第5話 テンプレ?

◆◆◆ 第5話 テンプレ? ◆◆◆



 冒険者ギルド


そこは暴力と酒と金が動く、強者達が住む巣窟。

今までそう思っていた。

商業ギルドと違い、綺麗なドアでは無く、ウエスタン調のドアのように中央だけある両開きのドアを開きながら入る。


作りは商業ギルドと似ているが、カウンターの反対側にある仕事の内容を掻いている紙が貼っている掲示板。

そしてその奥には、やはり酒場が繋がっていた。


まだ朝になってそれほど時間も経っていないからか、殆どの人が掲示板に群がっている。


その掲示板に群がっていた冒険者が皆、そう、ギルド内にいた全員が一気に俺を見た!



ギランッ!



下品な首笛を拭く厳つい男

下から舐め回すように値踏みをする2mを越える大男

腰を突き出しグラインドさせて見せつけるハゲ親父

ポケットに手を突っ込みポジを直す筋肉達磨

無意味に力こぶを出して見せる痩せたジャンキー

葉巻を咥えボトリと落としたのも気が付かない剣を三本持った男

フルフェイスの完全プレートアーマーを装着して見ているであろう不気味な奴


皆、目がギラ付いていた。



舐められたら殺される!



そう言う思いで一人位は金髪のイケメンか、女性だけのパーティーがいないかと立ち止まって見回すが、そんな奴は誰一人としていない。


顎を突き出しハイヒールの7cmブン高い視線から見下ろそうと思ったが、殆どの奴が俺よりも高く、そしてデカかった!




「すみません!!ポーションって買ってくれます?」


脱兎の勢いでカウンターに駆け込んだ!


「いらっしゃいませ!ポーションの買い取りですね!買取カウンターはあちらになります!



L字型になったカウンターの手前が買い取りだったようだ!


速効移動して足を捻りながら向かい、ポーションを一本出す!



「これが幾らになるか教えて!」


ドン!



横から視線が来ているのが分かる。

これはヤバイ。屈強どころの騒ぎではない。

皆、命を削って戦う戦士。それも騎士などと言う制約から外れた野獣ばかりだ。


「では冒険者ギルド証を出してください」


「商業ギルドじゃだめなの?」


「アチラとは情報共有をしていないので、無ければ作りますか?」


「取り敢えず詳しく教えて!それと4級ポーションの売値も!早く!」


俺は早口で言った!



 この小さく可愛い職員が言うには、ポーションの回転は速い為、4級ポーションは銅貨6枚、売値は商業ギルドと同じ銅貨10枚だそうだ。

殆どのポーションが商業ギルドに持って行かれるので、冒険者ギルドでは出来るだけ保管する在庫を増やし、早急な対応が出来るようにしているとの事だった。


 全てのポーションは商業ギルドよりも少し上乗せしてあり、大事な物なので冒険者ギルド証が無いと買い取る事は出来ないと言う。

まあ、そうだろう。


そしてギルドランクはAからB,C,D,E,Fランクとあるのはお約束。

初めはFランクから始まり、討伐や掃除、お使い、薬草収集などの仕事を積み重ねると上に上がって行くシステムだ。


「では、ポーションを売っているだけじゃ上に上がれない訳?」


「いいえ、あちらの常習コーナーにはすべてのポーションを買い取ると言う仕事が張ってあります。なので、常習的に売って頂けるのであれば仕事の未実行として登録抹消や、証の停止処分は免れます」


「では、初登録の費用は?」


「初回は無料です。再発行からは銀貨5枚になりますので気を付けて下さい!」


「よし!売った!」


「はい!買ったー!」



同じような石板でギルドカードを作ったが、内容は全く同じであり、冒険者ギルド発行、ハル、Fランク、薬師とだけ書かれた鉄のプレートを貰った。


そして俺はバックの中で発現させた4級ポーションを20本、3級ポーションを20本出す。



「4級が銅貨6枚で20本だから銅貨120枚。3級が銀貨1枚と銅貨1枚で20本だから銀貨22枚ですね。全てで銀貨34枚になります。こちらは初登録のカードとお金入れのサービスです」


こっちの方がもうかっているのか革袋が二回り大きかった。

商業ギルドの分が銀貨17枚に銅貨5枚だったので、合わせて銀貨39枚に銅貨5枚ゲットだぜ!



さて、俺はそろそろここを脱出…………



「今ポーション入ったろ!売ってくれ!」

「俺にも売れ!3級を5本だ!」

「馬鹿野郎!人がどれくらいいると思ってんだ!一人一本だ!」

「早い者勝ちだろうが!」

「走るのは遅いくせに!手だけは早えな!」

「お前と違ってパワー重視なんだよ!」

「それは俺んだ!」

「遅い奴いが悪い!」

「残り全部買うぞ!」




まるで新年の福袋争奪戦だった。


しかも野郎ばっかりで…………




「なあ姉ちゃん!」


ギクッ!


