第2話 シュタイナー子爵

◆◆◆ 第2話 シュタイナー子爵 ◆◆◆



「ぬおおおおお!やり直しを要求するうううううう!俺の不労所得でハーレム生活が出来ないじゃないかあああああああああああああああああああああああ!」



両手を握りしめ、空へと向かって叫ぶが、何も反応が無かった。


くそう。男って言わなかったか?

こんな女になって女にモテる訳ねえだろ。



「こんなデカパイになって、バランスが悪いったらありゃしない…………ん、んほッこれはッ!」


自分で服の上から触り揉んでみた。

若さの為か、大きい胸が垂れる事無く、前に向かっておっぱいロケットのように整っていた。そしてその柔らかさは今まで触った事の無い柔らかさでありながらも、押し返す弾力と張りが見事で、いつまでも触っていたく…………


「てい!」


虚無の空間を握りしめ、むしゃくしゃした気持ちを投げ捨てた!


「こんなんじゃない!俺は自分の胸が揉みたい訳じゃねえんだ!プリーズカンバック!!」


少し暗くなった大空に両手を広げて神を呼ぶが、何も変化は無かった。


「とりゃー!」


足元の石コロを掴み思いっきり投げ捨てるが、思っていた半分程しか飛ばなかった。


「筋力もがた落ちかっ!」


しかも、ブルンブルンと大きな胸の脂肪が邪魔をしてバランスを崩してしまい、座り込んでしまう。



「ケツもデカくなってクッション性が良いね! うりゃああああ!」



地面に転がりジタバタする。



砂ぼこりに塗れ、街道らしき地面の上で大の字になった。

ああ、どうすっかな~


どうするも何もこの身体で生きるしかないのだが、突然変わった身体を、そう簡単に受け入れる事が出来なかった。




少し時間が経つと共に薄暗くなっていた。



「ああ、夕方か。何処か寝る場所を探さないと……」



それでも平和な日本に育ったせいか、この世界の脅威を考えておらず、うだうだと寝たままで答えの出ない問答を自分の中で行っていた。




ぽてぽてぽて


何かが近づいて来る足音が聞こえる。

それはとても軽く小動物のような雰囲気であった。


顔を上げて見ると、そこには豆芝のような大きさの犬が歩いていた。

その毛色はハスキーのようなグレーで、見ように依っては自分の毛色と同じ銀色と白の二色にも見えた。


「俺は餌じゃねえぞ。食い物なら持ってねえからな」


ムクッと起き上がり座ったまま後ろを振り向くと、驚いたのか、ビクッとして固まる犬コロ。


「ん?お前怪我してんのか?」



よく見れば、子犬は左足を上げて立っていた。


「よし、俺が治してやる。こっち来い」


左手でおいでおいでと呼びながら頭の中で自然に出て来た言葉を唱えた。



「1級ポーション出ろ」



すると、右手の中にスッと何かが出て来た。

それは栄養ドリンクのような大きさで、半透明なガラスの瓶の中に薄い青色をした液体がコルクのような栓で封がしてあった。


自然と声が出たが、頭の中を整理すると、ポーションに関する知識が流れ込んでくる。


ポーションを作り出すには0から4級までのポーションを出ろと考えるだけで良かった。0級は身体欠損などにも効き、数字が多くなるにつれて怪我や病気、体力への効き目が弱くなっていくようだった。


「1級ポーションでは利き過ぎまもしれないが、初ポーションだ。サービスしとくわ。ほらこっち来い」


昔飼っていた雑種の犬を思い出し、栓を抜いて前に出すと、その犬は片足をヒョコヒョコさせながら近づいてきた。その左足は叩かれでもしたのか、妙な角度に曲がっていた。


便をクンクンと匂う犬と視線が合う。

やべぇ可愛いなと思い、手の平にビンの中身を出して飲ませた。


ペロペロと舌が擦れる感じが少しくすぐったい。

大丈夫だと思った犬は遠慮する事無く一気に舐め飲んでいった。


すると犬は微妙に青白く光り出し、傷ついた左足が元の正常な位置に戻って行く。それが分かったのか、犬も足を地面に着いて喜んでいた。


全部中身を飲み干すと、ガラスの瓶や栓は消えるように無くなって行く。


「おー流石は魔法。スゲーぜ」


犬は怪我が治ったのが嬉しかったのか、それともポーションが美味しかったのか、尻尾をフリフリ振り出していた。


見ればまだ子犬。

餌などの食い物を持っていないので試しに言ってみた。


「食い物がないんだ。おっぱい吸ってみるか?」


大腿部半分程のワンピースのような貫頭衣を下から捲り上げてデカい胸を露出させてみた。

自分のデカパイなんだが見る度に思う。


「デッカイから何か出るかもしれねえぞ。ほれ、吸え」


垂れても居ない胸を下から救い上げ犬の前に出してみた。


クンクンと匂いを嗅いだ犬は、おっぱいに興味がないのか、貫頭衣の袖を噛んでクイクイと引っ張り出す。



「なんだ、飲まないのか?今日だけ特別サービスだったのに。ちょっ引っ張るなって!」


仕方なく立ち上がると犬は少し先まで走り、キャンキャンと吠える。


「何だ?何かあるのか?」



走っては吠えを繰り返し、明らかに何か用がある様子であった。


「ちょっと待てって!」


この身体は走るのに向いていない!

