなくて使えないんすよ~」


「使えないって、普通ポーションは2~3週間で劣化するだろっ!それまでに使えよ!ほら、ここに座れって!」


椅子の横にしゃがんだマッドの首に足を絡め、柔らかい太ももとふくらはぎで挟み込む。

そして4級ポーションを出して軽く口に含むと…………


ブゥッ――――!


必殺ポーション霧殺法!

口に含んだポーションを霧吹きのように患部に吹き掛ける!


「あはッ!あッ!あッ!あッあ!」


幸せな顔をしているマッド。

そしてもう一度口に含み……


「んばぁ~」


口に含んだポーションをガバッと開いた口から垂れ流しで顔面に垂らした。


「あうッ!あへッ!あいんッ!んほッ!ああ!幸せッ!」


下を伸ばして恍惚な表情でピクピク痙攣しながら崩れ落ちるマッド。



「そりゃあ女王様って呼ばれるわ」


「そこら辺に転がしといて、暫く起きないから」


前を(どこだ?)こんもりと盛り上がらせてあちら側へとイッてしまった。

弩級のマゾには一番効く薬だな。


以前の俺からすると、屈強の男を手玉に取る面白さがあった。

弱いなら弱い成りに出来る事があるのだ。


はみ出していた口紅をハンカチで拭いて、整った顔を見て残っタン塩を焼いていく。

待っていたギンちゃんとタンを分けながら食べる遅い昼食だった。



 昼から雲行きが怪しくなり出したので、部屋に戻る事にした。


辻馬車に乗り、町中央の子爵まで行かせる。


すっかり顔なじみになった門兵にお土産の饅頭を渡し、自分の部屋でギンちゃんの躾けとお手、お座りを覚えさせるのであった。



◆◇◆



「ギルドマスター、最近変な注文があるんですが」


 商業ギルドの三階にあるギルドマスターにサブマスターが一日の報告を兼ねて変な注文が幾つかある事を報告していた。


「何だ?」


「はい、長持ちするポーションがあるはずだと言われ、その長持ちするポーションだけ売ってくれと言っています」


「何かの間違いじゃないのか?」


「いえ、この町と隣のノルド領を往復している商会が此処で買ったポーションらしいんですが、向こうに着いても劣化していなかったらしいのです」


「ランクと本数は?」


「3級5本と4級5本です。出立する前に必ずうちのギルドで買ってから出ている事は確認してます」


「商会なら3級と4級なら使い捨てでも損はないだろ。」


「積み重なると結構なお金になるとの事で」


 商会などで待ちを離れる場合は冒険者を雇い、護衛をすしながら旅をするが、その際に万が一を考えポーションを買う場合がある。

もちろん余裕がある場合などだが、3級を5本買うと金貨1枚にはなる。

2週間で効果がなくなる為に使い捨てになるのだが、使わなくても劣化してダメになってしまう為、毎回買い込むとそれなりの出費になるのだった。



「ふーむ。買った日を特定できるか?」


「出立の日は分かっています。それから1日2日で買い取った者を調べられるかどうか」


「やれ。探し出せ。問題になるぞ」


「分かりました。探しだします」



サブマスターはその場を去っていく。

それもそうだ。劣化しないポーションならば、使わなければずっと保存が効く事になる。

劣化するから定期的に買わないといけないのだ。したがって商業ギルド的には劣化しないポーションは要らないのだ。


「誰だ、そんなモノを持ち込んだ奴は……」


ギルドマスターは少し考えると手紙を書き出した。

それは誰にも知られる訳にはいかず、密かに配達されていった……




◇◇◇



「だから汚ねえケツを押し付けるなって!俺が潰れるだろ!」


「だって姉さん細くて分からないっすよ!」


「見るんじゃない!感じるんだ!」


うん決まった!



「何すか?それ」



誰も分かっちゃいなかった。

夕闇迫る冒険者ギルド裏で、十数人が集まって何やら行っていた。

通常武器の試し打ちや練習試合を行い広場だが、今回は古参が集まりクランを創立した際のフォーメーションを確認するとの事で集まっていた。


 先ずは俺が立っている所に前後左右四人が壁になって歩く。当然武器も本物だった。

だが、前が止まると後ろの奴が迫って来て前後でサンドイッチになってしまう。

それで終わればいいのだが、左右の奴が俺に尻を向けて完全に外敵から守ろうとしてか押しくらまんじゅうのようになってしまう。


「じゃあフォーメーション変更だ」


今度は前に一人、後ろの左右が二人で前と左右で腕を繋ぎ、騎馬戦のように俺を腕の上に持ち上げる。


「姉さんのケツ最高っす」

「今日は黒っすね。アダルティーで似合ってるぜ」

「お前らずりーぞ!俺には何も見えん!」


仲間割れして終わった。


そもそもこれでは武器が持てないと言う事を全員が失念していた。


「であればこうだ!」


一人のドデカイ男が俺を肩車にした。


「これなら武器も触れるぜ!」


「俺が的になってないか?魔法とか矢を当てて下さいって言ってるようなもんだぞ」


「チッ!この柔肌にスリスリ出来たのによぉ!」


またもや却下だった。


「まあ、滅多に魔法を使う奴は出てこないがな」


「いつもの連携はどうしてんだ?」


「単純に前衛と後衛だな、俺らは。足の速い奴や斥候役が前で、攪乱している所を後衛の主力がヤル殺すんだ」


「俺らはタンク役が前で、後衛の主力が後ろだぜ!」


「イヤイヤ!全員横並びでタコ殴りだろうよ!」


「馬鹿言うなよ!縦一列でラインアタックだろ!」


「このクソが!矢で牽制してから全員特攻だろ普通!」



全員めちゃめちゃだった。


「よーしお前らの事はよーく分かった!斜めの前後左右に並べ!して俺にその盾を貸せ!これで前からの防御と周りの防御はかんぺき……あれ?!」


デカいタワーシールドを保持する事が出来ず、そのまま前に倒れてしまった。


「姉さんケツ丸見えっす…………」




結局、前を横一列で四人並び、後ろはV字型で四人守る。左右はバラバラの遊撃隊で行う事になった。

一応な。


 怖いと言う事はあるんだが、男としては戦闘に興味がある。って言うかやってみたい気持ちは沢山あった。

ひょっとしたら経験値が貰えてレベルアップするかもしれないだろ!