ソロソロと出口に向かっていた俺は、裸に皮ベルトを巻き付けたマッド野郎に呼び止められた。



「まだポーション持ってんだろ」


「あ、あの!商業ギルドにも納品しましたが!」


「あっちはお高く留まってていきたくねえんだわ。mだ盛ってるなら買うぜ」


「俺も買う!」

「俺も俺も!」

「お前はくんな!体がデケーから邪魔なんだよ!」

「うるせー!風呂に1週間入らねえ奴に言われたくねえわ!」



ああ、阿鼻叫喚とはこの事か。


「あのーすみません」


まだカウンターに残っていた職員に聞いてみた。


「ポーションの個人売買って大丈夫ですか?」


「結構、個人で武器の売買なんかやってますからね。ポーションの売買も構いませんよ。ただ、此処じゃ邪魔になるので外か、奥の酒屋で行ってください」


「はーい!」


強気だ!

ここは強気でイケ!



「じゃあ、ポーションが欲しい野郎共は付いてこい!」


「「「「「おおッ!」」」」」



俺は睨みを利かせながら野郎共の真ん中をモーゼの様に割りながら進む。

野郎共の喉がゴクリと一斉に聞こえ、足から胸元までが舐め回されるような視線に犯されるのを我慢し、少しコケッと足を挫きながらも奥の酒屋にたどり着いた。

ヒールになれていないもんだから、歩くのに時間が掛かり体中を視姦された気分だった。


誰も居ない酒屋の丸いテーブルに腰掛け、椅子に片足を置いた!


「さあ、ポーションの即売会だよ。欲しい野郎共は一列に並びな!」


「「「「「うおおおおおッ!」」」」」



意外に素直に列を作り出す野郎共。



「横入りすると売らないからね!さあ、お前は何が欲しいんだい?」


「3級ポーションを5……いや10本!」


俺はポーションをバックの中で発現し、テーブルに置いた。


「さあ、これで頑張って働いてきな」


「うぉおおおおありがてええ!姉さん頑張ってぶち殺してくるぜ!」



マッド野郎はお金を置いて前かがみになりながら走って行った。



「さあ、お次の野郎は何が欲しいんだい?」


「ズバリ姉さんが欲しいっす!」


「ならば白金貨10枚稼いでみな!考えてやるわ!」


「そんなぁ頼むぜ!一目惚れだったんだ!」


俺に近寄り両肩を握って揺さぶってきた!



「ちょッ! お!落ち着けッ! くッ ええい正気に戻れ! とあッ!」


俺の目の前に立ったのが悪いのだよ。

俺の細くて長い足が、男の急所である股間を一気に蹴り上げた!


ドガッ! めきょ


「ぬあああッ! 足! 足の骨ええええ!」


脛を押えてテーブルから転がり落ち、地面で転がり回る!



「おい、股間に鉄カップでも仕込んでんのか?」

「いや、自前だが」

「キン〇〇だけに、こいつのは堅いんだよ」

「うっせーな!」

「おい!」

「ああ、白だな」

「うん、いいなあ白は」

「初めては白に決めてんだ」

「姉さんケツ丸出しだぜ」

「足は細いのにケツデケエな」

「骨って騒いでるが大丈夫か?」

「犯人のお前のキン〇〇が悪いんだぜ」

「俺はやられ損か?」

「こんなに弱いとは」

「よく今まで生きてたな」

「俺、親衛隊になろっと!」

「ずりーぞ!俺も仲良くなってポーションもらうんだ!」

「俺も!俺も!」



俺が痛みを堪えて転がっている中、何やら盛り上がっている。

骨が逝ったかもしれないとこっそりと1級ポーションを出し、一気飲みした。



「てめえは一番最後だ!はい次!!」

「そんなぁ殺生なぁ!」




「おい!誰か革袋買ってこい!」



暫くするとテーブルの上には金貨、銀貨が山積みになっていた。

気を利かした山賊のようなやからがお金を入れる革袋を買いに走っていく。


3級ポーション255本、4級ポーション25本。

3級を銀貨2枚、4級を銀貨1枚で売ったから、〆て銀貨510枚と25枚で535枚。金貨53枚分だ!


「ぶはははは!」



「おい赤の姉さんバカ笑いしてるぞ」

「革袋に金を入れている顔の何と幸せそうな事」

「おい、遅くなった。直ぐに森へ行くぞ」

「俺、大事にポーション取っておくんだ!」

「お前死ぬぞ」




 俺は高笑いしたまま革袋をサンタのように肩に抱え、初めての冒険者ギルドを後にした。

その後、繁華街に向かったのは言うまでも無い……

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