以前の身体でも走るのは苦手だったが、この身体は走れば胸やお尻がブルンブルンと揺れ動き、それ以上に体力の無さが響く!


「ちょっと待てって!1級ポーション出ろ!」


立ち止まって栄養ドリンクのような便を開け、仁王立ちしたまま腰に手を当てて一気に飲む!


中身は正に栄養ドリンクの様な味!

そして身体の中から力が溢れるのがありありと分かる!


「うぉおおおお俺様復活!追い抜くぞおおおおお!」


揺れる胸を片腕で押さえ、揺れる尻肉を無視して全力疾走する!



「はあ、はあ、だめだ、疲れる…………」


この身体は基礎体力が全く無かった。100mも走ると息も絶え絶えになり、ポーションを飲もうが飲まないが余り変わりが無かった。



「クソッ はあ はあ はあどこまで はあ はあ はあ連れて行くんだ はあ はあ はあ」



緩やかな左カーブが先に見えた所でその森で見えない所からいきなり爆炎が上がる!



ドゴオオオオオ!



「うおっ! スゲッ! 魔法か?!」


 更に二本程1級ポーションを出して飲みながら何とか緩やかなカーブの所まで来た!

するとその先には横倒しになった馬車と、倒れた二頭の馬、そして何かしらのデカい生き物、そして鎧に身を包んだ騎士らしき人が数人と、汚らしい服や皮鎧を着こんだ野盗のような人も倒れていた!


 見た所、二人の騎士はデカい犬の様な物か、野党とと相打ちになったのか、二人とも足や身体から大量の出血があって倒れ、犬のデカい奴は身体にいくつもの刺し傷が致命傷になったのか、倒れていた。

そしてそれ以外の野党らしき男ら5人は、弱った所を狙っていたのだろうが、全身を黒焦げにして絶命している。

まあ想像なんだが、三身入り乱れての戦闘だったに違いない。

馬車の方にも槍が刺さっており、壮絶な戦いだったと思われた。。



キャンキャン!



俺を連れて来た子犬を見ると、そのデカい犬の側で鳴いていた。


「お前……の親なのか?」


俺は手を翳し、脳内に出て来た言葉を発した。


大回復ビックヒール!」


「0級ポーション!」


俺の持っている最大回復術と薬を出してぶっかけても一切反応が無かった。


体高1.5m、全長3mはあるような親の側でキュインキュインと鳴く子犬。


「残念だけど、もう無理なんだよ」


親の鼻先で鳴いている子犬を抱きかかえ優しく伝える。


自分は何度も死に返りをしたが、こうやって他者の死にざまを見るとやるせない気持ちで一杯になる。


しかし、そうも言っていられなかった。



「誰か生きている人はいませんか!?」


試しに盗賊野盗以外にビックヒールを掛けていくが、誰もピクリとも動かなかった。


子犬を地面に置き、馬車を這いあがり上から扉を開けて見ると、そこには槍に刺さったままの男が苦しんでいた!



「おい!大丈夫か!」


「うっぅぅぅぅ」


微かに息がある!

俺は窓越しにやられたであろう、腹に刺さった槍を握るとグイっと握ると引き抜こうとした!

しかし、この身体は力が無く引き抜けない!誰も見てない事もあり、貫頭衣を尻まで捲り上げてドアを跨ぎ、ウンチングスタイルで両手で槍を握り、渾身の力で槍を引き抜く!



「どりゃあああああああああ!」


腹の筋肉に槍先が締め付けていたのだろうが、やっとの思いで槍を引き抜く事ができた!


刺さっていた槍をその辺に放り投げ、急いで回復させてやる!



大回復ビックヒール!」


真下の反対側のドアの所で死にそうになっている男に最大の回復魔法を投げた!

真っ白い玉が手の平から出て、男の身体に吸い込まれていく!


「0級ポーション!」


即座に出した最上位のポーションを出し、地がドバドバと流れている腹辺りに上からドバっと掛けた!


「0級ポーション!」


もう一本出し、薄暗くなっている暗い馬車の中で倒れて半開きになっている口へとポーションを垂らしていく!


血は直ぐに止まり、喉もゴクゴク動きだした!

よし!多分大丈夫だ!


騎士とは違う良い服を着た男は、ゆっくりと目を開ける。



「あ、ああ、これは絶景かな。見事な満月が照らしておるわ」



片方の口角を上げてニヤリと笑みを浮かべる髭を生やした男。

そして自分の姿を見ると、そこには下半身を丸出しにして大きく足を広げた俺がいた。

って事は、まだ自分でも見ていないアソコを見られてる?!


