【第1部】ハプニングthroughハル~転移したら女だった

永史

第一章:異世界ハルロード領

第1話 死に戻り

◆◆◆ 第1話 死に戻り ◆◆◆



「春先輩、また残業ですか?」


「ああ、稼げる時に稼いどかないとな」


「そうなんっすか。じゃあお先に~」



 おざなりの言葉を掛けて帰って行く後輩。

深夜まで受け付けているコールセンター業務は、俺に取って助けに船だった。


 物心が付いた時からブサイクと言われ、ブサイクが移るからと男女にハブられ生きて来た。

しつこい虐めにならなかっただけ良かったのか、ねじ曲がった性格にはならず、普通に受け答えも出来ただけに、相手の見えないコールセンター業務は天国だった。

まあ、隣に居たくないと陰口を言われ、ぼっちで仕事を頑張り、その成績もあって29歳で夜間までの主任を任される事になった。


 今更結婚など出来ない事は理解している。

出来れば働きたくはないが、一人の老後の為に目いっぱい働き、老後に備えるつもりだった。

実家は、普通の顔体形の兄が継いでおり、俺が戻る隙間は一切無かった。

正月ぐらいは帰って来るようにとの電話も一切無い。

これが現実かと嘆いた事もあったが、気楽な生活は心の安寧あんねいを保つのにとてもあり難かった。



 俺は役所が付いた為に残業手当が付かない残業を行い、会社を出た。裏通りの古いビルだが、道路には深夜も働くトラックが走っていた。


「あ~帰ってビール飲んで寝るか」


昼からの勤務なので、気楽なモノだった。

人付き合いは嫌われているが、仕事さえ出来れば働ける場所は少ないが無い事は無かった。

出来れば美形に生まれてハーレムを作りながら不労所得でのんびり過ごしたい所だが、現世では無理か。

来世に臨みを託そうと思い、自転車を漕いでいる所だった。



「邪魔だよ!」


ガードレールに座って騒いでいた一人の男に蹴りを入れられた!


疲れた体は回避する事も出来ず、そのまま自転車ごと倒れてしまった!


運悪く、その拍子に走って来たトラックが見えた瞬間。


ぺちッ


と音がして俺の人生は終わった。






「おーよく来たね!」



 死んだと思ったら真っ白い世界だった。

そして目の前には男……いや女か、性別不明の中性的に見えたが、よく見ると絶世の美人のような人一人。


「あれ?俺……死んだ?」


「野中 春君。私はアプロ、君は死んだんだよ~だからボクの所に来たんだ!」


と言う事はこの人は神様?やけに機嫌が良いけど……



「機嫌が良い?だって、君はボクが女神になって初めてのお客さんだからね!取り敢えず、運に任せてこの地球上のどこかに生まれ変わるのと、極上技術チートスキルを持って異世界で転移・転生するのとどっちが良い?」


「心が読めれるんだな。少し質問良いかな?地球上に生まれ変わるって事は日本の何処かなのか?」


「それは分からないよ~日本かもしれないし、ロシアかもしれないし、アルジェリア、アンゴラ、ウガンダ、エスワティニ、エチオピア、エリトリア、ガーナ、カーボベルデ、カナリア諸島、ガボンとか、、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、コートジボワール、コモロ、コンゴ共和国、サントメ・プリンシペ、ザンビア シエラレオネ、ジブチ、ジンバブエ、セーシェル、チャド、トーゴ、西サハラ、ニジェール、ブルキナファソ、ブルンジ、ベナン、ボツワナ、マダガスカル!

マラウイ、マリ、モーリシャス、モーリタニア、モザンビーク、リビア、リベリア、ルワンダ、レソト、レユニオンもあるよ!」


「おいおい、後半はアフリカか?余り聞いた事ない国名じゃねえか。一つの国はネタみたいに地球儀を指さしているし、日本に生まれ変わらせる気がないよな」



「ヒュ~ヒュ~そんな訳ないよね~」



後ろ手に組んで下手な口笛を吹きつつ、何もないはずの石コロを蹴っていた。


「じゃあ異世界だと何の特権が得られるんだ?」


「はい!異世界特権は、基本パックの中に入っている異世界何でも言語集と魔力100倍!それに特殊技術スキルを一つプレゼント!生まれ変りなら王様や公爵などの家が選び放題!転移ならそこら辺で野垂れ死んだ人を再生して美形や体格も弄り放題!さあ選べ!」