この体力の無さが少しでも減ればもっと楽しい人生が送れるような気がするんだ。


その日から練習を2日に1回はするようになった。


そして冒険者ギルドへパーティーの集まるクラン設立を提出。

クラン名:クリムゾン

クラン代表:クリムゾン・ハルとなった。




「ハルさん!漸く戦闘衣が出来たよ!」


ある日、ハウンゼン・シュタイナー子爵が朝食後に春の部屋に訪れていた。


「お願いしていた冒険者服ですか?」


「ああ、隣の都市まで送って防御力を上げる付与までした一品物だ!さあさあ取り敢えず着てみて!」


「でも、一度も採寸してな――」


「私の目に間違いはないので大丈夫だ!」



何だこの自信は!

まるで舐め回す様に俺の身体を下から見上げて丸裸にされている様な感覚!

ひょっとして!?


「透視の魔法が使えるとか?」


取り敢えずデルタゾーンを手で隠して見た。



「心眼だ!心の目で見るとその柔らかな服すら透けて見えるような気がするのだ!ぶわっはっはっは!」


バカ笑いしている子爵を放って置き、寝室で頼んでおいた戦闘服のフィッテイングを行う。

アンに着替えを手伝ってもらうが、一度裸にされてしまった。


「着る順番があるのです。初めにこれを着まして……」


パッと見た所黒と赤しか色合いが無い。それにいつもの破廉恥な服と余り変わらない気が…………


「こ、これは……」


コルセットはホックとベルトが前で止める奴で、その上についている胸用のカップは今までと殆ど変わらない支えるだけの露出狂仕様のオフショルダータイプ。

コルセットの腰の部分にはパチンと留めるスナップボタンでヒラヒラのスカート代わりの布切れを留め、コルセット下から伸びるベルトには足に履く網タイツを留めるように出来ていて真っ赤な膝上ロングブーツと腕の付け根までのロング手袋を付け、最後に紫の蝶々をあしらったレースの下着を穿いた。


ドロ〇ジョ様のエロバージョンじゃん。



「おおッ!着てくれたか!」


「何ですかこのドエロい服は?」


「女性の戦姿は戦意を鼓舞するものだ!服はブラックアリゲーターの皮で作った耐電、耐火、耐物理攻撃の付与がされてあるお腹を冷やさないビスチェ!スカートはロック鳥の羽毛で作った耐寒、耐熱仕様の冷暖房付き!網タイツはマッドスパイダーの糸で編んだツルツルスベスベの防毒、防麻痺仕様!グリープはレッドマックスボアの皮で作った速度アップ、耐衝撃の付与を付けた快適仕様!更に足裏にはクローラー付き!ガントレットはレッドパンサーの皮で作った筋力アップと弱点探査システム装備!〆て大金貨30枚だ!」



仁王立ちしている子爵。

こ、こんな物に大金貨30枚……300万円も掛けて。


「で、この下着も何かあるんですか?」


「それは私の趣味だ!どうだ!」


自慢すんな!ゴリゴリのエロ趣味じゃねえか!

子爵は俺の前にしゃがんでスカートをひらりひらりとさせて下着を覗いていた。

まあ、“グ”が見えて無いなら布切れくらは見られてもいいけど(いいのか!?)


「しかもパンツ以外は自動攻撃システムが付いており、相手の意思を感じ取った後に自動で攻撃が行われる!」


「そっちの方が怖いわ!」


「例えばだ、この様に無意識で胸を押して見ると……」


子爵は人差し指でカップの先をふにゅっと押し込んだ。


「ふがああああああ!」


全身が光り輝き骨まで透けて見える!


「ふー、この様に心の深層まで読み取って邪な相手を攻撃するのだ!」



お前が一番邪悪だわ!

それに電撃喰らっても大丈夫とは!流石は武闘派子爵。


「下着にも何か仕掛けてないだろうな」


「安心しろ、イモスラの糸で作られたおパンツは、このリモコンでしか反応せん!この様にポチッとすると……」


「うッ! ああああああやッ やめッ ダメッ それはダメな奴ッ!」


下着全体が細かく振動する!

敏感な所がビンとなってカンとなってジュンじゅわーって!


「ぬははは、ええか?ええか?ええのんか?」


「ええい!やめええい!」


俺は渾身の力で踵落としを子爵のド頭に落とす!


「ぶぎゃッ!」


頭の頂点に筋力アップで倍増されたグリープと言っているブーツがめり込んだ!


「ふんッ!このリモコンは貰っておく。ローブを!」


「はい!ハルさま!」


ローブに袖を通すと、律儀に左胸の所に『クリムゾン』と刺繍が入っていた。


「小学生かッ、ギルドに行ってくる!」


俺は新しい装備を身に纏いギルドへと向かったのだった。

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