カッと頭に血が上った俺は、無意識で身体が動いていた。



「もう一遍死ねええええええ!」



スクッと立ち上がった俺は真上にジャンプし、反対側のドアで倒れている男に急降下の垂直ドロップキックをお見舞いした!!


「うげええ!」


ボキッ!ぐにッ


喉元に着地したキックは見事に首の骨を破壊した。

そして俺の足首は捻挫した……


ヒューヒューと断末魔の息をしだした男を見て、これはまずいともう一度0級ポーションを出し、男に飲ませると、重たい尻を振りながら速効で倒れた馬車から這い上がる。

そこで1級ポーションを出して捻挫の回復の為に速効で飲み干す。



「クソッ!自分よりも先におっさんに見られるとは一生の不覚!」


足を開いていた為、“グ”も“ミ”も見えていたに違いない。



横を見ると、一頭のデカい馬が微かに息をしているのを見つけた。


「わりい、見過ごしてた。大回復ビックヒール



手の平から出た白い球をコントロールして馬に吸い込ませる。だが少しは良くなったかに見えたが、腹を斬られたせいか、出ている内臓が治る事は無かった。


「こういう時はポーションか?0級ポーション!」


出したポーションを裂けた腹に半分程掛け、開いた口に押し込み飲ませる。

すると腹から出た内臓は、逆再生をするように腹に戻り、傷も無い皮膚に戻っていく。

そして、目をパチパチした馬は、勢いよく起き上がった!


「よし、ついでだ、もう一本飲んどけ」


もう一度0級ポーションを出した俺は、瓶を上に上げると進んで馬が飲みだした。



「もう大丈夫だろ。遅くなって悪かった」



顔の横を撫でてやると、気持ちよさそうに身体を寄せて来た。



「君が助けてくれたのか?」



纏わり付く子犬を抱いて馬を撫でていると、さっきの男が馬車から這い上がって、馬車の上から見下ろしていた。


「まあ一応、そう言う事になるのかな?」


男は短髪で顎髭を生やした男で、白いシャツの腹に血液のシミを残してはいるが、元気な様子だった。


シュタッと地面に飛び降り、俺にむかって来る。


やべえ、蹴りを入れたのはまずかったか?

倍返しでは効かない仕打ちに文句でも言われるかとドキドキしていたが、それは杞憂きゆうであった。



「いきなり野盗から攻撃を受けて馬車が転倒し、頭を打ったようだ。余り記憶が無いが、意識を失っている間にやられ、騎士に守られていたようだ」



あの犬のデカいのと戦闘じゃなかったのか?

でも、覚えていないのならラッキーだったわ。



「私とその馬だけが生き残りなのかな?さっきポーションを使っていたようだったが」


「ええ、他の人は死んでいたんで無理でしたが。貴方とこの馬はどうにか」


男は味方だった騎士の首元に手を当てて回っている。

頸動脈でも見ているのか?


「薬師でしたか、助けて頂き誠に感謝する。私はこの領地を守っているハウンゼン・シュタイナー子爵です。貴女の名前を聞いても?」



子爵?!領地を守っている?!って事は貴族の領主!?

やったー!ラッキー!良い人に出会えたかも!



「あの……お名前は?」


「あ、はい!えっと、は……ハルです!」


「ハルさんですか、良い名前だ。で独身ですかな?」


「ま、まあ、一応」


何故に結婚しているとか聞くか?

こいつ……


「で、失礼だが御年を聞いても?」


「さ……さあ?」


「さあ?それは言いたくないとの事ですかな?」



若返ったのは分かるが、歳が分からないはダメなんだろうな。


「いや、知らない間に近くに飛ばされまして。身体も変になってよく分からないんですよ」


「それはそれは、大変な事に。取り敢えず、我が領地に向かい、疲れでも癒しましょう。馬車も何とかなりそうですし」


子爵は馬車の横に行き、横倒しになった馬車を起こそうとしていた。



「あっ、手伝います!」


馬車の横に立ち、握れる所を握って思いっきり力を入れた!


「ふんぬぬぬぬぬうぉおおりゃあああああ! あ、無理です。ビクともしません」


俺の行動にジト目で見ている子爵。


「まっ!そんな感じだよね。フンッ!」


ドスンッ!


「え?」


馬車は位置も簡単に正常な位置に戻っていた。



「魔法?」


「そんな物は持っておらん、純粋な力だ、力!」


フンッフンッと気合を入れてポージングする子爵。

これは脳筋か?絶対脳筋に違いない!



「では車輪が少し曲がっているが、走れない事はない。このまま我が領地へと参ろうか!」


「まあ、それしかないっすよね、一緒にいいっすか?」


「おう!ここは俺の領地だ、任せろ!」



 生き残りの馬を繋ぎ、一頭引きの馬車で、車輪をヒョコヒョコさせながら走りだす。

犬コロは、安心か疲れなのか、俺の足の上でヘソを上に出して寝ている。


緩やかな揺れを味わいながら俺も精神的疲れなのか、次第に目が閉じていった。



これが俺の異世界初体験であった。

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