「異世界一点張りじゃねえかよ!よし!王子なら危なくないからな、命を大事にで回復ヒール特殊技術スキルを貰って王様の子供に転生だ!」


「はい!受付は終了しました!今から転生しまーす!いってらっしゃーい!」


「おい!直ぐかよ!」



薄れていく意識の中、俺は神の言う事に身を任せた。






「おぎゃー!」


「立派な王子様ですよお妃様!」


「お前さえ生まれて来なければ!天中!」


グサッ


「おッ!」



俺は生まれて5秒で死んでしまった。




「おい!」


「やあ、お帰り。ずいぶん早かったね」



ついさっき見たような風景のと言っても真っ白な部屋で変わらない中、頭を掻きながら俺に挨拶を交わす。



「早いも何も、おぎゃーしか言ってねえぞ。アレは何だ?」


「あそこは後継争いが激しかったみたいだね。次男が後継争いで有利になるように兄弟を殺しまくっている所だった」


「みたいじゃねえし!何も出来ずに死ぬってどういう事?!」


「悪い悪い、今度は上手くやるから!」


初心者の神がもみ手で近寄って来た。



「むぅ、今度は良い所に転生させてよ。今度は後継争いの無い辺境伯爵とかが良いかな、そして特殊技術スキルはやっぱり回復ヒールで!」


「じゃあ初心者パックも付けとくね!行ってらっしゃい!」






「おぎゃー!」


「旦那様!立派な男の子ですよ!」


「ええい!忌々しい!隣国の女を嫁に貰ったばかりに!この手で断ち切ってくれるわ!」


グサッ!


「おッ!」



俺は何もする事無く、再び死んだ。







「おい!何だこれは!」


「あれー?おかしいな、平和な所だと思ってたのに……ッ!ああそうだ、少し前にお嫁さんに貰った隣国の国から和平を一方的に破棄すると言われ、攻め込まれている所だった」


「やけに詳しいな。ワザとじゃないよな」


「まさか……ヒュ~ヒュ~」


下手な口笛だ……まあいい。



「よし今度は転移だ!新しい成人した美形の男を探せ!そこに強制転移しかない!特殊技術スキルは不労所得の出来る回復薬ポーション作りで!」


「あいよ!初心者パックも付けとくで!行ってらい!」





「ぐあ!ここはマグマだらけだ!ドラゴンもいるぅ」


一瞬の間に死んでしまった。





「いらっしゃい!」


「てめえ!なんて所に転移させるんだ!」


「あの男は火口に身投げをした自殺者だった!だから生まれ変りの場所が火山の火口だった訳ね!」


「ね!じゃねえ!やる前に確かめろ!次は美形で背の高い男だ!20歳くらいで魔導士なんかが良い!いいか!場所は平地だ!分かったな!」


「オッケー!初心者パックも付けとくで!いってらー!」





隕石乱舞メテオ!」


「ぬおお!この圧倒的質量に対抗できる魔法が思い浮かばない!ぐああ!」





「おい!アソコは戦場じゃねえか!今度は美形でバリアを張れる結界術師だ!」


「初心者パックもつけまっせ!」





「ぬおおお!海のど真ん中じゃねえか!海賊旗も見えるしどないして生き残れるブクブクブクブク……」





「ええい!目指せスローライフ!美形な薬師で回復薬ポーションを作り放題!儲け放題!人がいない静かな陸地だ!」


「あいよ!初心者パックと私の力も追加でっ!」






「おっ!何もない」



 仰向けに寝転がって目が覚めた場所は、木々が覆い茂る場所の横で朝日か夕日か分からないが、木の間から陽が射しこんでいた。


「ヨッコラショ!おっさんか!」


自然に出て来たいつもの掛け声と共にゴロンと起き上がる。


声が甲高い。

腕も細く、貫頭衣から覗く足も細くて頼りなかった。

まあ、今までがチビのデカい身体でドワーフと陰で言われていたのと比べると、スマートで良いかもしれない。

異世界だからか、風で靡く長い銀髪がイケメンの象徴と言う事を確約してくれているようだった。



「この身体はまだ子供?なんか身体のバランスが悪い……なっと!」


胡坐を掻いて座っていた身体を立ち上がらせてみた。

手足が細く長く、身長も今までよりも高い気がした。

それよりも身体を動かす度に揺れる身体、いや、胸とお尻が変な感じだった。


「ん?……………………なんじゃこの胸はあああ!腫れとるやないかい!」


足元が見えない位に盛り上がっている胸を押えると、柔らかくて指が沈んでいく!

貫頭衣の首元を開けて見ると、そこにはネットでしか見た事の無い、生パイがふるふると揺れていた!


「って事は! はあッ!無い!無い!俺のモノが無くなってる!」


股間を押えると、今まで29年間も御世話になって来たチンの棒が無くなっていた!



「ぬおおおおお!やり直しを要求するうううううう!俺の不労所得でハーレム生活が出来ないじゃないかあああああああああああああああああああああああ!」




夕闇迫る街道で俺の声が響ていた。



◇◇あとがき◇◇

三日連続で一日二話投稿します。

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