----第七話----
「へえ、蒼井さん、けっこう飲むんだ」
ミスティシャーベットだった彼女は、今は変身を解いて蒼井さんに戻っていた。
いつものあんまりおしゃれじゃないタイプの丸眼鏡、太い眉毛、芋っぽい。
「芋焼酎、好きなんです。お湯割りにすると最高です」
私は借りた芋ジャーを着て、同じ芋ジャーを着た蒼井さんと差し向いに座っている。
この芋ジャー、同じの二つ買ったのかあ、そうか。
憧れのミスティシャーベットと、いちおうペアルック……ってことでいいのかなあ。
芋焼酎のお湯割りのグラスを傾ける。
おいしいけど、芋尽くしだなあ。
これじゃあ、ミスティシャーベットってよりさ、
「ミスティポテト……」
ふと呟いちゃった。
蒼井さんは私の言ったことがよくわからなかったみたいで、グラスの芋焼酎を一気にあおると、
「宮原さん」
「はい」
「なんか、悩みがあったら、聞きます」
真剣な表情でそう言う。
ああこうしてみると、たしかにミスティシャーベットだなあ。
ちゃんとメイクしたら、絶対にスーパー美人じゃん、この子。
気づかなかった私が馬鹿だったかもなあ。
「宮原さん、悩みとか、つらいこと、あるでしょう?」
……どうだろう、最近はミスティシャーベットに逢いたすぎてどっちかというとワクワクドキドキしかしていなかった。
蒼井さんはグラスに芋焼酎を雑に注ぐと、それをストレートのまま口にする。
「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……」
喉を鳴らして焼酎のストレートを飲み干す蒼井さん。
「ぷはぁっ! ふぅ……。……けぷっ」
「……いい飲みっぷりだね、蒼井さん……」
「宮原さん、私は悲しいです」
蒼井さんは、いきなりぽろぽろ泣きながら話し始めた。泣き上戸タイプか。
「宮原さんは、自分のこと、嫌いなんですね」
「はい?」
「だから、そうやって自分をいじめるようなこと、いつもしてるんですよね?」
どっちかというと、私は自分が好きだけど……?
「だってそうじゃないですか、今日だって自分からあんな危ない場所にいって、わざとですよね、あんな輩に自分を襲わせようとして。なんですか、私は悲しいです。自傷行為とか破滅願望とか、きっと過去に何かあって、それで自分を大切に思えなくて、自分をめちゃくちゃにしようとか思って、それでこういうことしてるんですよね? 自分を傷つけるようなことをして、その痛みでやっと生きてるっていう実感があるんですよね? 痛みこそが宮原さんの人生そのものなんですよね?」
なんですよね? と、言われても。
いやあの、違います。あなたに逢いたいっていう恋心でして……自傷行為とか、別に考えてもないです。だっていつも絶対あなたが助けにきてくれるから……その確信があってやってただけで……。
あーこりゃ完全に勘違いされてるなー。
どうしよ?
蒼井さんはずりずりと膝ずりでテーブルを回りこんで私の隣に来ると、私にすがりつく。
そして、涙でいっぱいになってとろけたような瞳で私を見つめると、濃い眉毛をハの字にした泣き顔で、
「宮原さん! きっとなにかあって愛情に飢えているんですよね? 私、私は……私はあなたのことを、大切な人だと思ってます! あなたがあなた自身をそう思えなくても、私がそう思ってるんです!」
まじでっ!? うれしいんだけど!!
「お願い……お願いだから、もう、自分をいじめるのはやめてください……」
「うん、ごめんね……」
私は蒼井さんを抱き寄せた。
やわらかくて、あったかい。
本人だから当たり前だけど、ミスティシャーベットと同じ匂いがする。
頭がクラっとして、胸がいっぱいになって、ドキドキした。
あ、やばい、ミスティシャーベットじゃない方の、こっちの蒼井さんも、私、好きだ。
「ごめんね、蒼井さん、もう二度と、ああいう危険なことはしないから……」
「ほんとうですね? 約束ですよ……」
蒼井さん、そのまま私の膝にすがりついて膝枕状態ですーすーと寝入っちゃった。
そうだよね、残業して私を助けて、疲れたよね、おやすみなさい。
私は足がしびれるのもいとわずに、蒼井さんの身体をなでなでぽんぽんし続けた。
ありがとね。
――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
次回最終回です
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